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[化学療法アップデート][07 Autumn]
実地医が知っておくべき疼痛管理の基本
「オピオイドの使い方」、「痛みの診断」、「医療用麻薬の取り扱い」を中心に

2007/10/19
日経メディカルCancer Review

 痛みの種類や性質に応じた薬剤や投与法の選択を的確に行うことにより、がん患者のQOLを飛躍的に向上させることが可能である。痛みの本質を理解することが、新しい転移を発見する契機になることもあり、がん治療に携わるすべての医師が疼痛管理に関る知識を持つ必要がある。

国立がんセンターがん対策情報センター
がん情報統計部 がん医療情報サービス室長
的場元弘

はじめに

 がん疼痛治療の基本は、1986年の世界保健機関(WHO)が示した、WHO方式がん疼痛治療法であり、モルヒネに加えてオキシコドンやフェンタニルなどの多くの剤形が登場した現在も変わっていない。

 がん疼痛治療法はきわめてシンプルに、疼痛の強さと選択するべき薬剤や、副作用対策薬や鎮痛補助薬についてまとめられている。決して昨今議論されているような鎮痛補助薬を“難渋する痛み”にあれこれ使っていくような複雑なものは本質ではないし、そのような方法を必要とする症例はほんの一部に過ぎない。

 多くの医師が、正しくがん疼痛治療を実践することができれば、多くのがん患者の苦痛は飛躍的に改善する。本稿では、WHO方式がん疼痛治療法の基本を適切に運用していく上で、是非知っておいていただきたい点に注目し、「オピオイドの使い方」、「痛みの診断」、「医療用麻薬の取り扱い」の3つの視点で話題を提供したい。

1.オピオイドローテーションは何のために?

 オピオイドロテーションとは、現在使っているオピオイドを他のオピオイドに変更するというシンプルな方法であり、目的は副作用対策と鎮痛効果の改善である。

 しかし、明確な目的と実施計画の上で行わないと、かえって疼痛治療が煩雑になったり、副作用の悪化などで患者の苦痛を増すこともあるため注意が必要である。モルヒネやオキシコドンなどの経口オピオイドの開始時期には嘔気・嘔吐が問題になりやすく、また便秘は継続することが多い。これらの症状は制吐剤や下剤などの併用によっても症状が残存する場合があり、嘔気・嘔吐や便秘の頻度が少ないとされているフェンタニル貼付剤へのオピオイドローテーションが選択されるケースが増えている。嘔気・嘔吐がある状態での経口投与の継続は困難な場合もあり、非経口投与という点も有利に働いている。

 一方、鎮痛のためにオピオイドの投与量の増量が必要な時期には、患者にとって疼痛の増強時の臨時薬(レスキュードーズ)が不可欠であり、フェンタニル貼付剤へのオピオイドローテーションを行っても、モルヒネやオキシコドン即効性剤による頻回のレスキュードーズが必要であれば、フェンタニル貼付剤を基本薬としても、嘔気・嘔吐や便秘の改善を期待することは難しい。

 モルヒネやオキシコドンは投与経路の区別無く、それ自身が延髄レベルで嘔気・嘔吐を生じさせると同時に中枢性に消化管の運動機能の低下や肛門括約筋の緊張(絞まる)を生じ、便秘の原因となる。さらに経口オピオイドでは、その吸収部位となる消化管壁内のオピオイド受容体を介した直接的な蠕動運動の抑制が加わるために便秘はより重症化しやすい(図1)。

投与経路の変更という選択肢

 前述のオピオイドの副作用を生じるメカニズムのうち、中枢性の副作用については対策の継続は必要であるが、経口投与から非経口投与(持続皮下注や持続静注)に変更することで、消化管壁内のレベルでモルヒネやオキシコドンが直接生じている副作用を軽減することが可能である。持続皮下注や持続静注は投与量の調節が行いやすく、経口投与との換算も行いやすい。また、モルヒネの経口投与は初回通過効果によって、静注や皮下注に比べて、嘔気や鎮静の原因とされる代謝物の濃度が高いため、投与経路の変更には多くのメリットがある。

 オキシコドンについても、従来より上市されているオキシコドン-ヒドロコタルニン複合注射剤(パビナールR 注)を持続静注や持続皮下注に用いることができる(表1)。

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