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連載 DPCへの移行はがん医療をどう変えるか 第3回 [07 Autumn]
乳がん標準パスの遵守状況
国立がんセンターのクリティカルパスを例に

2007/10/18
日経メディカルCancer Review

 分析対象は「090010(乳房の悪性腫瘍)・手術あり」である。GHCが所有する2006年度のDPCデータベースで、DPC別にその内訳を見てみると、約85%の症例は手術のみを実施した症例(090010xx9700xx)であり、続いて多いのが手術に加えて放射線療法も行った症例(090010xx9702xx)である。しかし、乳がんのDPCコードでは乳房の悪性腫瘍の手術コードは「97」のみで、「97」の中に様々な術式が含まれるため、実際に実施された術式を把握するためにはKコード(手術コード)を見る必要がある。

 乳房の悪性腫瘍手術に関するKコードは、K4761(単純乳房切除術)からK4767(拡大乳房切除術)までの大きく7種類に分類できる。今回は手術件数が多いK4764の乳房部分切除術(腋窩部郭清を伴うもの(内視鏡下によるものを含む))とK4765の乳房切除術(腋窩鎖骨下部郭清を伴うもの)・胸筋切除を併施しないもの、の2つの術式に対してがん診療連携拠点病院(以下、がん拠点病院)とその他病院における医療行為の比較分析を行う。

(1)術後在院日数

 まず術後の在院日数を見てみよう。表1が示すように、腋窩郭清を伴う乳がん手術(乳房温存術及び乳房切除術)の国立がんセンターの提示する標準パスでは、術後の入院期間は7日と設定されている。がん拠点病院とその他の病院に分けて比較してみよう。

 図1と図2に示されているように、予想どおりK4764はK4765の術後在院日数よりも短く、K4764でもK4765でも、がん拠点病院の方がその他の病院よりも術後日数にバラツキが少なく、短い期間で退院している。拠点病院では、K4764に関しては2日と7・8日に2つのピークがあり、K4765では7日が最も多い。その他病院では、K4764でもK4765でも日数のバラツキが大きく、特にK4765では7日よりも長いものがほとんどである。

 次に検査、抗生剤の使用、術後点滴抜去と創部消毒などについて国立がんセンターの提示する標準パスと比較してみよう。

(2)術前検査・画像

 表1で示した国立がんセンターの提示する標準パスでは、術前に「胸部X線、心電図、血液検査、マンモグラフィー、細胞診又は組織診、乳腺超音波」と記されているが、入院後の術前検査実施率はがん拠点病院、その他病院ともに低い(表2参照)。これはDPCの環境下、予定手術におけるこのような検査は既に入院前に外来にシフトされて、実施されているからであろう。

 がん拠点病院とその他病院の術前検査・画像項目の比較で、一番乖離が見られた項目はX-Pの実施率であった(表3)。予想に反して、がん拠点病院の方がX-Pの実施率は圧倒的に高いが、これは症例数が極端に多い拠点病院があるため、サンプルの分布上にバイアスがかかっている影響であると考えられる。

(3)術後抗生剤使用

 国立がんセンターの提示する標準パスでは「原則として抗生剤不要(必要な場合は、術直前:第一世代、ペニシリン系推奨)」とされており、乳房の手術で「原則抗生剤が不要」というのはCDC(米国疾病予防管理センター)ガイドラインとも一致する。今回の調査ではほとんどの病院で術日に抗生剤が投与されていることが示された(表4)。抗生剤の使用は、その他病院の方が実施率、実施日数ともに高かった。

 では、どのような抗生剤が投与されているのであろうか。標準パスでは第一世代とペニシリン系が推奨されており、今回の分析症例でも一般的に周術期予防投与に使われるセフェム系第一世代のセファメジンが最も多く使用されていた(表5)。また、後発品の使用に関しては、その他病院の方がより積極的であるように見受けられた。

(4)術後点滴抜去と創部消毒

 国立がんセンターの提示する標準パスでは点滴抜去は「術後1日目」とされている。乳房の手術では、手術直後より経口での食事摂取が可能であることから、この様な内容になっているのであろうが、分析症例を見ると、拠点病院の方が、若干抜去が早い傾向にあることがうかがえる(図3)。

 創部消毒に関しては、国立がんセンターの標準パスでは「原則消毒は必要なし」とされている。CDCガイドラインにおいても「術後手術創に発赤や浸出液など感染の徴候が観察されなければ、追加的な創部消毒が創部感染率を引き下げるというエビデンスはない」としている。表6に示す様に、現在の医療現場では高率でしかも長期間施行されている。がん拠点病院の方がその他病院よりも実施率は高いが、実施日数は短い。

まとめ

 今回はがん対策基本法の柱の一つである「がん医療の均てん化」に向けた現状を、国立がんセンターの提示する乳がんの標準パスを基にがん診療連携拠点病院とその他病院とで、術後日数、術前検査・画像、点滴抜去、術後抗生剤、創部消毒などにおいて比較を行った。平均値レベルで比べると「拠点病院」の方がその他病院に比べて推奨パスに近い医療が提供されていることがうかがえる。しかし、病院間では大きなバラツキがある。

 がん医療の均てん化を促進するには、このような現状を踏まえ、学会を中心としたデータとエビデンスに基づいたガイドラインとクリティカルパスの公開・情報発信が必要である。一方で各病院には、その情報に基づいて継続的なベンチマーク分析を行いながら、クリティカルパスを見直していくことが求められる。こうした継続的な取り組みを行って初めて、がん医療の均てん化が実現できるのではないだろうか。

 現行のDPCでは、進行性大腸がんでのFOLFOX療法のように、ガイドラインどおりに短期入院で治療を行うと大きな減収になるものもある。この連載における重奏低音の一つは疾病別に治療コストを把握することの重要性である。DPC別にコストを把握し、それを基に適切な病院経営を維持するという視点を盛り込みながら、クリティカルパスを構築する努力が大切である。コストに関しては、次回、熱く語りたい。また今回ご紹介した乳がんの分析で、術式別のより詳細な分析にご興味がある読者はDPCマンスリーレポートNo.5(グローバルヘルス・コンサルティング、2007年)を参照いただきたい。

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