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[ルポ・がん医療の現場] [07 Autumn]
がん患者の口腔を守れ がんセンターと地域歯科医が連携
静岡県立静岡がんセンター&静岡県歯科医師会

2007/10/12
日経メディカルCancer Review

写真1 静岡県立静岡がんセンター。日本屈指のがん専門病院だ

 侵襲性の高いがん治療を受けることは患者にとって一つの試練だ。こうした治療によって重い口腔内疾患が発症することが珍しくない。口腔への2次被害を防ぐために静岡県立静岡がんセンター口腔外科が患者の口腔ケアに乗り出し成果を上げている。さらに県内の歯科医らと手を組み、地域をあげて、がん患者の口腔ケアに乗り出した。

 がんを治療のために入院の日が決まった。では、その前に歯科で診てもらおう――。こんながん治療が、これから普及していくかもしれない。がんを治すためになぜ、歯科医に行くのか?「がん治療と口腔ケアは密接なつながりがあることが最近わかってきました」と語るのは静岡県立静岡がんセンター歯科口腔外科部長の大田洋二郎氏だ。

 所属部署に「外科」とあるが、大田氏自身、手術は行わない。口腔ケアを実施することによって、患者のQOLや全身状態の改善を目指す医療に取り組む。がん細胞や組織を直接相手にするわけではないが、まぎれもなく、新しいがん治療の確立を推進しているパイオニア医師といえるだろう。

がん治療は弱き部位に
破綻を引き起こす


 下の口腔病変を写した写真をご覧いただきたい。いずれも、化学療法や放射線治療によって引き起こされた病変だ。口腔部の放射線照射によって、唾液腺が障害され、その結果唾液の分泌が止まり、感染症などを引き起こす例もあるが、全身性の化学療法だけを受けている患者にも、障害が出現している。抗がん剤によって、唾液腺が障害されることが原因の1つだ。

 実は、がんの治療法の中でも、口に最も強い影響を及ぼすのが抗がん剤治療だ。口や食道など、食事が通過する部位にあるがんに抗がん剤を使うと、正常な細胞も攻撃し、口腔粘膜(口内炎)や味覚障害などの原因となる。

 米国がんセンター(NCI)には、全身化学療法患者の40%が口腔粘膜炎を発症し、さらにその半分の患者が重症口腔粘膜炎のために、輸液、麻薬性鎮痛薬の投与が実施されている。

 唾液の分泌が停滞すると、口腔内細菌の増殖をゆるすことになり、顕在化していなかった虫歯や歯周病の進行が加速してしまうことも少なくない。

 「がんで入院したら歯がなくなった」。笑い話ではなく現実に起こっている、がん治療の“副作用”だ。抗がん剤には口渇を有害事象として報告されているものが多い。こうした治療薬を処方されている患者の多くが、口腔病変を進行させる危険性にさらされているということがいえるだろう。

 大田氏によると、米国では口の周りに放射線照射による治療を行う前に、歯や歯肉の病気を治療することが一般的になっている。がんと診断されても、「すぐに治療を開始しなければ手遅れになる」というがんは少なく、数日間から数週間の準備期間を取れることが普通だ。この間を利用して、歯科医と相談して虫歯や歯周病・歯槽膿漏の治療を済ませておくというのは、現実的な作戦と見て間違いはないだろう。

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