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特集 乳房温存 [07 Autumn]
問われ始めた「乳房温存の質」
乳がん医療の新しい課題

2007/10/05
日経メディカルCancer Review

乳房温存手術後の乳房再建

 乳房温存療法の適応は腫瘍径が3cm以下、良好な整容性が保たれると判断された場合は4cmまでとなっている。乳房変形の起こりやすさは腫瘍の位置によって異なる。一般的には、乳房下半分の切除のほうが上半分よりも変形を来たしやすい。B、D領域の欠損は、乳頭が尖って見える「くちばし状」になり、下着がずれやすくもなる。乳房上半分のA、C領域でも、へこみが目立ったり、乳輪乳頭の位置が左右でずれることもある。また腫瘍径が2cm以下と小さくても、もともと乳房が小さい人では変形が目立ちやすい。

 乳房温存手術において欠損部が大きく変形が避けられないときは、広背筋皮弁や脂肪組織を補充する乳房再建術を行うことが多い。最近では、自家脂肪由来の幹細胞を使った方法も研究されている。

 乳房再建には、乳房部分切除に続いて行う一期的再建(同時再建)術と別の日に行う二期的再建術がある。乳房温存療法の場合、放射線療法を行うため、二期的再建術の実施には困難を要する。

 今年の日本乳癌学会学術総会で、岩平氏は、2003年4月~2006年10月までに、温存手術施行患者84人(86乳房)に実施した乳房再建について報告した。対象者のうち放射線照射を受けていたのは64人(66乳房)、人工物再建を実施したのは45人(47乳房)だった。

 例えば、B1D領域の欠損があった患者では、本人が人工物再建を望み、試みたものの、皮膚が破れたため、広背筋皮弁により露出部を覆った。乳房の形は整ったが、パッチワーク状の皮弁が目立ってしまっているという。C領域に変形を来たした患者では、患側は放射線照射の影響が強かったために再建は難しく、健側の乳房を挙上することで、対称性を実現したという。乳房再建にあたり、「健側についての本人の希望を聞いて、左右対称にすることが重要である」と岩平氏は話す。

 一方、大阪大学の玉木氏は、患者が希望すれば術前から乳房再建を計画し、同大学教授の矢野健二氏を中心とした形成外科チームと連携して同時再建術を行っている。同時再建術の強みは、術後の放射線療法も問題なく受けることができる点である。「同時再建術は長時間を要し、形成外科の協力がなければ行えない手術である」と玉木氏。美しい乳房をつくるには、形成外科医の存在が必要だ。しかし今「それをやってくれる形成外科医は少ない」(玉木氏)。

再建は患者にとって希望の光

 放射線療法の併用を前提とした乳房温存療法にこだわることなく、整容性を突き詰めれば、全摘+乳房再建に踏み切るほうがいい、とする意見もある。玉木氏も、「乳房再建を考慮することで術式選択の幅が広がり、しっかり切除ができるという安心感がある」という。さらに近年では、乳頭・乳輪を含め乳房皮膚は残して乳腺を全て切除する「nipple-sparing mastectomy」や、最小限の皮膚切除にとどめて全皮下乳腺を切除する「skin-sparing mastectomy」も行われるようになっている。いずれも乳房再建を前提とした術式といわれている。

 乳がん患者会で行われているアンケート調査からは、乳房再建に関心を持っている患者は、年齢に関係なく増えていることがうかがえる。乳房再建を実施していない医療機関では、乳房再建に関する情報提供が少ない傾向がある。しかし、がんであると知り、薬物療法による脱毛や嘔吐などの副作用を経験し、再発への不安感を抱える患者にとって、乳房再建だけは嬉しい話に違いない。

 1980年代に始まった乳房温存療法の時代から、乳房温存の質、さらに再建の可能性を念頭にがん摘出を考慮する時代に移りつつあるようだ。(八倉巻尚子=医学ライター)

コラム
乳房温存手術後の放射線照射はしないでほしい


 私は、ほぼ毎週1例の頻度で乳房再建術を手がけている。以前は希望しなかったような高齢の患者さんでも、最近は再建を希望する方が増えてきたと実感しており、手術の予約は1年先まで入っているという状態だ。

 全身状態さえよければ、基本的にはどのような患者さんでも乳房再建を行うことができる。乳房温存手術や部分切除、皮下乳腺全摘手術などに加え、乳房全切除でも乳がん組織に皮下組織が残っていれば、人工乳房を挿入することができる。広背筋皮弁や腹直筋皮弁など自家組織でも再建することができる。下の写真は、右乳房を広背筋皮弁で再建し、その後に乳頭・乳輪を作成した例である。

 患者さんの中には乳がんの摘出手術の後に再建手術を受けたものの、結果に満足できず、やり直してほしいといって来院する方もいる。しかし、そうした患者さんは通常の再建に必要な広背筋が使われてしまっていて、修復できず、断らねばならないこともある。技術のともなわない医師が中途半端に再建を行うことは避けてもらいたいと思っている。

乳腺外科医師への要望
「縫い目を残さない」「がんはきっちり取る」


 乳房温存術には放射線の断端照射が不可欠とされ、温存手術を受けた90%の患者さんが放射線照射を受けている。しかし、照射された組織は硬くなり、再建時にその組織を捨てなければ再建しにくく、血行も悪くなり、再建時に皮弁などを剥離すると皮膚壊死になる場合も多い。ティッシュ・エクスパンダーで伸展した人工乳房の挿入時も、放射線を照射された部分は硬くなり伸展せず、形の良い乳房は再建されない。再建する医師の側からすれば放射線治療はしないでほしい。

 よく、講演会などで、聴衆として参加した外科の先生から、「がんを切除する医師が配慮しなければならないことは何か」という質問を受けるが、そのときは2つのことをお願いする。1つは「縫い目を残さない」こと。“ゲジゲジの脚”のような縫い目を残されると、その部分を捨てなければならなくなり、再建に使える組織が少なくなる。私は、外側はテープだけで処理して縫い目は一切残さないようにしている。2つめは当たり前のことだが、「がん組織をきっちり取る」ということだ。再建しても、すぐに再発してしまう例があるが、温存を優先してがんが残ってしまう手術では意味がない。普通に取っていただければ、しっかり再建できる。(談)

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