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特集 乳房温存 [07 Autumn]
問われ始めた「乳房温存の質」
乳がん医療の新しい課題

2007/10/05
日経メディカルCancer Review

 乳房温存療法では、局所再発の制御と整容性という2つの目的を達成することが求められる。しかし、臨床現場では、術後に乳房の変形が強く、患者が不満を募らせることが珍しくない。また術後の放射線療法による瘢痕や拘縮などの皮膚ダメージが、その後の乳房再建への道を閉ざしてしまうこともある。乳房温存手術は、乳房切除術(全摘)に比べて患者のQOLを考慮した術式と位置づけられてきたが、事は単純ではないようだ。

 「“乳房温存”という名前が良くない。乳房温存療法で乳房が残ると言われれば、きれいな形のまま残ると患者は思ってしまう」――。今年開かれた日本乳癌学会学術総会では乳房温存の現状が議論され、その席上こんな意見が参加者の中から出た。ある医師は、「メディアによって、乳房温存率の高い病院が良い病院というイメージがつくられて以来、乳房温存手術を希望する患者が急激に増え、乳房温存手術をしなければ、レベルの低い病院だと思われる」と語った。

 乳がんの手術術式には、胸筋合併乳房切除術、拡大乳房切除術、胸筋温存乳房切除術、乳房温存手術などがある。日本乳癌学会などの調査によれば、乳房温存手術が実施される割合は確実に年々増加している。

 形成外科医であるブレストサージャリークリニック院長の岩平佳子氏は、「温存に対する患者のハードルも高くなっている」と指摘する。医師にとっては「ちょっと変形する」程度でも、患者は「こんな形になるとは思わなかった」と、手術の出来に満足しないケースが少なくない。

 大阪大学医学部附属病院(乳腺・内分泌外科学)教授の玉木康博氏も、乳房温存手術における医師と患者の意識の違いを実感している。術前に丹念に説明しても、「こんなはずではなかった」と言われることもあるという。「食堂のメニューのように写真を見せるという方法もあるが、他の患者さんに見せるために患部の写真を撮ることは、実際は難しい」と話す。

軽視できない放射線の影響

 乳房温存療法では、術後に局所再発抑制のため、放射線療法が不可欠とされる。複数の無作為化比較試験において、放射線療法の併用は、生存率に与える影響は少ないものの、再発率を有意に減少させることが確認されている。

 しかし岩平氏は、放射線療法が再発抑制に必要であることは認めながらも、放射線照射は皮脂腺や汗腺、弾性線維の損傷、血行障害をもたらすものであり、非可逆的な皮膚に、与えるダメージは大きいと指摘する。そして乳房温存療法とは、「部分切除+放射線による熱傷」であるとしている。

 今年の日本乳癌学会では、温存のみならず、再建の立場からも、放射線照射に対して厳しい意見が出た。国際医療福祉大学附属三田病院・形成外科教授の酒井成身氏は、「放射線照射をしていなければ、全例で乳房再建は可能である。再建を希望する人には、放射線照射をしないでほしい」と訴えた。放射線を照射したところは瘢痕が残り、皮膚が硬いために引きつれてしまう。乳房再建の際、腹直筋や広背筋を使ってもうまく移植できず、皮膚が薄くなっているために、人工物を入れると、穴があき出てきてしまうという(文末囲み記事参照)。

 また広島大学放射線科の兼安祐子氏らが、同学会で発表したところによれば、健側の乳房に比べ放射線照射を受けた患側の乳房では皮膚角質層の水分量が平均11.5%減少していた。経年的に見ると、水分量減少率が10%以上の例が、照射後1年間では5割を超え、3年以降でも2割と、放射線療法による皮膚乾燥は長期に及ぶことが示された。

 「皮膚の乾燥には、生活指導で保湿を勧めている。数年後に再建を考えたときでも、皮膚ののびが違う」と、久留米大学医学部放射線医学教室講師の淡河恵津世氏。そして、「乳房温存手術は手間隙のかかる方法であることを患者には説明している」という。

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