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[リポート]ASCO 2007 [07 Summer]
薬剤標的の体系的同定法に関心
ファーマコゲノミクス

2007/07/26
日経メディカルCancer Review

 がん細胞、特に再発がんあるいは転移がんにおいてはがん細胞の活性が高まっており、化学療法に対する反応も極めて低い。その理由として、がん細胞内での遺伝子変異による種々の経路(pathway)や薬物代謝機構に変化が生じていることが挙げられる。

 このため、このような細胞内での遺伝子変異のパターンや特性を知ることで、より効果的な分子標的薬剤の開発や治療薬の選択が可能となる。ASCO2007では進行非小細胞肺がん(NSCLC)における有望なファーマコゲノミクス研究が報告された。

遺伝子サインが非小細胞肺がんの標的治療対象を特定

 がんの化学療法においては、適切な患者に適切な化学療法を施したとしても、肺がん患者ではその70%が治療に反応を示さないことが知られている。これら患者に対しては、異なったアプローチが必要とされる。

 米Duke大学(ノースカロライナ州)ゲノム科学研究所のAnil Potti氏らは、がんへと進展する細胞内経路を同定し、数千の遺伝子の中からその正確なパターンを明らかにする新しいへ検査法を開発した。これらの遺伝子サイン(genomicsignatures)は、臨床医にとって、従来の化学療法の代替となるツールを提供するものであり、この検査法に基づいて、患者は細胞内経路を特別な標的とした薬物療法が受けられようになるという。

 新しい検査法は、個人別のがん遺伝子の活性化の有無を見るのではなく、がんの原因となるすべての遺伝子変異がもたらす経路を同定することにより、よりグローバルな視点を提供することができる。

 検査方法は、腫瘍組織細胞内の数千の遺伝子をスキャニングして、実験室で細胞培養し、腫瘍分子の遺伝子プロフィルを作成する。これらのパターンにより早期および進行がん患者における欠陥経路を同定する。この検査法はすべてのがんに応用できるが、今回、同チームは生存率が15%と低く、乳がんや前立腺がん、大腸がんよりも死亡数の多い肺がんを対象とした。

 研究では、手術、化学療法+放射線療法あるいは放射線療法後に再発の見られたNSCLC患者69例で遺伝子活性の分析を行った。うち49例で他の臓器への転移が認められ、これら症例と事前に登録済みの早期NSCLC患者91例のデータを比較。肺がんの進展に関与するとされるRas、P13K、Akt、Scr、β-catenin、E2F、Mycなどの経路を分析した。

 その結果、分子的経路の変化がほとんど見られない早期がんに比較して、進行NSCLC患者の80%以上において、複数の分子的経路の変化を認めた。さらに研究では、RasおよびAkt経路に変化の見られる患者では、生存期間が55.3カ月と、SrcおよびMyc経路に変化の見られる患者の15.5カ月に比べ、有意に長いことが明らかになった(図10)。またRas、Src、P13K経路に変化を有する肺がん細胞は、これらの経路を標的とした薬剤に反応し、破壊されやすいことも示された。

 Potti氏によると、これら結果を確認するための前向き研究が、2007年後半に開始される予定だという。

遺伝子変異が人口集団における治療反応の違いに関連

 化学療法剤の代謝に影響を及ぼす遺伝子変異が、非小細胞肺がん(NSCLC)の治療において、米国人と日本人との間に反応の違いをもたらすことが、両国間で7年前から実施されているcommon armプロジェクトおける研究で明らかになった。

 米California大学Davis校(カリフォルニア州)医学部教授のDavid Gandara氏らは、がん治療における効果、有害作用が特定の人口集団に属する患者の遺伝子プロファイルの違いにどのように依存しているか検討した。

 新しい分析では、NSCLCに対する標準的治療法であるパクリタキセル+カルボプラチン併用療法を用いて施行された日米3つのフェーズIII試験(JMTO=Japan Multicenter Trial Organization、FACS=Japan's Four-Arm Cooperative Study、SWOG=SouthwestOncology Group米国)の被験者を対象に、3群間の患者での肺がんタイプ、全体的な健康状態、性差、治療法をマッチさせた156症例において、DNAの分析と生存率、奏効率、有害作用との関連性を検討した(表2)。

 DNA分析では、薬剤代謝に関与する6つの特異的遺伝子CYP3A4、CYP3A5、CYP2C8、NR1I2-206、ABCB1、ERCC2の変異を分析、CYP3A4(p=0.01)、CYP3A5(p=0.03)、CYP2C8(p=0.01)、ERCC2(p<0.001)の4遺伝子において有意な相違を認めた。日本人ではCYP3A4、CYP2C8、ERCC2遺伝子の一部にヘテロ(異型)接合タイプを認めたものの、変異タイプは皆無であったのに対し、米国人では、ヘテロ接合、異型タイプが多かった。CYP3A5では双方で多数の変異タイプ認めたが、数は米国人の方が多かった。

 このような遺伝子変異の相違が、臨床成績にどのように影響するかを検討した結果、無病生存期間(PFS)は、CYP3A4遺伝子変異を有する者では、有さない者に比べ2.75倍長いこと、ERCC2遺伝子変異を有する者では治療に対する奏効率が67%低いことなどが判明した。

 これらの相違は、患者のオリジン(米国人or 日本人)よりも、患者個人の遺伝子型(genotype)に関連しており、遺伝子型が治療成績の独立した予測因子となることが示唆された。

 Gandara氏は「本研究結果は、異なった遺伝子プロファイルを持つ世界中の患者に対して治療を行う際に、用量および併用療法において、これらプロファイルの違いを十分に考慮する必要性のあることを示している」。検討症例数が少なく、データ分析の解釈には限界があるが、予定されている人口集団における大規模な前向き研究により、さらにデータが蓄積されるとしている。

「新規の分子標的治療薬に注目した」

 分子標的治療薬の現在の主流はEGFR-TKI(上皮細胞成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤)。今回のASCOでは、Erlotinibを筆頭にEGFR-TKI阻害剤とEGFR遺伝子変異との相関を検討する研究報告が数多くあったが、残念ながら目新しいものはなかったという印象だ。EGFR遺伝子変異を見る場合、その感度や精度が問題になる。われわれが採用している遺伝子増幅法(Scorpion-ARMS)は世界的にも有望な方法であると考えられるが、まだ標準的な検査方法とまではいえない。多種多様な検出技術を比較検討して、標準的な方法を確立する必要があると改めて強く感じた。分子標的治療薬の適応を決めたり、疾患の予後を予測する指標として数多くのバイオマーカーが報告されている。白金製剤の応答マーカーといわれるERCCもその一つだが、報告されているのはいずれもレトロスペクティブな検討によるもの。こうしたデータからバイオマーカーの有無の違いによって異なった生存曲線を描くことができても、プロスペクティブな検討が必要である。

近畿大学医学部ゲノム生物学教授・西尾和人氏(写真◎宮田昌彦)

 注目されるのは、EGFR-TKIなど既知のキナーゼ阻害剤とは異なる新規な作用点を持った分子標的治療薬が数多く登場してきたことだ。c-MET阻害剤は胃がんや腎細胞がんを含む多種多様な固形がんに試みられ、比較的高い奏効率を示した。ゲフィチニブ耐性の非小細胞肺がんでc-METの遺伝子増幅が見られたという報告もある。ゲフィチニブ耐性にc-METが関係しているとすれば、将来はゲフィチニブとの併用も考慮されるだろう。

 AZD2258は、poly ADP ribose polymeraseの阻害剤だが、がん抑制遺伝子であるBRCA1かBRCA2のどちらかに変異がある卵巣がん患者に投与され、高い奏効率を示した。BRCA1とBRCA2の変異は乳がん、卵巣がんの発症リスクを高めることがわかっている。今後、分子標的治療薬はこうした患者に対して優先的に試みられるケースが増えてくると予想され、今後の研究の方向を示す注目すべき報告だ。(談)

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