日経メディカルのロゴ画像

[リポート]ASCO 2007 [07 Summer]
HER2陽性乳がんでのトラスツズマブの長期有用性認める
乳がん

2007/07/19
日経メディカルCancer Review

 乳がんに対するトラスツズマブ(「ハーセプチン」)の使用成績を検討した2つの大規模無作為試験NCCTG-N9831およびNSABP-B-31の新しい長期間合同分析結果が報告された。

 HER2陽性(+)患者に対し、標準化学療法にトラツスズマブを併用することにより、治療開始後4年の時点で、化学療法群に比べ、生存期間の有意な延長と再発リスクの低減という結果が得られた。

 4年間の追跡期間において、トラツスズマブ併用群1989例では無病生存率率(DFS)が85.9%、全生存率(OS)は92.6%であったのに対し、非併用群1979例では、それぞれ73.1%、89.4%。さらに全再発および死亡例は、併用群222例に対し非併用群は397例であった。この結果は、化学療法にトラスツズマブを併用することにより、再発率を52%、死亡リスクを35%低減したことになる。

 報告者の米Mayo医科大学乳がんクリニック(ジャクソンビル)所長のEdith Perez氏は「トラスツズマブはHER2+乳がん患者の医療に画期的な変化をもたらした。研究結果は治療の有意性を示すものである」としている。

 両研究の第1回合同分析結果はNew Engl J Med2005;353:1673-84に掲載されたが、治療開始後2年(中央値)のDFS、OSはトラスツズマブ併用により、それぞれ52%、33%改善されていた。Perez氏は「今回の新しいデータは、分子標的治療の便益が継続していることを示すものであり、非常に重要なものである」と付け加えている。

 再発リスクに関しては、治療開始後2年以内が最も高かったが、今回の研究で長期追跡期間においても再発は継続して見られた。初診時に腫瘍サイズの大きい症例、リンパ節侵襲数の多い症例、HER2+症例は再発リスクが高いことが知られているが、トラスツズマブ併用群では二次原発がんおよび大腸がん発症などの進行乳がんと診断されたものが118例、非併用群では243例であった。

 またNCCTG-N9831においては、トラスツズマブ併用群で心不全例(22例vs. 非併用群1例)を含む心筋の減弱リスクの高いことが判明(2.5% vs. 同0.2%)したが、死亡例は非併用群の1例のみであった。Perez氏は「トラスツズマブによる心毒性は多くのケースで管理可能であったが、これら症例に関しては長期の継続的な追跡が必要」としている。

5年後でもトラスツズマブによる心毒性の増加は認めず

 トラスツズマブの心毒性に関しては、NSABPB-31においてより詳細な検討がなされ、5年間の追跡期間で、早期乳がんに対する化学療法にトラスツズマブ併用による心毒性はうっ血性心不全(CHF)のリスクを増加させないとの結果が報告された。

 NSABP-B-31では、HER2+でリンパ節への侵襲の認められる乳がん患者1850例が、化学療法(ドキソルビシン+シクロホスファミド+パキリタキセル)群と化学療法+トラスツズマブ併用群に無作為に割り付けられ、両群間で無病生存率(DFS)、全生存率(OS)とともに、CHFの発現率が比較された。

 5年間の追跡期間中に、CHFの発現率はトラスツズマブ非併用群898例では1.3%(6例、うち1例は死亡)であったのに対し、トラスツズマブ併用群947例では3.8%(35例、死亡なし)であった(図9)。CHFのリスクファクターとしては、年齢(49歳以上)、降圧薬治療の必要性、postAC(ドキソルビシン+シクロホスファミド治療後)左室駆出率(54%以下)が挙げられた。ただし、CHFの発現率は、試験開始後3年の時点で4.1%であったことから、報告者の米Pittspurg大学(ピッツバーグ)内科准教授のPriya Rastogi氏は「今回の新しいデータから、トラツスズマブによる長期における心毒性の増加は認められないことが示された。初期に心機能の低下が認められた症例でも、時間経過とともに機能の回復が観察されている」と述べる一方で、「長期の心臓への影響に関しては継続的なモニタリングを要する」としている。

低照射療法でも早期乳がんの再発率低減効果得られる

 乳がんの術後放射線療法において、従来の照射量および治療期間よりも低照射量、短期間の療法が、再発リスクを低減する上で、同等の効果を発揮することが、英国での多施設無作為化フェーズIII試験START(Standardisation of Brest Cancer Radiotherapy)トライアルで明らかになった。早期乳がん患者におけるhypofractionation(低分割法)と呼ばれる療法の安全性と効果を示した、これまでに最も大規模な試験結果である。

 早期乳がん患者に対する放射線療法は、50Gyを25分割し、週5日間、5週にわたり照射する方法(1分割当たり2Gy照射)が、現在の一般的なものとされている。

 START トライアルは、ST-A(2236例)とST-B(2215例)の2つのトライアルで構成されている。

 ST-Aでは、術後に50Gy、25分割×5週照射群と41.6Gy or 39Gy、13分割×5週照射群に、ST-Bでは、術後に50Gy、25分割×5週照射群と40Gy、15分割×3週照射群にそれぞれ無作為に割り付けられ、治療乳房での再発(局所再発)および健全な乳房周辺組織での治療効果が比較された。症例の44%において、詳細なX線評価が実施された。

 平均追跡期間5~6年後、2つのトライアルにおいて全症例での局所再発率は極めて低かった。ST-Aでは、5年間の局所再発率は50Gy群で3.6%、41.6Gy群3.5%、39Gy群5.2%。ST-Bでの5年間の局所再発率は50Gy群で3.3%、40Gy群2.2%であった。総照射量の少ないhypofractionationでも、標準療法と同等の治療効果を発揮したことが示された。

 有害作用(副作用)に関しては、ST-Aでの5年間の発現率は39Gy群32%、50Gy群43%、41.6Gy群44%、ST-Bでは40Gy群36%、50Gy群42%であった。ST-Aでは乳房収縮、浮腫、毛細血管拡張、組織硬化率は、50Gy群に比べ39Gy群で低く、ST-Bでは浮腫、毛細血管拡張率は50Gy群に比べ40Gy群で低かった。

 報告者の英Dundee大学臨床腫瘍学のJohn A. Dewar氏は「これらの知見は、早期乳がんでは、再発リスクの増加を心配することなく、安全に従来よりも低照射量の術後放射線療法を施行できることを示唆するものである」としている。

DCISのハイグレード病変にはMRIの方が検出精度高い

 非浸潤性乳管がん(上皮内乳管がん、DCIS)の診断において、特にハイグレード病変に対しては、マンモグラフィー(乳房X線検査)よりもMRIの方がより検出精度が高いとする研究が報告された。

 DCISの診断ではマンモグラフィーが標準診断法とされ、検出率は25%を超えるとされる。DCISすべてががんに進行するとは限らないが、現状では不要な外科的手術あるいは放射線療法を受けている症例も多い。マンモグラフィーは、DCIS病変周辺の石灰化をhighlightingとしてとらえる特性がある。これに対し、MRIはハイグレードなDCIS病変の周辺に出現する血管新生領域を検出することが可能である。

 研究では、乳がん女性5960例を対象に、マンモグラフィーあるいは高解像能MRIによる撮像を行い、このうちDCISと診断した137例(ハイグレード病変82例、ローグレード病変55例)において組織生検による精度の比較を行った。

 その結果、MRIはより多くのハイグレードDCIS病変を同定することが可能であった。マンモグラフィー、MRI合わせて全DCISの50%は検出できたが、うち40%はMRIによるもので、その78%はハイグレード病変であった。これに対しマンモグラフィーの検出率は8%で、しかもその大部分はローグレードの病変であった。

 報告者の独Bonn大学放射線学教授のChristiane K. Kuhl氏は「放置しておけば浸潤性乳がんに進展する恐れがあるハイグレードのDCIS病変の検出には、マンモグラフィーよりもMRIが優れていることが示されたが、実地医療で乳房MRIを奨励するにあたっては、さらなる精査が必要である」としている。

渡辺医院/浜松オンコロジーセンター長・渡辺亨氏(写真◎柚木裕司)

フォローアップが中心だった乳がんの発表

 乳がんではトラスツズマブの術後補助療法の成績が4年にわたって維持されていることが報告された。この術後補助療法の有用性は一昨年の時点で、確認されている。むしろ、この成果よりも、日本国内でいまだにトラスツズマブの適応が「再発後」となっていることが問題であると思う。今年のASCOは乳がんに限っていえば、フォローアップ成績が中心で、新しい発見という点では乏しかったように思う。

 全体を見れば最大のトピックスはSorafenibが肝細胞がん患者のOSを延長させたとするSHARPトライアル。

 これに匹敵するインパクトがある発表は他にはなかったといってもいいだろう。ただ気になるのは、このトライアルに日本からの参加がなかったことだ。

 肝細胞がんは欧米よりも日本に多くの患者が存在するがんであることを考えると残念。世界から取り残されないためにも、こうした国際的なトライアルには日本からも積極的に参加する姿勢が大切だと思う。世界の新薬が日本でなかなか使えない「周回遅れ」の問題は、一時だいぶ改善されたが、ここへ来て、また差が開いてしまったのではないかと懸念を強くしたのが今年のASCOの率直な感想だ。(談)

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

日経メディカル Cancer Review

この記事を読んでいる人におすすめ