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[リポート]ASCO 2007 [07 Summer]
肝・腎は大幅前進、大腸・肺・乳は足踏み
分子標的治療薬に再評価の気運

2007/07/12
日経メディカルCancer Review

がんの国際会議としては世界最大

 世界のがん医療の方向が事実上ここで決まると言われる米国臨床腫瘍学会(ASCO)の第43回総会が、6月1日から5日にわたって3万3000人の医療スタッフ、製薬企業関係者、患者らを集め、イリノイ州Chicagoで開催された。肝細胞がん、腎細胞がん、乳がん、大腸がん、肺がんで注目の化学療法の成績が報告された。(頓宮潤=メディカルライター&エディター、本誌編集部)

 「おおお」

 総会4日目、特に重要な発表が選ばれるプレレナリーセッションで発表されたSHARPトライアルの結果(20ページ、図2)が公表された瞬間、埼玉医科大学国際医療センター教授の佐々木康綱氏(30ページ参照)は、思わず感嘆の声を上げたという。SHARPトライアルは転移性肝細胞がんを対象にした分子標的治療薬SorafenibによるフェーズIII試験。肝細胞がん全生存期間(OS)を改善させたとする初めての成果だった。

 これまでの肝細胞がんの治療は局所療法が主体で、全身治療は望み薄とする見方が一般的だった。今年3月に発行された「がん診療レジデントマニュアル第4版」(医学書院)でも、「肝がん」は悪性黒色腫や甲状腺がんと同様、「抗がん剤の効果はあまり期待できない」がんに分類されている。今回のSHARPトライアルによって、肝細胞がんに化学療法のプラットホームができたことになり、本格的な化学療法時代の幕開けということもできそうだ。

会場のコンコースを行き来きする参加者たち。広い会場は、巨大なASCO の象徴だ

 腎細胞がんでも大きな前進があった。やはりSorafenibが転移性腎細胞がんのOSを改善したことがフェーズIII試験(TARGETトライアル)で明らかにされた。さらに、インターフェロンα2Aと抗血管新生阻害剤ベバシズマブの併用(AVORENトライアル)によって、やはり転移性腎細胞がんのOSの改善が示された。

 肝がん、腎がんなど“小型”のがんが「晴れ」とすれば、患者が多い大腸がん、肺がん、乳がんはいずれも「うす曇り」という評価といえそうだ。ここ数年、目覚ましい進展が続いたために、わずかな成果では満足できない機運が醸成された面がある。事実、肝転移がある大腸がんでは、FOLFOX4が術前・術後の施行でOSを延長させることがわかった(21ページ参照)。転移・進行非小細胞肺がん(NSCLC)では1stラインでベバシズマブ+シスプラチンが無進行生存期間(PFS)を延長させた。乳がんでは、一昨年のASCOで話題となったトラスツズマブによる術後補助療法の効果が4年を経過しても続いていることが確認された。

 しかし、これまで薬がなかったところに薬が登場した衝撃に匹敵する発表はなかったとの指摘もある。乳がん・婦人科がんを中心に参加した浜松オンコロジーセンター長の渡辺亨氏(27ページ参照)は、「乳がんはフォローアップが中心で、no findingだった」と覚めた見方を示した。

 分子標的治療薬は、がん化学療法の可能性を広げたが、今年は事前に期待したほどの成果が得られなかったという声も少なくなかった。「大きながんの生存期間の延長にどのくらい貢献しているのか、冷静に見直す必要を今回のASCOで痛感した」と前出の佐々木氏は語る。

 新しい標的分子も数多く報告されており、水面下で新規の分子標的治療薬の開発が進行していることが強く印象づけられた。“第1世代”の分子標的治療薬の実力と限界がはっきりしてきたことが今回のASCO総会の最大の収穫だったと言えそうだ。

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