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[ルポ・がん医療の現場] [07 Summer]
8拠点病院の連携を実現した「富山型がん診療体制」徹底解剖
富山県

2007/07/11
日経メディカルCancer Review

写真7 富山県がん対策の司令塔であるがん対策推進本部

 では、地域がん診療連携拠点病院は割り振られた各種がん医療に対して、具体的に何を行うのか。

 能登氏は「チェアマンとして、患者さんの状態や治療方法などの情報を、他の拠点病院に向け発信していく。また、受け持っているがん医療について、各拠点病院から臨床データを収集し、国立がんセンターに提供していきたい」と話す。

 また、地域がん診療連携拠点病院7施設が、各種がん医療を分担したもう一つの狙いは、予算の獲得。地域がん診療連携拠点病院に指定されると900万円、都道府県の基幹拠点病院になると1700万円の補助金が拠出される。さらに拠点病院に患者が入院すると、1人当たり200点の診療報酬が加算される。この数字は厳しい経営環境下にある公的病院が、がん医療体制を整備するために魅力的でないわけではない。

アウトカム指標を公表へ 5生率算出の統一基準も

 各拠点病院は、この増額分を何に使おうというのか。

 まず、「がん治療に関するアウトカム指標を公表する。胃、大腸、乳がんについては、すべての拠点病院で、5年生存率を明らかにする計画。さらに段階的に公表部位の拡大を図っていく」(河村氏)。この5生率を正確に算出するため、「がん登録部会」を設け、各拠点病院で運用する統一基準を現在策定中だ。

 また、院内がん登録の精度向上を図るため、がん登録士の養成や登録ソフトの導入、電子カルテの共通化を推進する。富山県では地域がん登録の97%が公的病院からの届出で、そのうち8割が地域拠点病院7施設から出されている。

 このため、「拠点病院のがん登録精度を向上することにより、県全体のがん患者の実態把握やがん医療の評価が可能になる」(河村氏)。

 さらに、専門分野と専門医数、治療内容(各種ガイドラインに基づく標準的な治療法に加え、各病院で実施可能な治療研究分野の手術、治験などの先進的な化学療法、高度医療機器を用いた放射線治療、骨髄移植)など、がん治療に関する全面的な情報開示も行う。

 こうした試みについて能登氏は、「これまで症例数や治療内容、治療内容と5生率の関係などを表すデータは医師個人が収集していたが、今後は、統一基準に基づき、高精度のデータがガラス張りの中で出るようになる。これは患者さんにとって、大きなメリット。富山型がん診療体制の最大のポイントと言っても過言ではない」とアピールする。各拠点病院が公表した治療データは、県立中央病院が主催する「協議会」で検証を行う物々しさだ。

緩和ケア外来を開設 化学療法外来に力も

 ハード面では、緩和ケア外来の開設や化学療法外来の強化を実施する。緩和ケア外来は07年度中に各医療圏に最低1カ所確保すると同時に、現在すべての地域がん診療連携拠点病院に開設されている化学療法外来の充実を図る。県立中央病院では「現在18床ある緩和ケア病床を25床に増床し、専門スタッフを増員する。

 07度中に最新の放射線治療装置『リニアック』も導入し、来年度には化学療法外来を開設する」(飯田氏)。

 また、共同利用型PETセンターと拠点病院とをオンラインで結び、画像情報をがんの診断、治療に役立てる。

 がん検診の受診率向上については、「市町村で受診勧奨の個別通知を行うとともに、早朝や土日の検診、複合検診などに取り組んできたが、これをさらに受診しやすい体制に発展させていく」(河村氏)。

 県ではこれまで、がん予防ポスターやパンフレットの作成、街頭キャンペーンの実施などにより、検診の普及・啓発に力を入れてきた。引き続き5歳ごとの節目年齢者の個人負担の軽減措置など独自の取り組みを強化していく。拠点病院ではタバコ対策の一環として、地域の担当者への講習・研修会や市民講演会などを支援する。

 また、富山県はマンモグラフィを用いた乳がん検診の受診率については全国上位で、「女性のがん発症率1位の乳がん検診を強化するため、引き続きマンモグラフィの導入を進めていく」(加納氏)。

 さらに、がん患者会の拡充や患者とその家族の療養、相談支援体制を整備する。具体的には県東部と西部にある院内のがん患者会(乳がん)を発展させ、県内全域を対象とした患者会にする。また、専門医が応対する「がんホットライン」を開設したり、ケーブルテレビで「がん医学講座」をシリーズ放映したりする考えだ。

 特に相談支援体制については、「相談支援部会」を設け、相談支援センターの人員拡充や患者とその家族への適切な応対のあり方を検討中だ。相談支援センターは県民の認知度が低いため、普及、啓発のためのパンフレットを作成した。

 治験、臨床研究(多施設共同研究)への参画については拠点病院の特性に応じて、積極的に検討していくとしている。

写真8 富山県医師会長の福田孜氏

診療所など地域との連携や研修の充実が成否の鍵握る

 富山型がん診療体制では、拠点病院8施設の「病病連携」が前面に打ち出されているが、病診連携はどうか。拠点病院8施設はDPCの導入を今後の検討課題としていることからも、後方支援体制の充実が求められている。

 これについて河村氏は、「医療圏ごとに病診連携を強化し、がん患者の在宅療養を支援する体制を確立する。これは郡市医師会を始め、訪問看護ステーション、在宅介護支援センターなどとも連携し、在宅療養の患者さんに対し、かかりつけ医を紹介するもの。24時間在宅緩和ケアの実施に向け、拠点病院の緩和ケア外来のバックアップのもと、開業医や訪問看護師らとのネットワークを構築していく計画」と力説する。

 富山県医師会長の福田孜氏も、「拠点病院が8施設あるということは、地域との連携をとるうえで非常に良かった。拠点病院は院内カンファレンスを地域に公開しているので、その延長で、がん診療の研修会を開いてもらいたい」とエールを送る。

 ただ、問題なのは富山県では在宅での看取り、終末期医療に不慣れな開業医が多いという点だ。富山県では地域性も手伝って、他人を自宅にあまり上げたがらない慣習がある。そのせいか、在宅療養診療所の届出件数は全国で一番少ない。

 福田氏は「医師会が中心となって運営している救急医療センターが富山市と高岡市にあり、365日24時間稼動しているため、現実的には在宅療養支援診療所に代わる役割をこの2センターが担っている。しかし、今後は医師会としても、終末期医療の再教育をかかりつけ医に行う必要性を感じている」と応える。

 少子高齢化が全国でトップレベルの富山県だけに、拠点病院と診療所、訪問看護ステーションなどとの連携は、富山型がん診療体制を成功に導く鍵を握っている。

 一方、拠点病院のがん医療に携わる医師やコメディカルなどの研修も大きな課題だ。「研修部会」を設け、今後、研修プログラムなどを策定する計画だが、国立がんセンターでの研修、県立中央病院など拠点病院間での研修は、各病院ともに、マンパワーに余裕がないため、どれだけの人数を研修に割けるか注目される。

 能登氏は「国立がんセンターへ実際に研修に行けるか、県内で互いに研修できる余裕があるか、アンケートを取っている最中。アンケート結果は6月から検討し、8月には研修をスタートする。マンパワー不足への対応は、パラメディカルなどを増員するなどし、対応していくことが考えられる」と善後策を示す。

 だが、能登氏が最も問題視しているのが研修にかかる予算の使い方だ。「出張費や日当が付かず、小額の補充費用しか出ない。これでは自前での主張を覚悟する必要がある。国立がんセンターで研修を希望する職員は多くなりそうだが……」(同)。

 富山型がん診療体制は2次医療圏に複数の拠点病院を置くことで、より地域に密着したがん医療が実現できる可能性があり、財政的、人的資源が乏しい地方自治体を中心に注目されている。だが、拠点病院と診療所や他の病院など地域との連携、医師やコメディカルの研修といった問題も残されている以上、想定通りに進展するためには曲折が予想される。「当初、病院間を自動車で、長くても1時間で移動できると言われていたが、実際簡単に行き来できる距離ではない」という醒めた声も地元にはある。僻地がん医療の打開策として考案された“富山方式”だが、皮肉なことに交通網が発達した都市部の方が、患者の利便性を考えた場合、がん医療を分担、専門性を発揮できる環境にあるのかもしれない。
(ライター:上田昇)

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