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特別企画●がん医療座談会 [07 Spring]
医療改革に現場から声を上げよう

2007/04/05
日経メディカルCancer Review

■個人の責任よりシステムの欠陥を問え

土屋 病院のリスクマネジメントを考えていると、官僚にしろ医療者にしろ、何か起こったときの批判が個人に向けられるという問題があります。マスコミの論調も世論も、個人を責め立てます。そこに至った根本原因を考え、システムのどこを改善すべきか、どういうルールづくりが必要かという議論になかなかならないのは困ったことです。

中田 医療訴訟もそうです。

土屋 ええ。根本的な議論になれば、おかしな反応は起こらないと思います。例えば、次官の汚職が発覚したからといって、官民が一緒にコーヒーを飲んではいけないなどという反応には絶対ならない。職務権限を利用して悪事を繰り返させないためには、どのような改善が必要かという建設的な議論にならないことが問題です。あの次官が悪い、その行政府が悪いと、マスコミもそればかり記事にするわけです。日本は、そこを改善しないとうまくいかないように思います。

小野 攻撃している相手の職業に、自分が就くことを想像するだけの余裕がないのでしょう。だから議論が一方的になります。それは先ほど述べたピアの欠如です。論文のピアレビューも基本的には一緒です。自分が将来責められる立場になるかもしれないことを念頭に置き、ピアとしてサブミットするわけですから。

上 どうすれば相手のことをより理解できるかといえば、本当はこうだと、本音で言ってもらうことだと思います。仲良くならないと本音は言わないものです。仲良くなるには、一緒に働いたとか、一緒に遊んだとか、知り合いである必要があります。

中田 自分の専門性を磨いていくことは重要ですが、それ以外の部分で、交流をベースに教養を広げる必要があることには全く異存がありません。交わるということを、医師が今までやってこなかった、あるいはそういうことがなかったというところが、1つの問題ではなかったかと思っています。

■医師の判断力を強化する研修を

上 EBMという考え方も今日の医師たちに悪影響を与えているように思います。医師という職業は、判断と決断力が非常に磨かれる職種だと思います。なぜなら不十分な情報で判断しなければならないからです。病因はわかっても、手術中出血させてしまう医者はよろしくないわけですが、病因はわからなくても出血させなければ優秀な医者だということになります。EBMというのはエビデンスをたくさん集めて、どちらが良いかをあとから判断するわけですが、それがステレオタイプのドクターを量産しているように思います。例えば高齢者のがんには治験の結果をそのまま適応できないので、各自で判断し、決断しなければなりません。しかしEBMを基本にすると、判断力や決断力が養われません。おまけに大学病院やがんセンターでは、集まる患者もステレオタイプが多いので、ますます応用が利かなくなります。医者の育成という意味では、再考すべき問題だと思います。

土屋 がんの均てん化の話も同じことで、がんセンターという中央の病院が実践することで、全国的な均てん化が可能かといえば、それはできないと思います。がんセンターはかなり特殊な医療環境ですから、やはり地域には地域性を考える必要があります。上先生が言われたように、地域では地域性を考えられる医者でなければ務まらないので、研修を受ければどこでも務まるわけではありません。そういう意味では、ガイドラインやガイドブックが数多く出されていますが、それらはサイドブックで、やはりオンジョブで体得していかないと診療の技術が進歩しませんね。医学の実践医療とはそういうことだと思います。

小松 私はギチギチに体系立てた教育を好みません。大学は医局に入りましたが、1年しかおらず、あとは全部医局との交渉で行き先を自分で決めました。手術も基本的に外科の人に習い、泌尿器科では全く習っていません。

土屋 それは教育に関しても同じで、私は系統立った教育術を習っていません。私がスタッフになったころは、自分たちでカリキュラムを考え、米国の本を読んだり映画を見たりして、オンジョブではこういう教え方だろうと考えながらやってきたわけです。今教育を担当している人間も、私たちが教えたことを見よう見まねでやっているだけです。当センターは124人のスタッフで130人のレジデントを教えていますが、私の下にあるレジデントの専門委員会に、系統立った教え方のトレーニング・システムをつくってほしいとお願いしているところです。

小松 私は、そんな系統立ったものでうまくいくのかなと思いますよ。外と交流しないで1カ所にこもっていると、だんだん朽ちていくし、そもそも教育する側として問題のあるところが多い。ですから、あっちへ行ってもこっちへ行ってもよいと、保証してあげるのが一番重要だと思っています。そして育成に一番必要なことは、評価です。

土屋 それは私も全く同感です。ですから、私は院長になったときに、レジデントが終わった段階で、そのまま雇うことはしないと宣言しました。トレーニングが終わったレジデントはすべて追い出せと言っています。それから院内のレジデントの評価表もつくっています。レジデントにもスタッフの教え方を評価させています。さらに近い将来、第三者に当センターの教育システムを評価させることも考えています。レジデントが終わったら放り出して、水に沈むか、浮かぶかで世の中の評価がわかります。全員が浮かび上がれば、良い教育をしたことになるでしょう。そこで重要なことは、優秀な人間にはまた戻っておいでと、絶対に言わないことです。

小松 研修が義務化される以前の2002年に、6病院で泌尿器科の若い人を育てるためのグループをつくりました。国立がんセンター、癌研有明病院、聖路加国際病院、虎の門病院、都立駒込病院、そしてNTT病院です。まだうまく機能していませんが、とにかく2カ月に1回勉強会を開いています。それから研修医の交換もします。場合によっては大学も入れて、三角トレードをしてもいいと考えています。あとは評価をして、適切なポジションを探してあげることだと考えています。

上 私は少し視点が違います。「守破離」における最初の「守」の段階は、おそらくマニュアル教育が必要だと思います。

土屋 お行儀を教える。

上 そうですね。採血や手術の際の医者のマナーを学ぶことは大変重要です。しかし「破」「離」の段階になると、システム化がなかなか難しい部分です。ただ「離」までできる人はおそらくがんセンターの次代のリーダーになるでしょうし、虎の門病院のリーダーになっていくのだと思います。その一方で、そこまで行けない人もいるわけです。そうした人たちをどう配置していくかが、先生方の悩みになるのだろうと考えています。

小松 そう考えるのであれば、今、地方には潰れかかっている大病院が数多くあります。そういうところに34~35歳の若手の医師を送り込めばいいと思いますね。

土屋 我々の時代は平気で大学を飛び出しましたが、今はそういう勢いがある若手がいません。

中田 必修化でがんじがらめになったということも、多少は理由になっているのではないでしょうか。

土屋 うちのレジデントは1学年30人ですが、ほとんどが教授の推薦状を持ってきます。医局と話をつけてきているわけです。かつての我々の病院のレジデントは、アウトローばかりが集まっていたものですが。

小松 私のところは今、すごく元気のいいアウトローが集まっていますよ。

■医療職の疲弊で医療に集中できない

土屋 少し元気が良過ぎるぐらいでないと、地方の潰れそうな病院に行こうとはしないでしょう。私のもとには、そうした地方の病院から求人の依頼がたくさんきますが、今のレジデントはあまり行きたがりません。ところが、肺がんや胃がん手術で有名な施設のような、設備も人材も整っている病院には行きたがります。「そんなところへ行くと上がつかえていて、うっとうしくて仕方がないぞ」と言いますが、耳を貸しませんね。上がいないほうがのびのびできますから、1人で仕切れるような病院になぜ行きたいと思わないのか不思議です。

上 勤務医や看護師が非常に疲弊しているという問題が聞かれますが、これはある意味、医療崩壊の象徴ともいうべき問題ですね。解決策をどのように考えられますか。

土屋 一つには、労働基準法を守っていない病院が数多く存在するからです。がんセンターの病院長として、私が今一番気になっているのは、国家公務員法の下にあることです。残業をつけるように言っても医者はつけてきません。そして3分の1ぐらいのまじめな職員が出してきますが、すべてオーバーになります。ところが、それに見合った陣容を用意して、仕事量を管理するというような計画性がないわけです。おそらく虎の門の国家公務員共済組合も同じような感覚だと思います。労務管理という考えが定着しない。労務管理というのは悪いことだというのが日本の社会通念のようですが、いい意味で適切な労務管理を医者も行わないと、健全な医療は継続できないと思います。

小松 労務管理をしっかりすると、お金が足りません。

土屋 今の保険収入ではとても医者は賄えないということですね。

中田 医者が疲弊しているという問題の解決は、病院の中の仕事の効率化と分業化にかかっていると思います。医師、看護師などの専門職が、免許がなくてもできるような仕事にかなり忙殺されていますし、例えばレジデントも半分雑用係のように使われていて、本当の意味でのトレーニングが十分受けられないような状況です。

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