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特別企画●がん医療座談会 [07 Spring]
医療改革に現場から声を上げよう

2007/04/05
日経メディカルCancer Review

 がん医療の分野では、患者の急増と医療行為の高度化が同時に進行している。一方で医療サービスを供給する側のシステム疲労も指摘されている。医療事故、医師の偏在、財政難、未承認医薬をめぐる患者団体と医療現場の意識のギャップなど、医療全般を視野に解決をはかるべき問題でもある。医療崩壊を回避するためのシナリオ、必要とされる斬新な視点の必要性をがん医療の論客に語り合ってもらった。
(構成 ◎ 荒川 博之、写真 ◎ 広瀬 久起。東京・山の上ホテルにて)

[出席者プロフィール | 写真向かって左から]
東京大学大学院研究科医薬品評価講座助教授 小野 俊介 氏●虎の門病院泌尿器科部長 小松 秀樹 氏●東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム部門客員助教授 上 昌広 氏 (司会)●国立がんセンター中央病院長 土屋 了介 氏●帝京大学医療情報システム研究センター長 中田 善規 氏

上 本日はがん医療をめぐる現状と課題について、話し合っていきたいと思います。医療崩壊といわれています。我々は、この言葉をどのように受け止めればよいのでしょう。

土屋 まず医療のどの部分が崩壊しているかを認識する必要があります。私は医療崩壊の典型は、救急医療だと考えています。東京で倒れたら、救急車に任せられますか。ほとんどの人が「任せられない」と答えると思います。これでは健全な医療体制とは言えません。ただこれは、救急医療の体制がもともと整っていなかった、体系づけられていなかったのだと思います。崩壊という言葉は悲観的ですが、もともとないものと楽観的に考えればよいと思います。そうすれば、新しくつくっていこうかという希望もわいてくるのではないでしょうか。

上 そうした現状の中で、国立がんセンターはどのようなことができるのでしょう。

土屋 標準的な治療を数多くこなすという点では、かなり完成された病院です。しかしそれは本来の目的ではないと考えています。国内のメディアが毎年、手術患者数のランキングづけなどを発表しますが、主要ながん手術については、がんセンターは常に1位です。しかし私は職員に対し「ナンバー1ではなく、オンリー1であることが我々の病院の使命だ」と常々言っています。税金で運営されている病院であるということは、数をこなすことが目的ではなく、治らない患者を治すためにある、新しいものを開発していくために税金がつぎ込まれるのだということを、我々は認識しなければならないと考えています。厚生労働省が提言している「がん医療水準の均てん化」にしても、標準的な治療に新たな技術や知見を組み入れて、標準化する必要がありますから、我々はそれに貢献しなければなりません。そういう意味では、がんセンターは高次医療を担うだけでなく、頭脳集団としての新たな機能も必要なのではないかと考えています。

■医療崩壊は医療再構築の好機

上 がんセンターは公的機関ですが、中田先生はプライベートの機関である帝京大学におられます。そうした立場で、医療の立て直しをどのようにお考えですか。

中田 医療崩壊の原因についてはよく考えます。医療体制そのものが、医療の外郭からの縛りによって、自由を失っていることをとても感じています。1つは医療費と診療報酬の問題があります。そこを離れて何かを考えても、結局は経営に反映されません。

 崩壊のもう1つの原因は法律です。昨今の訴訟問題にも見られるように、医療者も刑事裁判にかけられるような時代になりました。そうしたことへの対応策を我々は準備していなかったことも問題ですが、非常に大きな圧力になりつつあり、病院経営や医療行為がさらに制限されていくように思われます。

上 この国の医療制度には、メリットもデメリットもあるとは思いますが、霞が関や永田町の意思決定機構は不透明な印象があります。官と民の両方を知っておられる小野先生は、どう思われますか。

小野 行政の意思決定について言えば、本当にだれかが何かを決めていればいいのですが、だれも何も決めていないというのが実情です。私は医薬品が専門なので、その例を1つ挙げれば、新しい抗がん剤を審査するときに、承認という結果の形は見えます。しかし、それがどのようなフィロソフィーに基づき、どのように判断し、どのようなエビデンスに基づいて承認したのかを考えると、危ないところがあります。もちろん薬の善し悪しを見抜く力が、臨床医を含む審査担当者に備わっていないと言っているのではなくて、あくまでも国の組織としての意思決定が危ないという話です。また、薬剤の危険性などが示唆されたとしたときに、そこから先をどうするかについてはだれも共通語を持っておらず、未開の地のようになっています。ですからそこは、上先生をはじめいろいろな先生方が、どうやって踏み込んでいこうかと模索される領域になっているのだと思います。

上 私はもともと血液腫瘍内科医ですから、抗がん剤の話には興味があります。しかも抗がん剤は近年の特許切れ問題を抱える製薬企業にとって、大きな成長分野でもあるわけです。一方で過大な期待を受けるあまり、メディアでも偏った報道をすることがままあります。そうしたとき、だれがメディアに対して意見を言うべきかといえば、それは医療者だと思います。社会がゆっくりと成熟していく過渡期にある今、医療者が意思表示をすることはたいへん重要だと考えています。何もかも厚生労働省や国がやるべきと考えるのは、非常に危険です。国ができることとできないことは明確にあると思いますし、そのあたりを我々は大いに議論して、考える必要があります。

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