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緊急寄稿 第1回 [07 Spring]
DPCへの移行は がん医療をどう変えるか
変わるがん医療を取り巻く環境

2007/04/05
日経メディカルCancer Review

EVEによる症例分析
大腸の悪性腫瘍(上行結腸からS状結腸)結腸切除術

 まずはEVEによる基本的な分析の手順をご紹介しよう。

 EVEは様式1、Eファイル、Fファイルを読み込み、症例ごとに行われた医療行為をパス画面のように示すことが出来る。図1はクリティカルパス使用率が高いA病院の「大腸の悪性腫瘍(上行結腸からS状結腸)結腸切除術」を施行したある症例のパス画面である。図は横軸に在院日数、縦軸に診療行為を示しており、色がついているところで各々の項目の行為が行なわれている。この症例の在院日数は11日で、入院の翌日に手術(結腸切除術)が施行されていることがわかる。

 このようにEファイルとFファイルの情報を活用したパス画面からは、抗生剤の点滴は術日から2日間、食事の開始は術後3日目、ドレーン抜去は術後4日目、末梢血液検査とCRP検査は術翌日と退院日を含めて4回実施され、画像は単純撮影が術日を含めて3回実施されている、といった細かい部分まで正確に把握することが出来る。A病院では大腸の悪性腫瘍結腸切除術のクリティカルパスを非常にうまく運用しており、症例1の診療パターンのパスが典型例である。

 このように症例ごとにパス画面を見ることが出来るので、症例ごとにクリティカルパスが遵守されているかどうかを視覚的に比較し、その内容を検討することが出来る。今までブラックボックスの中にあった医療行為の情報が可視化できるようになったインパクトは大きい。

 EVEには他の病院との比較、つまりベンチマーク機能も備わっており、院内の症例を検討するだけではなく、他病院との比較を行なうことも出来る。図2は大腸の悪性腫瘍で結腸切除術を施行した症例の入院日数を術前と術後に分けて比較したものである(上のA病院も図で示されている)。病院によって在院日数に違いがあるだけではなく、術前日数、術後日数も大きく異なることがお分かりいただけると思う。

 図3は濃い色の術日を基点、「0」として末梢血液検査とCRP検査の実施状況を実施日の分布で示している。上段がA病院、下段がベンチマーク対象の他病院群である。

 A病院では末梢血液検査とCRP検査は両方とも術前にはほとんど実施されておらず、術翌日と術後3日目、6日目そして9日目に行なわれている症例が多い。他病院でも同じように術翌日と術後3日目の実施が多いが、術前や14日目以降の実施もA病院に比べて多いことがわかる。平均実施回数は、末梢血液検査ではA病院で4.3回、他病院群では5.5回、CRP検査はA病院では3.9回、他病院群平均では4.6回であった。

 この様にEVEでは、DPC別に在院日数、周術期抗生剤選択薬剤・投与バイアル数、術後の創傷ケア施行日数やドレーン抜去までの日数、IVHの有無や挿入日数、あるいは術後経口摂取開始日など、クリティカルパスに関する数々のクリニカルインディケーターを備えており、そして他病院と比較するベンチマーク機能を有している。

大腸の悪性腫瘍における
化学療法のレジメン


 EVEを使った大腸(上行結腸からS状結腸)の悪性腫瘍の化学療法のレジメンを紹介しよう。分析にはDPCを既に実施していて、症例数がそろっているDPC実施病院74病院の2006年7月から12月の6カ月間のデータを使用した。図4と5は、大腸がんに対してどの様な治療・処置が行われたのかを示している。(本分析では、一入院毎の診療内容を分析しているため、データ期間に一患者が複数入院した場合は延べ入院患者数としてカウントされている)。大腸がんでは「手術実施・化学療法なし」の症例が全体のおよそ50~60%を占め、約30%の症例で化学療法が実施されていることが分かる。手術も化学療法も実施していない症例が2割弱あるが、これは検査入院やターミナルケアの症例などが含まれているのではないかと推測できる。

 次に、結腸・直腸がんにおける化学療法の代表的レジメンであるFOLFOX療法及びFOLFIRI療法の実施状況についてEVEを使って見てみよう。06年10月18日に開催された日本癌治療学会総会では、米国メイヨー・クリニックのAxel Grothey医師が、米国の化学療法ではFOLFOXとFOLFIRIが一般的で、両レジメンともに同等の効果があると述べたが、日本におけるレジメンはどのようになっているのだろうか?

 図5は化学療法の内訳を示しており、DPC実施病院においては42%の症例でFOLFOXが、23%の症例でFOLFIRIが、35%でそれ以外のレジメンが用いられていることがわかる。

 次に病院別の化学療法の選択の違いを見てみよう。図6は、病院ごとに結腸がんと直腸肛門がんに対するFOLFOX療法とFOLFIRI療法の実施率を示している。100%の症例でFOLFOX療法を行なっている病院、100%の症例でFOLFIRI療法を行なっている病院など、これら2つの学会推奨レジメンが高い頻度で行なわれている病院もあれば、それ以外のレジメンでの治療の頻度が高い病院など、かなりバラつきがあるという印象を受ける。

 この様にEVEのクリニカルインディケーターでは、がん別(DPC別)に自病院と他病院の化学療法のレジメンをベンチマークできる機能を有しているので、一目瞭然で他病院との化学療法の相違点が把握できるのである。

 次回は、病院における化学療法の選択のバラツキに関しての考察を行いたい。このような実証的な分析においては、DPCデータの限界に関しても説明を行なう必要がある。また冒頭で紹介したがん臨床医の「DPCでFOLFOX療法を行ったら・・・薬剤費さえもカバーすることができない!」との悲鳴を検証しよう。各病院の調整係数によって結果は多少異なるが、DPC環境下、短期入院のFOLFOX療法ではほぼ確実に減収になると考えて間違いはない。

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執筆者とグローバルヘルス・コンサルティングの紹介


 GHCは、米国カリフォルニア州アサートン市に本拠を構える急性期医療に特化したコンサルティング会社。もともとは米国の財団法人であるグローバルヘルス財団が外部からのコンサルティングの要請に対応するために作られた組織であり、米国の大学院の研究室のような雰囲気の中、実証分析をベースにした戦略的病院コンサルティングを行っている。日本においてはGHCジャパンを設立し活動している。高度なトレーニングを受けたGHCのスタッフが病院を訪問し、語り部、ファシリテーターとして、そして参謀として病院の活性化のお手伝いをしている。ホームページからはブログで日々のコンサル活動を、また今までにGHCのスタッフが執筆してきたエッセーや論文などがダウンロードできる。

 連載の執筆はグローバルヘルス財団理事長アキよしかわとGHCジャパン社長の渡辺幸子に加えて、「がん研究班」の塚越篤子、相馬理人、濱野慎一3名が行う。塚越はナース、助産婦として豊かな経験を持ち、相馬は歯科口腔外科医の前歴を持ち、濱野は理学博士としてデータマイニングの専門家。

|お|し|ら|せ|
5月22日(火曜日)に東京(明治記念館)で開催される「DPC環境下の日本のがん医療:現状と課題」(主催:新社会システム総合研究所)でGHCは実証的なデータを駆使した分析結果を報告します。特別講演は静岡県立静岡がんセンターの山口建総長と千葉県がんセンターの竜崇正センター長です。詳しくはhttp://www.ssk21.co.jp/seminar/S_07132.html、または(株)新社会システム総合研究所 担当 長谷川(Tel : 03-5532-8850、e-mail:info@ssk21.co.jp)まで。

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