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緊急寄稿 第1回 [07 Spring]
DPCへの移行は がん医療をどう変えるか
変わるがん医療を取り巻く環境

2007/04/05
日経メディカルCancer Review

グローバルヘルス・コンサルティング 渡辺 幸子、塚越 篤子、相馬 理人、濱野 慎一、アキ よしかわ

 今、日本のがん医療は2つの大きな転機を迎えている。1つは、4月1日に施行された「がん対策基本法」。もう1つは、これまでの出来高払いに基づいた診療報酬制度の支払いに代わり、急速に広まりつつある診断群分類別包括評価(DPC=Diagnosis Procedure Combination)と呼ばれる支払い制度である。DPCへの移行は日本のがん医療にどのような影響を与えるのか。この制度を先取りした米国の医療事情に詳しく、また日本国内の多数の病院のコンサルタントを勤めるアキよしかわ氏らに、解説してもらった。

 2006年度の診療報酬改定時点では、DPC対象病院は全国360施設、準備病院が375施設へと拡大された。DPCは急性期医療においては大きなトレンドになり、急性期として生き残る為の「選択」ではなく、もはや「踏み絵」となった感がある。この新しいDPC制度では、今までの出来高制度とは異なり、投薬、注射、検査、画像などが日当点によって包括化される。とりわけ高額な抗がん剤や画像診断を必要とするがん医療においては、DPCによる包括化の影響は大きなものになる。

 あるがん臨床医は学会で「DPCでFOLFOX療法を行った場合、私の病院では1症例あたり、結腸がんで約7万円、直腸がんだと約8万円の減収になる。この額では薬剤費さえもカバーすることができない」と発表した。

 大変革のなか、これからの日本のがん医療はどのような変貌を遂げていこうとしているのか。グローバルヘルス・コンサルティング(GHC)のメンバーが実証データを活用し、日本のがん治療の現状と課題に関して考察を行う。

DPCデータと分析ツール
薬剤の適正使用への応用も

 今回の連載ではいろいろなデータ、特にDPCデータを使った分析の数々をご紹介するが、まずはDPCデータに関して簡単に説明する。

 DPCへ参加する為には、まず「準備病院」として様式1とEファイル、Fファイルと呼ばれる3種類のデータを厚労省へ提出しなくてはならない。様式1は患者の基本的な疾病情報である。「予期せぬ再入院」や「再手術」のような医療の質の指標、あるいは脳梗塞の患者のカテゴリー化に便利なJCSスコアなどの情報が含まれている。一方、EファイルとFファイルはレセコンに入力されているデータを共通フォーマットに従って出力したものである。レセコンから引き摺り出したEファイル、Fファイルには様々な情報が詰まっている。

 例えばどの医師がどの患者に対してどの抗生物質をいつ、どれだけ注射したか、どのような材料を手術で用いたかという細かな情報が含まれている。相澤病院(長野県)や千葉県がんセンターなど、これらの情報を活用し、パスの見直し、抗生剤の適正使用、材料の標準化のような改善努力を既に行っている病院もある。

 相澤病院や千葉県がんセンターのようにDPCデータを用いて、改善を実行するためには、まずはデータを分析することが必要である。DPCデータはフォーマットが厳密に決められているので、データを読み込み、DPCのロジックに従ってコーディングを行い、シミュレーションを行うプログラムを作ることはさほど難しいことではない。既にニッセイ情報テクノロジー、日本医療事務、プリズムなどの企業が、様々なDPC分析ツールを商品化している。GHCも「EVE(イブ)」と名づけたDPC分析システムをメディカルデータビジョン(MDV)社と共同開発した。

疾病別コスト分析などの
機能の追加が欠かせない


 よく、「DPCシステムはいろいろあるが、一体どこが違うのか?」と聞かれる。我々が開発した「EVEが一番!」と言いたいのはやまやまだが、そこは譲って「データフォーマットが決められていてスタンダード化された同じ素材(データ)を使う以上、分析内容はいずれどれも類似してくるでしょう」と答えることにしている。

 また、時々、「DPCデータをこのツールで分析したら何でも出来る」云々といった「ツール至上主義」の発言があるが、これは誤った見解である。分析の素材がフォーマット化されたDPCデータだけに限られている以上、短期的には開発に差が生じても、中期的にはツールの差別化は難しい。違いがあるとすれば、「見やすさとわかりやすさ」、安定的供給と保守、企業への信頼存続といったところであろうか。しょせんツール(道具)はツール、その善し悪しよりも大切なのは、ツールを使う病院スタッフの教育と育成、そして分析結果を医師、ナースなど医療を担う現場スタッフへ説明する能力であろう。

 今後、DPCデータに付加価値を付けていく為には、DPCデータを院内の他のデータとリンクし、単なるDPCのシミュレーションだけではなく、コスト分析などの追加機能を付けていくことが期待されている。GHCはこれまでに日本の350を超える急性期病院において疾病別コスト分析を行ってきた実績がある。2006年には社会保険病院の疾病別コストベンチマーク分析を実行し、社会保険医学会で教育講演として発表した(第44回日本社会保険医学会、教育講演「ベンチマーク分析からみた日本の医療のこれから:社会保険病院はどうなるのか?」)。3月にはコストマトリックス(愛称“EVE’s Apple”)と呼ばれるコスト分析の機能をEVEの追加機能としてリリースした。“EVE’s Apple”は賃金データ、材料・薬剤データ、減価償却データなどをDPCデータにリンクし、症例(患者)ごとに人件費、材料費、薬剤費などを直接配賦しコスト計算を行う。コスト分析に関しては、また別の機会に説明しよう。

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