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ルポ・がん医療の現場 北海道がんセンター放射線科 [07 Spring]
地域格差・科間格差に挑む
放射線診療の北の本丸

2007/04/05
日経メディカルCancer Review

高齢患者の増加で
放射線治療の需要が急伸


 放射線科の需要が増える背景には、がん医療の変遷が大きく影響している。高齢者の患者には手術よりも侵襲性が低い放射線医療を行う機運が高まっている。北海道がんセンターで放射線治療を受ける患者の1割は80歳を超えている。高齢化社会の進展に伴い、高齢者病の側面を持つがん患者の増加も予想される。2015年にはがん患者の数は89万人、放射線治療を受ける患者も15万人から19万人に増えるという予想がある。

 乳房温存にも接線照射が重用される。コンピューターが導入される前の前立腺がん治療では65Gyしかかけることができず、この線量では効果が期待できなかった。しかし、現在はリスク臓器への線量を低くして、がんに限局して高線量を照射できるようになった。10年前は骨転移を除き前立腺がんの治療に使われることはなかったが、今では多くの患者ががん治療に放射線照射を受けるようになった。ほかのがんについても、技術的な進歩によって、線量を上げ、副作用を減らせるようになった。

 技術進歩と同時にその適応となる患者の数も増えている。それに伴って、放射線治療を提供する側のインフラも拡充されていかねばならないはずだが、実際は急拡張する医療に人的資源の供給が追いつかないという問題も明らかになってきた。医療スタッフの労働量が飛躍的に増えることだ。労働の7割は病棟業務に割かれると、西尾氏は言う。西尾氏が医長になった1988年当時の患者は500人。当時の医師数は4人で現在の5人と大きな違いはないが、患者の数は2倍になっている。しかも、治療計画の複雑化、煩雑化、高度化によって、医師の仕事量は患者の数以上に増大している。

 取材に訪れた木曜日。木曜日は、放射線科と耳鼻科、呼吸器内科、婦人科のそれぞれと3つのカンファレンスを開く。ほかに乳腺外科や整形外科とのカンファレンスにも参加する。カンファレンスは放射線科の医師グループが各科の会議スペースに移動する。

 診察室ほどのスペースに5人から20人の医師が集まり、症例の画像を持ち寄り、治療方針を議論する。1例にかける時間は多くの場合、2分ほど。殆どが、治療方針の確認という感じで処理される。分娩室だった部屋でカンファレンスを行う婦人科以外はほとんどの医師が立ったまま、シャーカステンに貼られた画像に見入る光景が繰り返された。

良い治療法でも
経済原理で消滅


 北海道がんセンターの放射線治療の際立った特徴にCs(セシウム)-137を使った小線源治療がある。これは、1.5cm~4.5cmの針金状の白金イリジウムに密封されたセシウム針を患部に埋め込む治療法。舌がんの治療例は、その様子を示したものだ。「手術よりも安く治すことができる」と西尾氏が言うこの治療法だが、現在センター以外の施設では、実施ができなくなっている。使用する施設が減少し、セシウム針を製造しても採算が取れないことから、2001年に製造が中止されてしまったためだ。半減期が30年と長いことから、北海道がんセンターでは、買いためていたセシウム針を使って治療を続けている。

写真4 放射線科の顔、西尾正道氏

 最近は、Ir(イリジウム)-192を線源とする治療が行われているが、半減期が74日と短く、2カ月ごとに購入する必要がある。西尾氏は、この結果、恒常的に購入する施設以外は、この治療法を実施することが難しくなっており、組織内照射の衰退に拍車をかけていると危惧する。

1974年札幌医科大学卒業とともに国立札幌病院(現:
北海道がんセンター)放射線科勤務。88年同放射線科医長、
2004年放射線診療部長、05年統括診療部長、07年1月から
現職。著書に「がん医療と放射線治療」「がんの放射線治
療」「放射線治療医の本音-がん患者2万人と向き合って」
など多数

写真6 舌がんの治療例

 

舌がんの治療には、全身状態や原発巣の状態、頸部リンパ節の状態によって多彩な選択肢がある。しかし、根治を目指す場合の放射線療法は小線源による組織内照射が行われる。以前は、T3・T4例も組織内照射が行われていたが、長期経過観察後の仕上がりや晩期有害事象のリスクを検討すれば、再建術が進歩した現在では、頸部リンパ節転移がないT1(最大径2cm)・T2(最大径4cm)が組織内照射の良い適応である。「北海道がんセンターでは、頸部リンパ節があっても、T1・T2例は原発巣に137Cs針を埋め込む組織内照射を行っている。T1の37人、T2の112人に組織内照射を行い、5年局所制御率は95%、5年累積生存率は77%、5年病原生存率は87%であったという。T1・T2舌がんに対する組織内照射は外科的切除と同等以上に優れた治療法である」(MB ENT,70:54-60,2006)。

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