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リポート1 胃がん術後補助療法 [07 Spring]
胃がんも認められた術後補助化学療法の有用性

2007/04/05
日経メディカルCancer Review

日本癌学会と米国がん学会(AACR)の合同シンポジウムの発表風景(写真:柚木 裕司)

 D2郭清した胃がん患者にTS-1単独による術後補助化学療法を行うことによって生存期間が有意に上昇することが、日本国内109施設が参加した臨床研究「ACTS-GC」によって確認された。胃がんの術後補助化学療法では有効性を証明する十分なデータがなかっただけに、胃がん医療のターニングポイントになるという声も聞かれる。この成果が、具体的に日本の胃がん治療にどのような影響を及ぼすのか、課題は何かを専門家に聞いた。

 「ニューングランド・ジャーナルに載る成果だ」。

 駿河台日本大学病院消化器科部長の藤井雅志氏は、今回の臨床研究ACTS-GCの成果をこう表現した。一流の医学雑誌 New England Journal of Medicineに論文掲載される価値がある研究成果というのだ。「日本の胃がん治療を変えることは疑いようがない」。

 ACTS-GCとは、Adjuvant Chemotherapy Trial of TS-1 for Gastric Cancerの略。図1に示すプロトコールで行われた抗がん剤TS-1を使った胃がん術後補助化学療法の有効性を評価するための無作為多施設共同臨床試験を指す。

 まず、日本の胃がん手術の標準術式(D2郭清)を受け、6週間が経過したステージII、IIIA、IIIBの患者に対して、TS-1を80~120mg/日を4週間服用して、2週間休薬というパターンを12カ月繰り返す群と、手術のみの患者群との全生存率(OS)を比較するというもの。解析された患者はTS-1投与群が515人、手術単独群が519人の合計1034人。2001年10月から登録を開始、当初の設計では5年間追跡することになっていたが、04年から3年目に中間解析を行ったところ、TS-1投与の有効性が認められたことから、第3者機関の効果・安全性評価委員会の勧告に従っての成績発表となった。試験の中心となった国立がんセンター中央病院副院長の笹子三津留氏は、1月に米国フロリダ州で、ASCO(米国臨床腫瘍学会)が主催した消化器がんシンポジウムで発表している。

 図2は、笹子氏がこのシンポジウムで発表したOSの比較。3年OSは、TS-1投与群81.9%に対して手術単独群は70.1%(HR=0.66[O.51-0.85]、p=0.0015)という成績だった。また3年無再発生存率(RFS)もTS-1投与群で72.2%、手術単独群で60.1%(HR=0.62「0.50-0.77」p<0.0001という差が付いた(図3)。ステージ別に行ったサブポピュレーション解析では、ステージII、IIIAでは有意差が付いたが、よりステージIIIBでは差が付かなかった。また当初、5年のフォローアップを予定して始まったが、実際は3年の生存率しか確認されていない。しかし、5年後も結果が逆転することはないことを予測するベイズ流予想確率は99.3%と算定されており、逆転の可能性は殆どないと考えられている。

制御不能の有害事象が殆どない

 胃がんは手術単独による治癒率が高いがんだ。当然、術後補助化学療法がもたらす有害事象には、ほかのがん以上に重視される必要がある。表1は、ACTS-GCで明らかになった有害事象だ。注目されるのは、処方の見直しを余儀なくされるGrade3/4の有害事象の頻度が極めて小さかったことだ。最も高い有害事象は「食欲不振」だが、これは治療の遂行を妨げるものにはならないだろう。

 この有害事象が手術単独と比べ、大きな差がつかなかったことが、良好なコンプライアンスにつながったと専門家は指摘する。表2に示した集計によると、12カ月という長期の服用を65.8%が達成している。米国などでは術後補助化学療法の期間を6カ月とすることが多く、12カ月は長期間の試験が施行されたことを意味する。それでは、9カ月でやめた被験者と12カ月を完遂した被験者で差がつくのかどうかが気になるところだが、そうした解析は行われていなかった。

日本胃癌学会のガイドラインも改訂を促す

 大阪医科大学第二内科講師で、外来化学療法センター長でもある滝内比呂也氏は、この結果を受けて日本胃癌学会のガイドラインや添付文書の改訂が行われると語る。「近く、日本胃癌学会のガイドライン委員会が招集される」という。

 TS-1を胃がんの術後補助化学療法に使用してはいけないわけではなかった。適応はあるのである。しかし、有効性を示すデータが少なく、「胃がんの治療医は自粛していた」(藤井氏)という。2004年4月に改訂された日本胃癌学会編集による「胃癌治療ガイドライン2版」にも、「治癒切除後の微小遺残腫瘍による再発予防を目的として、種々の単剤、多剤併用化学療法の臨床試験が行われてきたが、現在まで、確実な延命効果を証明したエビデンスは乏しい」と「明記」されている。また、TS-1の添付文書では、効能関連注意として、やはり「胃癌、結腸・直腸癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌の場合:術後補助化学療法として、本剤の有効性および安全性は確立していない」と明記されている。ガイドラインや添付文書が慎重な分、多くの医師は表立ってTS-1を使うことをためらっていたという。

 胃がん術後補助化学療法のエビデンスを得ようとする研究は過去にもあったが、外科手術のレベルがばらばらなどの問題点があった。

 米国の手術後に5-FUとロイコボリンを使った放射線化学療法の有効性を検証したINT-0116試験は、「D1郭清すら行わない、胃潰瘍並みの手術」(笹子氏)が多数混在する問題点があった。日本では術後にTS-1の1世代前の治療薬である5-FU剤であるUFT(テガフール・ウラシル配合)を使ったNSAS-GC試験(フェーズ)IIIが行われ、有効性を示すデータが得られたが、症例数が少なく、説得力のある試験とは認められなかった。今回のACTS-GCの結果によってTS-1による術後補助化学療法の有効性とともに、D2郭清の意義も証明されたことになる。

 滝内氏は、「今では胃がんの術後補助化学療法が一切行われていなかったかといえばそうではないだろう。日本の治療史を振り返れば、(TS-1と同じ有効成分を持つ)UFTを1日3カプセル、つまり少量使っていたと思う」と語る。もちろん、この経験的少量化学療法の有効性を示すエビデンスはない。ACTS-GCは、再発後に使われるTS-1と同じ用量を採用している点も注目されるが、とりあえずエビデンスが出た。至適用量であったかどうかは、用量を変えたプロトコールがないので明らかではないが、少なくとも、胃がん術後補助化学療法で出た、有効性を示す初めてのエビデンスであり、ガイドラインや添付文書が書き換えられることは動かしようがない事実といっていいだろう。胃がんの治療において、手術単独は、いわゆる標準治療から逸脱したものと捉えられることになりそうだ。

 滝内氏は今後、胃がん治療における化学療法の比重は高まっていくと予想している。

 「胃がん治療は手術が中心だった。手術の重要性は変わらないが、今後は腹腔鏡下手術など侵襲性が低い術式が、いま以上に行われるようになるはず。そうなれば、術後補助化学療法をしっかりやることがより大切なものになる」。

 胃がんの治療の歴史はACTS-GC以前と以後とに区別できそうだ。それでは、今後のACTS-GC以後にはどのような展開が待っているのだろうか。

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