日経メディカルのロゴ画像

化学療法アップデート [07 Spring]
心臓病をもつ患者における抗がん剤治療
心臓病とがん、どちらの治療を優先すべきか

2007/04/05
日経メディカルCancer Review

心臓病を有する患者への化学療法
注意が必要な3つのリスク

 抗がん剤による化学療法で、心疾患のない患者への、心毒性の知られた各抗がん剤投与では、その投与前後に定期的に心機能や不整脈などのチェックを行うのがよい。一方、心疾患を有する患者は、抗がん剤治療により3つのリスクが考えられる。

1)抗がん剤投与時の補液による容量負荷

 抗がん剤の治療では、抗がん剤を除去(副作用軽減)するために大量の補液(多いもので1日6000ml<に達する)を必要とするレジメがある。したがって、補液の速度や量には十分注意が必要となる。一般的にEF=50%≦で、明らかな心疾患のない方であれば特に補液に関しては問題ないが、EF=40%>の低心機能の患者では補液量や点滴速度に十分注意が必要である。また、EF=40%≦EF<50%の患者は、大半は問題ないが、一部の患者で心不全の悪化や不整脈などの状態の変化を認める症例もあり、注意を要する。したがって、この場合は、治療中の心電図モニター、IN-OUT(各加療ごとの体重の変化)を観察するのがよい。

* * *

症例2/71歳 男性;食道がん : 心筋梗塞で加療中。食道がんで5FU+メトトレキセートで加療中(1回補液量700ml/3時間)、補液量により徐々に体重が増加して58kgで息切れ出現。循環器科でもフォローされていたため、定期の心エコーで著名な心拡大を認めた。EDV193ml ESV135ml EF-30%(6カ月前 120ml-81ml EF-33% 体重52kg)。入院して、利尿剤増量など施行。その後抗がん剤を再開して順調。

コメント: 心不全のある患者(EF40%>)は、少量の補液でも注意が必要である。がん患者の場合、食事の摂取が抗がん剤治療やがんの進行で不規則になったり、食事摂取を進めるあまり過量となったりで、体重の変化が実態を反映しなくなることが多い。この状態での点滴による水分負荷は、時に心機能をさらに悪化させることになるので、心機能の明らかな低下例や、食事が不規則な患者で体重変化が当てにならない場合は、心エコーなどでの定期的な心機能チェックが必要である。

* * *

 さらに心機能の低下症例では、心電図酸素飽和度のモニターをして、IVHカテからの中心静脈圧(CVP;正常範囲に保つ1-7mmHg)の測定をしながら、また場合によってはスワンガンツカテーテルによる血行動態のモニターなどを利用して、輸液量を決めていくのがよい。

2)抗がん剤そのものの心毒性

 表2に有名な抗がん剤の心毒性をまとめてあるが、残念ながらアントラサイクリン系の薬剤が、投与量により心不全の発症を予測できる以外は、使用してみないと心毒性が出現するかどうかわからないことが問題である。したがって、過去に抗がん剤の既往がある場合はよく治療歴を調べる必要がある。このことに関して、Paiら4) は、表3に示すような抗がん剤治療に対して心毒性を示す可能性の高いハイリスク症例の因子を挙げ注意を喚起した。

 抗がん剤による心毒性に関しては、古いものではよく知られており、担当医から相談のうえで、抗がん剤の選択や量などを決めているので、当院では大きな問題は起こっていない。循環器科としては、抗がん剤投与前の心臓の精査、その後の各抗がん剤治療後のフォロー(当院では、抗がん剤の心毒性が疑われた患者は、担当医とともに継続的にフォロー)をしており、加療中に重篤な問題が起こることは極めて少ない。また、抗がん剤の心毒性を軽減する投与方法や薬剤との併用も試みられている4) 。抗がん剤の心毒性が出現した患者のフォローは、慢性期や後遺症の確認されている薬剤の使用例(併用も含め)に関しては、長期のフォローが必要であり、患者自身にもその旨を伝える必要がある。

3)抗がん剤治療ストレスによる心臓病悪化

 抗がん剤治療中のがん患者では、思わぬ心事故が起こることがある。このような症例は、ほとんどがこれまで抗がん剤の心毒性に入っていたかもしれない。実際には、副作用との鑑別が困難な場合もあるが、詳細に検討してみると、副作用より、がんそのものの進行による全身状態の悪化から脱水や低血圧の進行、治療に対する精神的動揺による高血圧、頻脈や自律神経系の異常などにより、基礎心疾患を惹起または悪化させている症例が見られる。

* * *

症例3/76歳 男性;中咽頭がん: 高血圧閉塞性動脈硬化症一過性心房細動、家族歴たばこ;狭心症で加療中、中咽頭がんで放射線と化学療法施行。前日は1日量として3700ml以上の点滴が入っていた。15:30ごろ補液や抗生物質などもあり、時間最大で260ml/hで点滴中に突然呼吸困難から呼吸停止、挿管してICUで急性心筋梗塞による急性肺水腫にて加療。

コメント: この症例は、化学療法によるストレスで急性心筋梗塞を発症し、その際に化学療法で補液をしていたため、急性肺水腫を合併したと考えられた。自覚症状のない無痛性心筋梗塞(心筋虚血)があり、心疾患患者では、モニター使用と頻回のバイタルチェックが必要である。

* * *

症例4/55歳男性;FP-R療法のちタキソテール使用後の食道がん再発: 加療前循環器科を受診して、心機能良好、明らかな心疾患なし。ただし、心エコーで左房径40mm<あり。その後1年半ほど加療していたが、加療中に頻脈性発作性心房細動が出現して、動悸、呼吸困難にて化学療法困難となった。

コメント: もともと不整脈は確認されていないが、心エコーで左房径が40mm<であると心房細動を起こしやすい。さらに、心房細動の場合(心房粗動)著明な頻脈になる(心拍数<120~150拍/分)と動悸、呼吸困難や血圧低下などが出現し、症例のように化学療法が困難になる。抗不整脈薬の投与がよいが、心機能が問題なく頻脈性であれば、とりあえず、ワソラン2~3mg/時間の持続点滴で心拍数をゆっくり下げると症状は改善する。

* * *

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

日経メディカル Cancer Review

この記事を読んでいる人におすすめ