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化学療法アップデート [07 Spring]
心臓病をもつ患者における抗がん剤治療
心臓病とがん、どちらの治療を優先すべきか

2007/04/05
日経メディカルCancer Review

 がん患者が罹患している病気はがんだけとは限らない。がんで受診して、初めて発見される心疾患も稀ではない。どちらの治療を優先すべきかの判断が、治療成績を決定する重大な要因になり得る。化学療法開始前に心疾患を見逃せば、薬が持つ心毒性と相乗的に作用し、重篤な転帰を来す可能性もある。今回、当院で行っている抗がん剤治療患者の心疾患のスクリーニングと心臓のフォローについて症例とともに示す。

 静岡県立静岡がんセンター 循環器科
 坂田 和之、飯田 圭、谷口 安宏

 抗がん剤による化学療法は、がん患者にとって手術や放射線療法とともに必要不可欠な治療法である。化学療法は、手術に比して体に対する侵襲が少なく温和な治療と考えられ、手術が困難とされた患者は、頼らざるを得ない治療である。しかし、一部の患者にとっては、抗がん剤の副作用や治療のストレスなどにより、治療そのものが手術以上に危険性の高いものになることもある。

 実際、化学療法中の心肺停止、突然死が、数%の頻度で起きていることが示されており、これは手術に比較してもかなり高い頻度である。なかでも、治療中の抗がん剤の副作用により新たな臓器障害の発症や、既存の臓器障害の悪化などは、患者にとって治療中だけでなく、その後の死活問題にもなりかねない。

がん患者における心臓病の頻度
虚血性心疾患を中心に

 1996年以降、日本人の高齢化が進むと同時に、車社会、飽食、ストレスの増加は、いったん減少したかにみえた虚血性心疾患をメタボリック・シンドロームといわれる危険因子集合体の出現により明らかに増加させている。

 この事実は、日本人にとっては、近い将来、「2人に1人ががんで死亡する時代」が到来すると予測されることと合わせて考えると、虚血性疾患をもつがん患者が増加してきていることは明らかである。

 要するに、日本人の死因の1位と2位を占める疾患を合併する、いわゆる重症生活習慣病重複疾患患者が増えているということである。このことは、治療方法や投薬方法などに違いが多く、時に相反することすらある。がんと心疾患の治療において、どちらを先行させるか、病態によりどのような治療が適応かなどのガイドラインもなく、がん単独に比して予後不良にもかかわらず極めて曖昧に扱われてきている。

 当然のことながら、がん患者が心臓病を合併する割合は、正確なデータは未だ見当たらない。したがって、偏りは否めないが、静岡県立静岡がんセンターにて、2005年に心臓病を疑われて、心臓カテーテル検査を施行したがん患者から合併率を推定し検討した。結果は、図1のように、がんの種類により心臓病の合併率に差があった。この合併率は、各科より、循環器科を受診するようにいわれた患者のなかからの合併率の推計であり、担当医(科)の循環器疾患に対する認知度によって値が変わることは避けられない。また、実際に心疾患のスクリーニングを逃れて、がん治療中や治療後に心臓病を発症し、循環器科で治療を受ける例が当院でも年間10例前後はある。

 当院における心臓病を有するがん患者の特徴は、(1)半数のがん患者が、心臓病を指摘されることが初めてである。(2)心臓病が疑われた3人に1人が心臓の治療をがん治療に先行して必要とした。(3)がん患者は、非がん患者に比し、重篤な心臓病を有する傾向にある。このような心臓病の存在は、手術治療では、周術期の生命に危険を及ぼし、大量補液や心毒性を有する抗がん剤を使用する化学療法、心臓を照射野に含む放射線療法などでも心疾患の悪化や心機能低下を来し、生命の危険を招く。このように、心機能の低下や心臓病の存在はがん治療を遅延困難にさせるだけでなく、心臓病そのものが命を左右しかねない場合もあり、多くのがん治療の前に、まず心臓の評価が必須となる。

心臓病のハイリスクがん患者の診断
まず問診、次に理学所見が大切

 (1)心疾患の診断には、問診が、まず何よりも重要である。心疾患の既往、心電図異常などの指摘、動悸、息切れ、胸痛などの自覚症状が過去にあったかまたは最近起こっているかどうか、持続時間、労作で起こるのか安静か、それとも両方で起きるかなどよく話を聞く。特に、狭心症のうち冠攣縮性狭心症の診断には、問診が症例1のように重要になる。さらに、表1の冠危険因子を問診する。

 (2)理学所見として、血圧、脈拍(不整脈、心拍数高度の徐脈や頻脈)、心雑音、血管雑音(頸部、腹部から大腿)など。理学所見で明らかな異常がある場合や危険因子数を数え半数以上あれば要注意として、精密検査か循環器医を受診させる。または、定期的に心臓の検査を行う。

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症例1/67歳 女性;卵巣がん : 通院治療にて2回目のカルボプラチンの点滴を施行されていた。このとき胸痛出現後、血圧低下でショック状態となり心電図ではII III AVFでST上昇、その後ICUにて薬物治療にて安定。心臓カテーテル検査にて有意狭窄のない右冠動脈に、アセチルコリン負荷で閉塞を生じ、冠攣縮が誘発された。

コメント: この症例では、3カ月前より夕方テレビを見ているときなどに胸痛が散発していた。このように、過去に胸部症状の出現があることが多い。日本人の狭心症の40~50%を占める冠攣縮性狭心症は、安静やストレスで誘発されるので、よく症状を問いただす。労作時の胸痛は、負荷検査など施行して診断することができるが、安静時胸痛は診断が難しいので注意を要する。

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 以上にて、循環器科を受診された場合、当院では、ほぼ2つの検査で心疾患の有無を判定する。

 (1)心エコー(心臓超音波):これは、器質的心疾患の診断(弁膜症、先天性心疾患、心筋梗塞など)に有用である。また、心機能である駆出率(EF%)の測定と心拡大の有無(拡張末期径:EDV、収縮末期径:ESV、左房径:LA)や心肥大の程度などを観察し、その後のフォローにも有用であるが、残念ながらエコーの映りが悪い患者(10~20%)がいるので、すべてに有用とはいえない。

 (2)負荷心筋シンチ:虚血性心疾患や手術のリスク評価に関しては、海外1) は勿論、日本の循環器学会のガイドラインでも高く評価されている2)。 薬物負荷シンチでは、寝たきりの患者でも評価が可能である。さらに最近では画像収集の際に心電図同期心筋SPECT(QGS)を使用すれば、心機能の解析(EF,EDV ESV)や壁運動解析もでき、心エコーが困難な患者には有効である。

 ただし、負荷シンチでは、冠攣縮性狭心症の診断率は60%程度と低く、また不整脈の評価も不十分で、HOLTER心電図などの検査が必要となる。また、負荷シンチは、高齢で運動負荷が不十分であることが予測される患者に行うのがよく、十分負荷ができる患者では、トレッドミルや自転車エルゴメータなどで十分である。マスターやダブルマスターは極めて診断率が低く3) 、がん治療のリスク評価には不適切である。

 ただし、上記2検査で、心機能の評価が困難な場合には、(3)心機能評価が心エコーでできない場合は、心電図同期負荷シンチ(QGS)や心プールシンチグラフィーを使用して、心機能を解析する。

 以上で心疾患が疑われた場合には、心臓カテーテル検査を施行して、病態と病状の把握を行い、がん治療に適しているかを検討している。

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