東京大学医学部腫瘍外科講師の北山丈二氏、同付属病院教授の門脇孝氏(糖尿病・代謝内科)らは脂肪細胞が分泌するたんぱく質ホルモンの1種、アディポネクチン(adiponectin)が微量でがん細胞にアポトーシスを誘導する働きがあることを見出し、9月に東京で開かれた日本癌学会学術総会で報告した。アディポネクチンは肥満が進行すると分泌量が低下する。一方で、最近肥満ががんの危険因子であることが明らかにされている。北山氏の発見は、これまでかけ離れた疾患と考えられてきた肥満とがんとの関係を説明する可能性があり、注目されている。
アディポネクチンは別名「善玉サイトカイン」。骨格筋における脂肪酸の燃焼と糖の取り込みを促進しインスリン抵抗性を改善する(Nature Medicine,8,856,2002)。また、高脂肪食で肥満したり、アディポネクチン自身の遺伝子多型(日本人の約40%が有する)が原因でアディポネクチン欠乏
症が惹起されるとインスリン抵抗性が進展する(Deiabetes,1,536,2002)。
北山氏の発表によると、(1)アディポネクチンはμg/mlという生理的な濃度で腫瘍細胞にアポトーシス(自殺的な細胞死)を誘導した、(2)ヒト胃がん細胞を移植したヌードマウスにアディ
ポネクチンを腫瘍内や腹腔内に投与すると、それぞれ皮下腫瘍の増大、腹膜播種の成立を強く抑制した、(3)胃がん患者の血漿中アディポネクチンの濃度は、ステージが進行した患者ほど低くなる傾向がみられた──。
最近、脂肪とがんとの関係が注目されている。肥満ががんの危険因子であることが明らかになったほか、術後乳がん患者では再発を遅らせるために低脂肪食を摂取する試みもある。アディポネクチンとがんとの関係が明らかになれば、がんの1次、2次予防に有益な情報が得られると期待される。
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