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リポート しびれ [06 Winter]
患者は予想以上に苦しんでいる
抗がん剤によるしびれを防ぐには

2007/02/07
日経メディカル Cancer Review

[対策(1)]
ほかの薬に切り替える


 こうしたしびれが起こった場合の対策としては、教科書的な方法だが、まず別の薬に代替することが考えられる。シスプラチンの場合は、同じ白金製剤で神経障害が少ないとされるカルボプラチンへの変更が検討される。パクリタキセルの場合は、同じタキサン系のドセタキセルに変更することも考慮する。ドセタキセルは神経障害の発症頻度は7から13%と低いといわれている。CHOPのオンコビンはアドリアマイシンで代替することができる。

 FOLFOXの場合はFOLFIRIに変更することもあり得るが、日本ではFOLFIRIからFOLFOXへと移行してきた経緯があり、こうしたレジメンの先祖帰りは難しいかもしれない。

[対策(2)]
FOLFOXにはSTOP and GO


 FOLFOXのしびれ対策として水沼氏は、しびれが重症化する前に治療を休止することも選択肢の一つという。具体的にはしびれが重症化する前の6~8サイクルで治療を休止するという。

 さらに現在、休薬期間を組み込んだSTOPand GO型のレジメンOTOMOXの国際共同臨床試験が進行している。こうしたレジメンの変更が最も有効なFOLFOXのしびれ対策になると水沼氏は見る。

 OPTIMOXは、図1(一番下段)のmFOLFOX7と休薬期間とを組み合わせている。FOLFOXを開発したフランスのde Gramont博士らが中心になって検討している。「FOLFOXが始まった7年前からしびれが有害事象として指摘され、様々な対策が取られてきた。その中心メンバーであるde Gramont博士が行っていることを考えると最も重要視されるべき対策であるといえる」と水沼氏は語る。

[対策(3)]
Ca/Mg剤でしびれを緩和する


 積極的に抗がん剤によるしびれを取る薬剤がいくつか検討されてきたが、まだ有効な薬は出ていない。よく、神経障害が起こるとビタミンB12製剤が処方されることが多いが、効果は定かではなく、「むしろ気休めで処方されている」という声もある。ほかの薬もいまのところ開発中止例が目に付く。一部の専門家が注目し、海外で治験が進行していたBNP7787(タボセプト)は、成果が出ず、今年開発中止が決まった。

 そのようななかで注目されている方法が、FOLFOX療法とCa/Mgとの併用だ(表2)。海外の臨床試験が進行し、最終的な評価は、2007年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)などで報告される見込みだが、既に日本国内でも、静岡県立静岡がんセンターが、FOLFOX療法導入時に全例の患者にCa/Mg療法を併用した臨床試験を開始している。

 10月に東京で開催された日本癌治療学会学術総会で、同センター消化器内科の朴成和氏、山崎健太郎氏らが発表したフェーズ1試験(1コースの1日目にグルコン酸カルシウム1gと硫酸マグネシウム1gを投与)の結果によると、初回治療16人(全身状態は1以下)と既治療58人(2人が全身状態2、残りは0か1)。

 オキサリプラチン総投与量500mg/m2超過時点(1コース85mg/m2)で解析できた症例では、Grade2以上の末梢神経障害は初回治療16人中1人(6%)、既治療41人中3人(7%)と少なくなる傾向があった。Ca/Mg療法に起因する有害事象、FOLFOX療法自体の有効性の低下は認められなかった。現在、Ca/Mgの有効性を検証するフェーズ2の臨床試験が進行中だ。

 FOLFOXの施行例が多い国立がんセンター中央病院はCa/Mg併用療法の有効性が確立していないことを理由に導入していない。癌研有明病院の水沼氏(前出)も「2007年のASCOで発表される国際共同臨床試験の結果を見てから導入の可否を決める」という姿勢だ。

 Ca/Mg療法の評価は確定していない。併用によって、多忙を極める外来化学療法の現場に負担が増えることを懸念する声もある。また国立がんセンターなど国内の基幹病院が導入していないことから、静観する立場を取る医療機関も少なくない。「静岡がんセンターと国立がんセンターの中間を取って、FOLFOXの最初のコースにだけ使っている」という医療機関もある。しかしいずれにせよ、しびれに対する選択肢が限られており、なおかつ患者に対する身体的、経済的な負担もほとんどないことを考えると、「可能性のあるものは、積極的に試みる」静岡がんセンターの姿勢は、評価されるべきだろう。

[対策(4)]
薬剤の剤形の見直し

 そもそも、腫瘍以外の神経に薬剤が作用することが神経障害の原因だ。薬剤そのものの改良が行えれば、こうした心配をしなくて済むはずだ。国立がんセンター東病院臨床開発センターがん治療開発部長の村松保広氏らは、ベンチャー企業のナノキャリア(千葉県柏市)ナノテクノロジーを利用して抗がん剤を修飾、微小粒子化した抗がん剤を易漏出状態にある腫瘍血管を通じて腫瘍組織へ移行しやすくする研究を進めている(図3)。

 既にPEG(ポリエチレングリコール)でミセル化したパクリタキセル(「NK105」、British J.Cancer92.1240.2005)の臨床試験を行った。こうした試みは薬剤搬送システム(DDS)と呼ばれるが、毒を薬に変える技術と言えるだろう。

 松村氏は「フェーズ1試験の結果なので評価はできないが、感触としては末梢神経障害を軽くできると考えている」と語る。2007年には卵巣がんを対象にした臨床試験を開始する。「卵巣がんは抗がん剤を長期に使用するために、神経障害が少なくなることは臨床上大きな意味を持つ」(村松氏)と期待できる。

 このほかに、ミセル化シスプラチンの「NC-6004」を開発中。ラットを使った神経伝道度を計測する試験で、シスプラチンの神経障害を改善できる可能性を認めた。

 オキサリプラチンのリポソーム製剤の開発も始まっている。ベンチャー企業のメビオファーム(東京都港区)と村松氏が共同で研究しているもので、米国ではフェーズ1の臨床試験が行われている。村松氏も国立がんセンター中央病院と共同で臨床試験を計画している。

 オキサリプラチンはFOLFOXのレジメンに使用することを条件に承認されている。単剤では効果が弱いことが確認されているが、メビオファームではリポソーム化で単剤使用ができるほど、効果を高めることができるとの考えを示している。

 基礎的な研究は進展しているものの、まだ臨床現場ですぐに実行できる対策は限られている。しかし、痛みや骨髄抑制に続き、しびれなどの末梢神経障害に医療や製薬企業の目が向いてきたことは確かなようだ。

■コラム
パクリタキセル、ドセタキセルのしびれに疎経活血湯
北里グループが臨床研究を開始


 漢方薬の牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)は、糖尿病に伴うしびれなどに処方されるが、これがパクリタキセルのしびれの緩和に有効という報告がある。しかし、いずれも症例報告の域を出ない。「末梢神経障害によるしびれや痛みは西洋医学的な方法では無理」と語るのは、北里研究所東洋医学総合研究所臨床研究部の及川哲郎氏。

 及川氏は「牛車腎気丸は、腎虚(生命力、精気の低下)といって、足腰が弱って足腰がしびれている人が本来の適応。若い患者さんの抗がん剤の副作用とはしびれのタイプが異なるのではないか」と語る。

 乳がんの若い患者にはお血のイメージが強いという及川氏が注目した漢方薬は、疎経活血湯(そけいかっけつとう)。本来、しびれや痛みに使うほか、血流を改善する生薬が多数含まれている。

 北里大学の乳腺グループと共同で臨床試験を計画、7月に倫理委員会の承認を取得、現在患者のエントリーを進めている。タキソール、タキソテールを服用する患者合計70人に疎経活血湯のエキス剤2.5gを1日3回服用させる。VASやNCI-CTC、治療完遂率を指標に予防効果の有無のほか、「証」(漢方医学の診断所見)によって臨床効果に違いが出るかどうかも検討するという。「抗がん剤のしびれは世界共通の悩み。有望な結果が出れば、無作為割付試験を行っていきたい」と及川氏は語っている。

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