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リポート しびれ [06 Winter]
患者は予想以上に苦しんでいる
抗がん剤によるしびれを防ぐには

2007/02/07
日経メディカル Cancer Review

 患者を苦しめている抗がん剤の副作用に「しびれ」がある。大腸がんの標準治療レジメンであるFOLFOX、乳がんのパクリタキセル、広い適応を持つシスプラチンなど、しびれがDLTとなる化学療法が少なくない。臨床腫瘍学の教科書には「しびれに対する有効な方法はない」と明記されている。しびれ対策の試みを紹介する。

しびれを医師や看護師に言い出せない患者もいる(イラスト:P.U.M.P 榎本千秋)

 都立病院に化学療法を受けるために入院した大腸がん患者のAさん。病室のクーラーから出る風の角度が気になってしかたがない。できるかぎり、風に当たらないように、風の角度を調節する。Aさんの悩みは冷感刺激によって誘発されるしびれ(末梢神経障害)だ。

 Aさんが受けていたレジメンは、FOLFOX。5-FU、葉酸(ロイコボリンカルシウム)に白金製剤のオキサリプラチンを組み合わせるこのレジメンは、奏効率45%、生存期間中央値19.5ヵ月(いずれも初回治療)の成績を上げ、切除不能転移・再発大腸がんの標準治療とされている(図1)。生存期間の延長効果が確認された有力な治療法である一方で、重大な有害事象として「しびれ」の対策が課題となっている。

FOLFOXの用量制限毒性はしびれ

 痛みは骨髄抑制などには、治療薬もあり、医療側も注意を払う。しかし、しびれとなるとそれほど重い治療が払われない傾向にあると指摘されている。医師と患者との間で有害事象に対する評価が最も乖離するものがこのしびれであったとした報告もある。

 実際、日本国内にも「FOLFOXのしびれは慣れる」と断言する医師もいるが、必ずしもそうとはいえないようだ。患者のQOLを損なうことは明らかであるし、癌研有明病院で多くの症例を経験している癌化学療法センター臨床部の水沼信之氏は、「FOLFOXの場合は、用量制限毒性(DLT)はしびれである」と断言する。

 腫瘍増悪以外の治療中止理由の過半数はしびれなどの末梢神経障害であるという報告もある。表1は癌研有明病院消化器センター外来看護師の矢萩克枝氏らがまとめたFOLFOXによる末梢神経障害の経過。患者らは感電したようにピリピリする、感覚鈍麻が起きて、電気コードなどにつまずくなどと訴えている。

 障害が起こる部位も上肢や下肢は共通するが、口唇周囲や肛門部にも起こっている。障害の主因であるオキサリプラチンの代わりに塩酸イリノテカンを使うFOLFORIに変更する例もあるが、症状が改善せず、そこで治療を終了する例が少なくない。

 図2は、水沼氏ら癌研チームが、96症例についてまとめたFOLFOX療法が原因となったしびれのデータだ。コースを重ねるにつれて重症化する傾向があることが分かる。水沼氏は「中には機能障害を呈するまで増悪する傾向がみられた」と指摘する。

急性のしびれには患者指導で対処

 FOLFOX療法のしびれには急性のものと慢性のものとがある。投与当日から5日くらいまでに起こることが多い急性のしびれは、冷たいものに接触することによって誘発されることが多い。冒頭に紹介した患者のAさんも、クーラーの冷気に当たることを嫌がっていたのだ。このしびれは前述のようにピリピリした感触が特徴で、運動障害までには至らないことが多い。有効なのは患者指導だ。

 患者には冷たいものに触れないよう指導する。クーラーに加え、冷蔵庫や水道水にも注意する。病院の食堂の自動販売機にも注意書を張る。一方で、刺激から離れれば改善するので、過剰に心配しないように患者に忠告することも必要だ。

 治療遂行の妨げになるのは慢性化したしびれだ。水沼氏は「オキサリプラチン総投与量600mg/m2が目安で発生する」と指摘する。症状としては、指先のしびれが多く、図2で見たように投与回数が増えるほど増悪化する傾向にある。

 機能障害に発展することも多い。この慢性のしびれこそがFOLFOX療法のDLTになっている。

パクリやCHOPでも問題となるしびれ

 2005年のオキサリプラチンの承認とともに普及したFOLFOX療法以前にも、しびれが問題視される化学療法があった。例えば、オキサリプラチンと同じ白金製剤のシスプラチンであり、乳がんのパクリタキセルや悪性リンパ腫のCHOP療法などだ。

 パクリタキセルの場合は、3週毎の投与では250mg/m2以上の投与量の患者の60%に発症し、10~15%が日常生活に支障をきたすGrade3以上に移行する(J Cancer Res Clin Oncol,127,55,2001)。そこで、200mg/m2以上の大量投与を避ける、可能なかぎり3時間投与ではなく24時間投与とすることが推奨されている(Breast Cancer,11,100,2004)。

 FOLFOX療法を含め、こうした化学療法のしびれ対策には、痛みへのモルヒネ、発熱性顆粒球減少症にG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)などというような対策の決定版というものが存在しない。後で紹介するような減量や休薬、別の同効薬の切り替えの検討など、患者一人ひとりに応じた対策が必要になる。

 CHOP療法を処方することが多い東京都立駒込病院化学療法科の岡元るみ子氏は、まず患者が経験しているしびれを把握することの重要性を強調する。「CHOP療法には手のしびれが多いのだが、医師には分からない場合が多く、問診を行う。例えば、ペットボトルのキャップが回せるか、包丁が握れるか、フライパンが使えるか、布団たたきができるかなど、日常作業が行えるかどうかという観点から聞いていく」と話す。

 衣服のボタンを一人で留めることができるかどうかを尋ねるのも有効だ。その際、より難度が高い“視界に入らない最も上のボタン”を留めることができるかを尋ねることがポイントだ。「日ごろ、患者さんと接する時間が長い看護師さんたちに注意を払ってもらうことも大切」と岡元氏は指摘する。「中には医師の前では可能なかぎり手がかからない患者でいようと振る舞う患者さんがいる。しびれや痛みなど日ごろの悩みを医師ではなく看護師にだけ漏らすことが少なくない」ためだ。

 それではどのような対策が考えられるか。結論をいうと、残念ながら決定的な対処方法がないのが現状だ。しかし、現場では様々な試みが模索されている。

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