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化学療法アップデート [06 Winter]
子宮体がんの化学療法
治療ガイドラインの作成とその課題

2007/02/07
日経メディカルCancer Review

 近年、子宮体がんが増加傾向にあり、治療成績の改善のためには早期発見と適切な治療が望まれている。このほど日本婦人科腫瘍学会が、子宮体がんに対する内外の治療成績を分析、「子宮体癌治療ガイドライン」として公表した。本稿では、ガイドライン作成に中心的な役割を担った八重樫伸生氏に、進行・再発の子宮体がんに対する化学療法と術後補助化学療法を中心にまとめてもらった。

はじめに

 今秋、日本婦人科腫瘍学会『子宮体癌治療ガイドライン2006年版』を刊行した(写真)。その中には41の臨床的疑問(クリニカルクエスチョン、CQ)が取り上げられているが、化学療法に関するものは4つある。

子宮体癌治療ガイドライン2006年版 日本婦人科腫瘍学会/編 2400円+税 金原出版 ISBN4-307-30090-4

 現時点で、子宮体がんに対する化学療法は肺がんや乳がんほど確立しているとは言い難い。しかし、最近の臨床試験から徐々にエビデンスが蓄積されつつあり、ガイドライン作成はまさにその少ないエビデンスを丹念に拾い上げていくことにより構築されていったものである。

 本稿では、化学療法に関するCQを例に取りながら、各CQに対してどのようなエビデンスをどう解釈しながら推奨にまで至ったのかという、ガイドラインの作成過程をある程度うかがい知ることができるような解説をしてみたい。

CQ|進行・再発がんに対して化学療法は
有用か?どのような薬剤が推奨されるか?


 本CQは、「手術や放射線療法のような局所療法のみでは制御できない臨床進行期Ⅲ期以上の進行がんや再発・転移がんを対象とした化学療法」を問題としている。後で述べるような、「手術で完全摘出あるいは肉眼的に残存腫瘍がなくなるようながん」を対象としているのではないという点に注意が必要である。

 本CQに答えるために、まず子宮体がんに対して抗がん剤単剤での有効性を検討した。臨床第2相試験または第3相試験で、英文雑誌もしくは国際学会の抄録形式で発表された研究を集めた。複数の論文で奏効率が発表されている場合には、論文により奏効率が異なる場合があるので、検討された全症例を合計して全体での奏効率を計算した。

 検討された症例数の合計が50例以上の薬剤のみを取り上げ、単剤での奏効率が15%を超える薬剤を「子宮体がんに対する有効性が十分に示されている薬剤」として取り上げた。その結果、ドキソルビシン(商品名:アドリアシン、論文数3、検討症例数385症例、奏効率21%)、トポテカン(日本未承認、3文献、75例、17%)、イホスファミド(同:イホマイド、5文献、121例、17%)、シスプラチン(同:ランダ、ブリプラチン、5文献、123例、23%)、カルボプラチン(同:パラプラチン、5文献、126例、25%)、パクリタキセル(同:タキソール、5文献、12例、32%)、の6剤が残った。

 この6剤を中心に、より良い抗がん剤の組み合わせを求めて世界中で臨床試験が行われてきた。その代表的のものを図1に示している。Aはアドリアマイシン単剤投与、APはアドリアマイシンとシスプラチンの併用療法、TAPはAP療法にパクリタキセルを加えた併用療法、TCはパクリタキセルとカルボプラチンの併用療法を表している。( )内は臨床試験のコード名である。

 米国で行われたGOG107試験(GOG: The Gynecologic Oncology Group)と欧州で行われたEORTC55872試験により、アドリアマイシン単剤よりもAP療法の奏効率が高く、生存率の改善に寄与することが報告され、AP療法が標準と考えられてきた。その後、パクリタキセルの導入によりAP療法とTAP療法を比較するGOG177試験結果が発表され、TAP療法の奏効率が高く生存期間も有意に延長することが示された(図2)*1。しかし、TAP療法は毒性が強いことも明らかとなり子宮体がんに対する標準治療としてはまだ認められるに至っていない。同様の臨床試験EORTC55984が欧州で進行中であり、その結果が待たれる。

 卵巣がんの標準化学療法として知られるパクリタキセルとカルボプラチンの組み合わせ(TC療法)は、子宮体がんに対しても奏効率が非常に高く、標準化学療法としての期待が高まっている。

 GOGでは現在TC療法とTAP療法を直接比較する試験(GOG209)が進行中である。TC療法は、有効性が高く毒性も比較的少ないことから、有望な化学療法と考えられているが、第Ⅲ相試験の結果が出るにはまだ数年かかるため、現時点では標準治療と認めることはできない。

 このような背景から、本CQに対する推奨として、「プラチナ製剤を中心としてアントラサイクリン系またはタキサン系薬剤の併用療法が推奨される」という文言に落ち着いた。

CQ|術後補助化学療法の有効性は確立
しているか?どのような薬剤が推奨されるか?


 子宮体がんの初回治療としては原則として手術が奨められる。実際に国内では子宮体がん症例の8割以上に子宮摘出術が施行され、種々の再発危険因子を持つ場合に補助療法を追加している。ここでの問題は、その補助療法として何を奨めるか? 化学療法を奨めて良いのか? 化学療法であればどのようなレジメンを施行すべきか、という点である。

 子宮体がんに関して、補助療法としての化学療法の有用性を証明した臨床試験はGOG122のみである。この研究では、子宮体がんの再発の高危険群(進行期Ⅲ期またはⅣa期で残存腫瘍径が2cm以下)を対象として、術後に全腹部照射とAP療法にランダム化割り付けして、生存率を比較した。結果の一部を図3に示したが、全生存でAP療法が放射線療法より有意に勝っていた*2。

 しかし、AP療法の毒性が強い点やプロトコルの完遂率が低い点などが指摘されている。また全腹部照射は日本ではほとんど施行されることがなく、この試験結果をそのまま日本のガイドラインに引用してよいものかどうかも、日本婦人科腫瘍学会のガイドライン委員会では議論された。

 中等度危険群に対する研究としては、まだ誌上発表されていないものの、婦人科悪性腫瘍化学療法研究機構(JGOG)が行ったJGOG2033試験が注目される。本研究は筋層浸潤1/2以上で、かつ術後の残存腫瘍がない症例を対象とし、術後に骨盤外部照射とCAP(シクロホスファミド+AP)療法にランダム化割り付けした。全体では両群間に全生存率の差はなかったが、II期とIIIa期に限定したサブグループ解析では、化学療法群の全生存率が有意に良好であった*3。しかし本試験結果の解釈にあたり、サブグループ解析であることからエビデンスレベルとしては高いものではないことも注意しておく必要があろう。

 また婦人科悪性腫瘍化学療法研究機構では2006年秋から中等度から高危険群を対象にAP療法とTC療法、DP療法(ドセタキセルとシスプラチン)を比較する臨床第Ⅲ相試験(JGOG2043)を開始するが、結果が出るにはまだ数年かかる。

 婦人科悪性腫瘍化学療法研究機構は、国内での術後補助療法の現状を把握するために2005年、全加盟施設に対して実態調査を行った。回答は約9割の施設から寄せられた。各施設で2004年の1年間に治療した子宮体がんの全症例を調査対象としたところ、4,000例を超す初回治療例が集まった*4。

 症例ごとの術後療法の有無と治療法について調査したところ、全症例の約40%(4,090例中1,675例)で化学療法が施行されており、放射線療法やホルモン療法を施行したものは合わせても約10%に過ぎず、残りの約50%では補助療法が施行されていなかった(図4)。すなわち、国内で補助療法を施行する場合、その約80%が化学療法であることから、国内では補助療法として化学療法がかなり浸透していることがはじめて明らかとなった。

 次に化学療法を施行した1,675例の具体的なレジメンについて調査した(図5)。標準的なTC療法を施行したものが51%、weekly TC療法が8%で、両者で59%であった。一方、欧米で標準的なレジメンとして考えられているAP療法(または類似レジメンCAP、CEP)を施行したのは18%(AP5%、CAP8%、CEP5%)に過ぎなかった。

 子宮体がんの補助療法としてTC療法の有用性に関する高いレベルでのエビデンスはまだ存在していない。それにもかかわらず、国内では補助療法としてTC療法が広く施行されており、世界的に標準と考えられるAP療法(または類似レジメン)を施行している症例は非常に少ないという国内の事情が明らかとなった。この件に関しては、施設ごとにどのようなレジメンを選択するかという調査も行った(図6)。複数回答としたこともあるが、TC療法と答えた施設が約90%にもなり、国内ではすでにTC療法が広く取り入れられていることは明らかである。

 ここで子宮体がんに対するTC療法の臨床試験の現状をまとめると、(1)進行・再発がんに対して奏効率が高く、毒性も制御可能な範囲内にある、(2)しかし、補助療法の有効性を検討する第3相試験の結果が出ておらず生存率への寄与は不明である、(3)補助療法としての有効性に関するデータがまだ出ていないことから、EBMの観点から見て標準治療とするのは時期尚早である、ということになる。

 以上のように、EBMという観点から見た場合と国内の現場とが大きく乖離している状況で、本CQに対する回答(推奨)を記述しなければならなかったという点をご理解いただきたい。結果的には以下のような推奨でまとめることにした。

(1)高リスク症例術後残存腫瘍2cm以下の症例に対して、術後化学療法を行うことが奨められる。
(2)中リスク症例に対する術後補助化学療法は、放射線治療と同等あるいはそれ以上に有効である可能性がある。
(3)アントラサイクリン系薬とプラチナ製剤を含む薬剤の選択が奨められる。
(4)タキサン系薬剤も併用されているが、その十分な根拠は得られていない。

おわりに

 今秋刊行された「子宮体癌治療ガイドライン」2006年版の中から、化学療法に関する項を抽出して、推奨に至るまでの経緯を解説した。他臓器のがん治療ガイドラインが続々と刊行される中で、子宮体がんに関するエビデンスは決して高いものではない。今回刊行されたガイドラインはあくまで現時点での適正と思われる治療を示したものに過ぎない。数年ごとにガイドラインが改訂され、子宮体がん治療の安全性と成績の向上につながることを切に望むものである。

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