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リポート 第65回日本癌学会学術総会より [06 Winter]
奏効率向上の切り札か
“科学的患者選別時代”の幕開け

2007/02/07
日経メディカルCancer Review

日本癌学会と米国がん学会(AACR)の合同シンポジウムの発表風景(写真:柚木裕司)

 第65回日本癌学会学術総会が9月に横浜で開かれた。総会の最大のトピックスが日米のがん学会の合同シンポジウムとして開催されたPersonalized Medicine in Oncology(個別化がん医療)だった。患者の背景因子、特に遺伝的バックグランドを重視した治療法の選択が、純粋理論から実践に広がり始めた。合同シンポジウムの議論を中心に、総会で語られたがん治療の将来を展望する。

 日本癌学会学術総会で開催された日米合同シンポジウムでは、遺伝子情報をもとにした薬剤応答、治療応答の予測システムについて、研究者らが最新の知見をもとに話し合った。患者の遺伝子情報をもとに治療を組み立てる時代がすぐそこに来ている。

患者を選択して奏効率を上げる

Bristol-Myers Squibb社のNicholas C.Dracopoli氏

 米食品医薬品局(FDA)は、その薬剤の応答性を示す遺伝子マーカーをセットで新薬を承認する方針を取っている(表1)。日本でも乳がんの抗体医薬トラスツズマブの使用にあたっては、標的のHer2/neuの発現を確認することが必須条件になっているが、EGFR(上皮細胞増殖因子受容体)を標的とする薬剤でもEGFRの発現を確認することが必須となっている。さらに、日本でも使用されている塩酸イリノテカンが薬剤代謝酵素の遺伝子型を検討することが「推奨」されている(関連記事45ページ)。

 これまでの抗がん剤の承認は奏効率が10~30%という水準で行われてきた。しかし、今後はより高い奏効率が承認の目安になる可能性がある。米Bristol-Myers Squibb社のNicholasC.Dracopoli氏は、同社が開発中の乳がんの治療薬ixabepiloneが患者を選択しなかった場合の奏効率が17%であったのに対して、ある分子マーカーによって患者を選択した場合、45%の奏効率を得ることができたと報告した(図1)。

 患者を選択することは、必然的に選ばれなかった患者が出ることを意味する。薬剤によって救える患者の総数は変わらないという声もある。Dracopoli氏は、「効果を予測する技術が生まれた以上、期待されない患者に使用されるべきではない」と語った。

 シンポジストと司会を兼務した東京大学医科学研究所ゲノムセンター長の中村祐輔氏は「患者を選ぶことによって、医薬品市場が小さくなる可能性があることを製薬会社として懸念しないか」と質問したが、Dracopoli氏は「がんの化学療法の費用は高額化していることも考慮すると、薬が効かない患者の数はできるかぎり減らす必要があることを考慮しても、患者の選択は必要」と応じた。

遺伝子を基準に患者を分類
肺がんの予後に大きな違い

 米Duke Institute for Genome Science and PolicyのJoseph R.Nelvins氏は、Ⅰ期非小細胞肺がん(NSCLC)の患者の2,000個の遺伝子型を調べ、同じ病期であっても予後が大きく異なる2群に分類できることを示した(図2)。発見時に病期が進行しているほど、患者の生命予後は悪くなるというのが常識だが、遺伝子型の違いによって、Ⅰ期であっても、III期と変わらない生存率しか示さない患者群がいると同氏は指摘した。

Duke Institute for Genome Science and PolicyのJoseph R.Nelvins氏

 がんは遺伝子の病気と理解されるようになって久しいが、薬剤の選択のみならず、治療法の構築にあたっては患者の詳細な遺伝子分析が必要になるという考えをNelvins氏は表明した。「がん細胞の内部では様々なシグナル伝達系が働いている。

 伝達系を構成する遺伝子の働きの総和ががんの性質を決定している以上、遺伝子型やそれらの発現状況を調べることによってより精密な診断が可能になる」。今後の研究の展開によってはがんの病理診断などにも影響を及ぼす可能性がある。

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