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ルポ がん医療現場 [06 Winter]
脳ドック発 がんの超早期発見・超早期治療病院
厚地脳神経外科病院/厚地記念クリニック

2007/02/07
日経メディカル Cancer Review

 鹿児島市の厚地脳神経外科病院は、脳神経外科を標榜しつつ、ガンマナイフの導入とともに、放射線診断に開眼、脳ドックからPET検診へと守備範囲を拡大した。今年、10月には、慶應義塾大学の放射線科講師だった植松稔氏をスカウト、CTガイドの4次元ピンポイント放射線治療に世界に先駆けて乗り出した。「早期診断、早期治療では遅い。超早期診断、超早期治療を目指す」と理事長の厚地政幸氏は語る。厚地氏が、日本のがん医療のスタンダードになる日が来るか(写真・森和人)。

脳ドックから
PET検診のパイオニアへ

写真1 厚地脳神経外科病院全景

 厚地脳神経外科病院は鹿児島市随一の繁華街である天文館の中心に位置する60床ほどの専門病院だ。老健、PET検診センターを含め5つの施設を運営する。西日本で初めてPET検診を開始したのをはじめ、ガンマナイフを使った転移性脳腫瘍の手術もこなす。

 そして今年は、慶應義塾大学放射線科の前講師、植松稔氏を招聘し、「4次元フォーカルユニット装置」を設置したUASオンコロジーセンターをオープン、この10月1日から診療を開始した。この設備が稼働し、所期の成果を出すことができれば、がん医療全体に大きな衝撃を与える可能性がある。

 「PET検診を始めるときに、こんな小さな病院でPET検診なんかできるのかという声があった。メーカーも心配したが、こんな小さな病院が成功したら、全国にPET検診が広がるといって説き伏せた。そして実際にそうなった。今度は4次元の番」と理事長の厚地政幸氏は語る。

「清水の舞台」から
4度飛び降りる

写真2 厚地政幸氏 1935年鹿児島市生まれ。60年に長崎大学を卒業。東京大学脳神経外科、虎の門病院脳神経外科主任医師。2005年には第8回日本病院脳神経外科学会学会長を務める

 長崎大学を卒業した厚地氏の医師生活は「清水の舞台を飛び降りる」連続だった。

 最初は、脳神経外科専門病院の開業。脳神経外科だけでやっていけのかと訝る声が多かった。最も力を注いだのが、くも膜下出血の治療。開頭手術に明け暮れることになったが、回復するのは50%くらい。手術が終わった後にれん縮を起こし死亡する患者が少なくない。脳動脈瘤のうちに見つけることができれば……と考えるうちに、1991年に出合ったのがMRIだった。造影剤も必要としない優れた解像度に目を見張った。さっそく、MRIをコアにした脳ドックの開業に踏み切った。

 脳ドックの経験によって、厚地氏に2つの発見をしたという。1つは症状が出る前に診断、治療する超早期発見、超早期治療の威力。もう1つは自由診療の意味についてだ。

車検代を参考に
PET検診費用の設定に

 鹿児島に開業してからは、脳腫瘍のほかには、これといってがんとの接点がなかった厚地氏だが、東京の総合病院で送った勤務医時代にはがん診療に触れる機会があった。そこで見たがん闘病の凄惨さが、同氏の脳裏を離れることはなかった。もし進行前に、さらに症状が出る前に治療してしまうことができればという記憶がPETとの邂逅と同時によみがえってきた。

 問題は経営だ。PET検診の先行機関は、会員制を取り、費用も高額だった。うっかり、導入して病院が破産しては意味がない。

 鹿児島といえば、「国内屈指の貧乏県。県民が検診に、いくら出すのか」。苦慮している厚地氏にひらめいたのが「車検代くらいではどうか」というものだった。

 「車検では高いと文句はいわない。車検もPET検査も同じと捉えればいいのではないか」という話になり、出た結論が、「1人12万円、夫婦で受診すれば2人で20万円」だった。

 計算すると、施設を建設し、2台の装置を入れ、毎日14人来院すればペイできることが明らかになった。「受診希望者は来るのか。不安でしかたがなかった。毎年4,000万円の黒字を上げる脳ドックがなければ、踏み切れなかった」。

 設立当初は地元の新聞やテレビが取り上げてくれると、受診者は増える。でも時間がたつと減る。「とても14人に達していないことは待合室を覗けば一目瞭然」(厚地氏)という日が続いた。しかし、それでも受診者が増え始め、1年を経過した時点では、3,500人と目標を超えていた。「涙が出るほどうれしかった」と厚地氏は語る。

 県の職員組合などもPET検診を取り入れ始め、軌道に乗った。現在、PETは3台になった。最初から3台入れるつもりで、空けておいたスペースに3台めを設置した。このPET検診の成功は、次の4次元フォーカル・ユニットの布石になった。

放射線医師をスカウト
前立腺がんに挑む

写真3 厚地記念クリニック・PET画像診断センター

 「放射線治療を駆使して肺がんの治癒率は80%を超える」。こんな話を耳にしたのが、同病院が4次元フォーカル・ユニットとめぐり合うきっかけだった。さっそく、その担当者が主催する講演会に出かけた。講演を聴いた厚地氏は講演者の植松氏を訪ね、口説きにかかる。「うちでやりませんか」。植松氏は、鹿児島の厚地氏のもとを訪ね、病院を見て回って、2週間後に招請に応じる返信をよこした。

 4次元フォーカル・ユニットは、呼吸と同期しながら3次元放射線照射を実施する方法。実現すれば、症状が出ないうちに臓器を診断、治療するという厚地氏が理想とするがん医療が実現する。すべてのがんを10mm未満という超早期に発見し、手術を経ずに治療する医療に全力を注ぐ。「膀胱がん、前立腺がん、膵がんが超早期で発見して治療できたら、大変な騒ぎになる」と目を輝かせている。

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