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リポート―閉経後乳がんのホルモン療法 [06 Autumn]
主な3剤が出揃ったアロマターゼ阻害剤
今後は使い分けに注目

2007/02/07
日経メディカル Cancer Review

AI薬投与前に
骨密度を測定


 アロマターゼ阻害剤を使うと骨折が多くなることは早くから報告されていた。しかし3剤のうちの一つ、エキセメスタンはアンドロゲンと同じステロイド骨格をもつステロイド系の薬剤であり、非ステロイド系よりも骨代謝への悪影響は少ないと期待されていた。

 しかし今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO2006)において、健康な閉経後女性を対象に行った無作為化臨床試験(LEAP試験)で、AI薬はステロイド系、非ステロイド系にかかわらず骨代謝回転を促進させることが報告された。Haukeland University Hospital(ノルウェー)のPer E. Lonning氏は第14回日本乳癌学会学術総会(2006年7月)において、「ASCO2006の結論ではAIの投与に際しては、ビタミンDとカルシウムを追加すべきとなった」と述べ、骨粗鬆症になってからはビスフォスホネートを使用するよう勧めた。

 川崎医科大学外科乳腺甲状腺科助教授の紅林淳一氏は、現在、アナストロゾールとエキセメスタンの2剤の副作用を比較する試験を進めている。紅林氏は、「閉経後女性に投与するときはまず骨塩量のチェックが必要。50~60歳代ではルーチンにする」とし、「患者のトータルヘルスケアとして、副作用は真剣に考えることが大切だ」と述べた。

関節炎や不定愁訴が
患者を悩ませる


 血清脂質プロファイルへの影響も数多く報告されている。たとえば健康な閉経後女性を対象に3剤を比較したLEAP試験では、エキセメスタンにおいてのみLDL-C/HDL-C比やApo B/Apo A-1比が治療前に比べ有意に高かった。しかしエキセメスタンとプラセボを比較した2005年のLonning氏らの報告ではエキセメスタンがトリグリセライド値を低下させた以外は脂質への影響は見られなかった。このように血清脂質に関しては報告によって成績が異なり、「3剤に大きな違いがないように思う」(紅林氏)というのが大半の見方だ。

 このほか臨床面では気になる影響もある。紅林氏がAIに関し勉強会などで話をすると、「関節痛を訴える患者が多く、どうしたらいいかと聞かれることが少なくない」。関節痛の発症は2割に及ぶとの報告もある。だが関節痛を緩和する方法はなく、「我慢してもらうしかない。慣れてくることもある」(紅林氏)。中には炎症を抑えるステロイドを投与したり、AIからタモキシフェンに変更することによって改善したケースもあるという。

 またAIは、タモキシフェンに比べて、エストロゲンの量を大きく下げるため、眠れない、イライラ、物忘れなど不定愁訴が増える傾向にある。都立駒込病院では漢方専門医が10種類の漢方を患者に合わせて処方し、効果を奏しているという。

AIの初回投与が
スタンダードになるのか?


 数々の臨床比較試験の結果を踏まえ、米国のガイドライン「ASCO technology assessment」(Winter ら 2005)には、閉経後女性の術後補充療法では5年間のタモキシフェン投与はもはや最適ではなく、初回治療として、あるいはタモキシフェン治療完了後には、AIを含めるべきと記載されている[閲覧はこちら]。

 英国Wolfson Institute of Preventive MedicineのJack Cuzick氏は第14回日本乳癌学会で講演し、モデル解析の研究から、10年後の再発率を算出すると、タモキシフェン5年間投与なら再発率は23%、AIを5年なら15~20%と、6%の差が生じると述べた。またタモキシフェン2年投与後、AIを3年投与なら、再発率はAIの5年間投与とほぼ同じであるが、タモキシフェン5年投与後、AIを5年とすると、6年目まではタモキシフェン単独と同じで、その後は少し再発率が下がると予測した。

 つまり最も再発率が低いのは、最初からAIを投与した場合であり、たとえタモキシフェン投与後でも早くAIに変更すれば、それだけ再発率が下がることを示したものだ。とはいえ「あくまでもモデルの結果であり、明らかにするには臨床試験が必要だ」と講演を締めくくった。

 では現在ある臨床的エビデンスの報告から、AI3剤をどのように投与し、使い分けるのが最適なのか。Cuzick氏は3剤の間に本質的な違いは認められないとしつつも、AIの処方に当たっては、データの成熟度(長期レンジ評価の有無)を重視すべきと述べた。となれば、最も有利なのはATAC試験(追跡期間68カ月)を擁するアナストロゾールということになる。大規模試験の結果がまとまるのは、レトロゾールが08年、エキセメスタンでは2010年の予定だ。Breast Cancer Research Institute(フランス)のJean-Marc Nobholtz氏も日本乳癌学会の中で、表2のように臨床試験の結果をまとめ、現時点で臨床データがそろっているのはアナストロゾールであると話した。

 一方、戸井氏は、「全体として薬効に大きな違いはなく、個人差のほうが大きい。副作用の出方も全体では変わらない。トータルの臨床結果で判断し、副作用は個別にフォローすることになるだろう」と話す。

 ただ今後、3剤を一対一で直接比較した臨床試験の報告が徐々に登場する予定だ。ASCO2006においても、閉経後乳がん患者約5000人を対象にしたレトロゾールとアナストロゾールのクロスオーバー試験により、12週間ごとの投与でレトロゾールはアナストロゾールに比べ、血漿エストラジオール値をより低下させることが報告された。

 またFACE (Femara vs. Anastrozole Clinical Evaluation)試験が、ホルモン受容体陽性の早期乳がん患者を対象に、2005年12月から登録が開始されている。全世界で4000人以上、約250施設で実施される予定で、日本も参加するが開始時期は未定。この試験の結果がでれば、初回投与に適した薬剤が選択しやすくなるだろう。

 また3剤の使い分けには、ホルモンレセプターのER(+/-)とPgR(+/-)の組み合わせ、あるいはそれらにHER-2を組み込んでタイプを調べることも活用できそうだ。「医師や患者はわらをもつかむ気持ちで、選択に有利な情報を利用したいと思う」と紅林氏は話す。有効性が高く、有害事象も少ないAIを選択するため、今後の臨床試験の結果が注目される。

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