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リポート―閉経後乳がんのホルモン療法 [06 Autumn]
主な3剤が出揃ったアロマターゼ阻害剤
今後は使い分けに注目

2007/02/07
日経メディカル Cancer Review

 閉経後乳がんの新しいホルモン療法薬としてアロマターゼ阻害剤(AI)の比重が増している。今年の日本乳癌学会ではAIの国際治験や自験例の報告が相次ぎ、「さながらのAIのための学会」の声も上がったほどだ。現在のタモキシフェンと切り替えるべきか、切り替えるとしたらどのように切り替えるのか、さらに主要な3剤が出揃った中で、差別化をはかるべきかどうか。学会報告を中心にAIの話題を追った。(八倉巻尚子)

 今年4月にアロマターゼ阻害薬(AI)レトロゾール(商品名:フェマーラ錠)が発売された。閉経後の乳がん治療薬として、すでに世界90カ国以上で使用されており、米国では2001年に進行乳がんの治療薬の第一選択薬として承認されている。

 臨床データも数多く、その安心感からか、発売から4カ月で臨床の現場に「急速に浸透している」というのが東京都立駒込病院外科・臨床試験科部長で乳がん治療を専門とする戸井雅和氏の印象だ。

 乳がんの術後補助療法においては、20年来、抗エストロゲン薬であるタモキシフェンが標準的に使われてきた。しかし5年を超えて治療を継続した場合の有効性は明らかでなく、タモキシフェン5年投与後の治療薬として、レトロゾールが登場したときは、「ホルモン療法は新しい時代に入った」(戸井氏)と大きなインパクトを与えた。

 アロマターゼはエストロゲン生成に関与する酵素。閉経後も副腎から分泌されるアンドロゲンが脂肪組織などで、アロマターゼによってエストロゲンに変換される。アロマターゼ阻害剤はエストロゲンの生成過程を妨げることで、ホルモン受容体陽性の乳がんの増殖を抑止することが期待されている薬剤だ。

 レトロゾールが加わることで、アナストロゾール(商品名:アリミデックス錠)、エキセメスタン(商品名:アロマシン錠)と、乳がん治療薬として国際的に有用性が示されている3剤が国内でも出そろったことになる。

エビデンスのある
投与法に大きな違い


 3剤にはいくつかの違いがある。例えば臨床試験のデザインと副作用プロファイルだ。表1のとおり、試験デザインは、手術直後からの投与(Initial adjuvant therapy)、タモキシフェンの数年間の投与後に薬剤を変更(Switching)、タモキシフェンによる術後補助療法完了後の投与(Extended adjuvant setting)の3種類に分けることができる。

 まず初回投与では、アナストロゾールが、ATAC(Arimidex, Tamoxifen, Alone or in Combination)試験において、68カ月(中央値)で、無病生存率がタモキシフェンより13%高く、再発までの期間が21%延長、遠隔転移の発生率は14%減少、対側乳房再発は40%以上低下した。

 スイッチ投与においては、エキセメスタンが、IES(Intergroup Exemestane Study)試験で、2~3年間のタモキシフェン投与後からスイッチ投与した結果、56カ月(中央値)で死亡率は17%減少、再発率は25%低下、対側乳房再発は44%、遠隔再発は18%減少した。

 そして延長投与では、レトロゾールがMA.17試験において、プラセボ群と比較して再発のリスクを42%低下させ、4年時点での無病生存率がレトロゾール群で94.4%と、プラセボ群の89.8%より高い。全生存率は両群間で同等だったが、腋窩リンパ節転移陽性症例では39%改善した。

 さらに今最も注目されている試験がBIG(Breast International Group)1-98スタディである。26カ月(中央値)でタモキシフェンと比べて、レトロゾールでは再発リスクが19%減少、無病生存期間を延長し、遠隔転移のリスクが27%減少した。初回投与として有用性が高い可能性が出てきたわけだが、まだ24カ月の結果であり、最終的な結論がでるのは来年以降になりそうだ。

 こうした臨床試験デザインの違いは、各薬剤の有効な投与法を選択する際に大いに参考になるはずだ。

レトロゾール投与の
心イベントは注意


 AIで報告されている主な有害事象は、関節痛や関節炎、骨折や骨粗鬆症、血清脂質などで、タモキシフェンで多くみられるほてりや膣出血、子宮内膜増殖性疾患などは比較的に少ない。それもタモキシフェンに勝る点といわれている。しかし臨床面で特に注意が必要なのがレトロゾールにおいて心血管イベントへの影響が報告されたことだ。

 BIG1-98試験によれば、レトロゾールとタモキシフェンの比較で、心血管イベントの発症率には有意な違いがなかったが、グレード3~5の割合が、レトロゾールは2.1%と、タモキシフェンの1.1%に対して有意に高かった。

 ところがプラセボと比較したMA.17試験では、いずれも3~4%とイベント発症率に違いが見られなかった。タモキシフェンには心機能保護作用があると考える人も少なくなく、BIG1-98ではタモキシフェンとの比較でレトロゾールのリスクが高く出たに過ぎないという見方もある。

 現時点では、「合併症のある人、肥満の人は注意して使うようにする」(戸井氏)こととし、BIG1-98試験の今後のデータに注目する必要がありそうだ。

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