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Report 診療報酬改定 [06 Autumn]
医師や病院の実力を点数に反映へ
治療成績の評価方法に課題

2007/02/07
日経メディカル Cancer Review

難しい症例は放置され
若手医師は経験積めず


 だが、こうした試みに対し、疑問を投げかける医療人も多い。

 「医療機関と医師個人からデータを収集し、手術件数と治療成績との相関関係を調べるという考え方は、どちらか一方のデータだけで結果を出すよりも信頼性は上がる」と乳がん医療を専門とするブレストピアなんば病院(宮崎)院長の難波清氏は理解を示す。さらに調査対象の医療機関、医師が多ければ多いほど、一定の傾向が表れ、複雑で不確実な手術と治療成績というテーマにメスを入れる1つの方法として成立すると予測する。

 だが、問題は「成績の指標を何にするかということです。疾患の良性と悪性、待機手術と緊急手術、臓器の違いなどによって、治療成績はずいぶん異なる。指標の種類によっては、その信頼性もばらばら」(難波氏)と、指標策定の難しさを指摘する。

 さらに「社会的な混乱を避けるために、調査から得られる分析結果を調査目的に限定したマクロ的な評価だけ公表し、ミクロ的な項目は公表しないということも極めて重要だと思う」(同)と、指標によっては医療の信用失墜につながりかねない事態を危惧する。

 今回の調査研究に対して難波氏は「賛成か反対かは正直、判断がつかない」と困惑を隠さない。

 慶應義塾大学医学部外科教授の北島政樹氏も手術件数と治療成績との相関関係について、「確かに手術件数が多ければ良いというものではない。例えば進行がんの手術を多く行えば、手術成績は悪くなる。一方、簡単な胃がんの手術が多ければ、成績は向上する。手術件数と治療成績との相関関係を割り出すには疾患の内容を十分解析する必要がある」と指標策定に注文を付ける。

 また「一般病院と教育病院では当然、成績に差が出てきます。若い医師を育てることも大切ではないでしょうか」(北島氏)と施設の性格も指標に加味することを示唆する。

札幌恵佑会病院院長の細川正夫氏。「 地域の事情をどのように評価するのか」(写真◎辻正人)

検討の過程でDPCの
あり方も問題に


 食道がんなど消化器がんの治療で著名な札幌恵佑会病院(札幌)院長の細川正夫氏は「医療機関は科学的なデータに基づいた治療成績を患者に開示していかなくてはならない。こうした意味で今回の調査研究には賛成」と前置きした上で、「問題は患者の重症度と入院日数を指標にどのように加味するかという点だ」と話す。

 細川氏はこの問題の背景に現在、全国で導入が進んでいる診断群別定額支払い方式(DPC)があるという。「DPCでは合併症がなく、手がかからない患者が治療を受けやすくなります。だが、そもそもDPCは米国で失敗した制度。DPCで重症の患者がきちんと治療できるのか、検証してもらいたい。食道がんの患者は、がん以外にもいくつかの疾患を持っている場合が多い。手術件数と治療成績との相関関係を調査する上で、DPCの存在が問われるはず」(細川氏)と強調する。

 入院日数に関しても、「北海道の場合、片道5~6時間かけて来院する患者も珍しくない。こうした患者は入院を強く希望するし、病院としてもなかなか帰せない」(同)と地域の事情を説明する。

 また、患者は入院先の病院を替えることもあり、患者の治療が一病院で完結しない場合、入院日数をどのように考えればいいのか、疑問を呈する。「大学病院では手術後、患者を系列の市中病院に移送するケースもある。これによって、大学病院と市中病院で入院日数に差が出ることがある」と指摘する。

 医師個人からデータを収集し、評価することに関しては、「一施設に複数の医師がいる場合は、治療成績の良い医師に手術が集中することになりかねません。これでは経験の浅い若手医師は手術の機会が減り、技能が身につきません。特に研修医は困るでしょうね」(同)と後進の育成に対する影響を懸念する。また、「食道がんの手術は1から10までを一人の医師が行うことはない。分担作業で行うが、この場合、データはどのように収集するのか」(同)と首を傾げる。

 日本医師会の中川俊男常任理事は7月25日に開いた記者会見で、医師の資質によって診療報酬に差をつけることに、改めて反対の姿勢を表明した。その理由として中川氏は「症例数を増やすために、技術的に難しくない手術を多く実施することになりかねずまた、医師個人の評価自体も非常に難しい。医師の能力は患者さんも加えて評価すべきもの」などとしている。

疾患層や施設特性
地域性など勘案を


 患者本位の医療を推進するため、医療機関や医師個人の医療力を開示することは、避けては通れない時代だ。だが、その医療力を評価するための物差しをどのようにして決めるかが大きな問題。安易に物差しを決めてしまうと、難しい症例が放置され、ひいては臨床医学の進歩を止めることになりかねない。

 また、経験の浅い若手医師に、経験を積ませにくい状況が出現すれば、いつまでたっても技能は身につかず、日本の医療力は下降線をたどることになる。

 調査研究は端緒についたばかりだが、治療成績の指標は疾患層や施設特性、地域性、住民動向なども勘案し、策定する必要がある。できるだけ多くの医療機関、医師を対象に、データを収集していくことも欠かせないだろう。

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