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リポート―膵がん治療 [06 Autumn]
ポスト・ゲムシタビンの最有力候補は?
膵がん治療のブレークスルー

2007/02/07
日経メディカル Cancer Review

TS-1の効能追加で
武器は2つに

 国立がんセンター中央病院肝胆膵内科医長の奥坂拓志氏は「6カ月の壁」を破るためには、ゲムシタビン耐性後に使用できる新薬の開発、薬剤感受性が高い患者を事前に診断できる技術に加え、まったく新しい治療原理の発見が必要だと説明する。

 膵がんの化学療法では、8月に大きな動きがあった。胃がんや肺がんの治療薬であるTS-1(5-FUのプロドラッグであるテガフールモジュレーターであるギメラシルとオテラシカリウムを配合)が膵がんに対する効能追加が承認されたのだ。中尾氏は「ゲムシタビン耐性が出るともう使用する薬がないというのが、これまでの状況だった。TS-1が出たことで、やっと武器が2つになった」と歓迎する。今後はゲムシタビン耐性患者に限ってTS-1を使うべきか、ゲムシタビンに先駆けて1次治療としてTS-1を使うべきかなどを検討していく必要があると中尾氏はいう。

 奥坂氏らはゲムシタビンとTS-1とを併用した“GS療法”の多施設共同臨床試験を行った。試験は今年7月までに解析を終了したものの詳細なデータは明らかにされていない。しかし、「これまでの海外の臨床試験が出したデータを上回る成績が出た。数カ月はMSTを伸ばす」ことを奥坂氏は明らかにしている(試験デザインや評価項目などは図2参照)。奥坂氏は、有効性と安全性が確認された後、GS療法が標準療法となるかどうかを検討する試験を開始する意向だ。GS療法の主な有害事象は好中球減少症だ。ゲムシタビン、TS-1の単独使用よりも明らかに増える。また発疹もGS療法で相乗的に増える傾向が見られる。しかし、休薬によって改善することから、治療遂行の妨げになるほどではないと奥坂氏はいう。

 奥坂氏らの試験に先行して神奈川県立がんセンターの大川氏は横浜市立大学市民医療センター、北里大学病院と共同でゲムシタビンとTS-1を併用した臨床試験を行っている。これまでの結果では18人に遠隔転移患者に対して、MSTは336日±37日と際立って良好な成績が出た。大川氏は「まだ症例が少なく、ちょっと良すぎるかなという成績が出ているが、ゲムシタビンとTS-1を併用すると11カ月くらいのMSTが得られるのではないか。膵がん患者全体の6割から7割がこの治療法の適応になる」と期待する。

注目される遺伝子解析、
遺伝子治療


 それでは、奥坂氏が最後に指摘したまったく新しい治療原理とは何か。1つは膵がんの原因となる遺伝子を直接制御する技術だ。東京女子医科大学の古川氏は、大腸がんなどと同様、膵がんの発生には遺伝子変異の集積が密接に関っていると指摘する。最初の変異は、多くのがん化に関るkRAS遺伝子の変異だ。この変異を伝達するMAPキナーゼ経路の恒常的な活性化が膵がん発病を促すという。

 図3は、遺伝子変異の集積と病理の相関を表した模式図。SHH、CDKN2A、TP53、SMAD4、DUSP6はいずれも、この経路にブレーキをかける遺伝子群だ。古川氏が東北大学時代に見いだしたDUSP6はMAPキナーゼのシグナル伝達に必須なリン酸化反応を止める働きを持っている。ところが、膵がん患者から分離した腫瘍細胞では広範囲に遺伝子にメチル化といって、メチル基がたくさん結合した結果、DUSP6遺伝子が発現しなくなり、結果的にブレーキがきかない状態になる。DUSP6が外れた膵がん細胞は他臓器に浸潤しやすくなるという。大川氏はこうした研究から超早期の分子マーカーが発見されると期待する。

 古川氏の狙いは遺伝子発現の亢進が膵臓細胞のがん化を促す遺伝子を発見し、この遺伝子の発現亢進を抑制することだ。膵がん細胞と正常の膵臓細胞の遺伝子発現の変化を比較し、こうした膵がん遺伝子の発見を試みている。もし遺伝子がたんぱく質に翻訳された後に抑制したいのであれば低分子化合物の阻害剤が、遺伝子そのものを抑制したいならば「RNA干渉現象」を利用して、原因遺伝子を選択的に切断する方法が有望だ。RNA干渉は相補的なRNA分子を細胞外から導入すると、遺伝子の構造(塩基配列)に選択的に、細胞中の遺伝子が切断される現象。狙った遺伝子をピンポイントで破壊する技術として分子生物学の研究室に普及している。このRNA 分子から病原遺伝子を破壊する新薬がデザインできるのではないかというのが古川氏の作戦だ。

 遺伝子治療や遺伝子診断など、遺伝子工学を駆使した全く新しい治療法の研究も進んでいる。奥坂氏は指摘する。「これだけネガティブデータが出れば、まだ誰にでもチャンスがあると見るべきだ」。

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