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リポート―膵がん治療 [06 Autumn]
ポスト・ゲムシタビンの最有力候補は?
膵がん治療のブレークスルー

2007/02/07
日経メディカル Cancer Review

 がんの中で最も5年生存率が低いがんである膵がん
 進行がんで発見される例も多く、「治療成績はここ30年間横ばい」という指摘もあるほどだ。標準治療薬である塩酸ゲムシタビンに加え、先月新たにTS-1の効能追加が決まり、「武器が増えた」と歓迎する声が上がる。しかし、2剤併用が実現しても、依然として治療の困難であることに変わりはない。ゲムシタビンの次、そしてTS-1の次は何か? (取材・文:編集部、八倉巻尚子)

 膵がん治療の難しさを物語る研究発表が、今年7月に横浜で開かれた日本膵臓学会であった。発表したのは東京女子医科大学消化器外科と消化器内科のグループ。母親、叔父、叔母に膵がん歴があり、姉(50歳)が膵がんになったことから、膵がんが発見される前の妹(47歳)が、上腹部痛を自覚し、かねてからフォローアップ中だった胆嚢結石の手術を目的に入院、精密検査を受けた末に全胃、全十二指腸、脾温存の膵全摘手術を行ったというもの。報告によるとこの妹は、超音波検査やCT検査では膵腫瘤は指摘されなかったが、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)の膵液細胞診でclassIIIを認めたという。

 同グループでは、膵がん発症リスクが高く、上皮内がんの段階で膵がんを確実に診断することは難しく、またTS1の段階にある膵がんでも再発リスクが高いこと、さらに膵臓全摘のデメリットなどを説明した上で、同意を取得した。「興味深いことに病理所見では、膵がんの前がん病変であるPanIN1~2の病変やIPN 病変が認められたこと」と病理診断に協力した同大学国際統合医科学インステティテュートの助教授の古川徹氏は語る。

 膵がんは早期病変が観察されるケースが少ない。この患者には、その早期病変が認められたことになる。古川氏は「2親等以内に膵がん患者が2人以上いると、膵がんの罹患率はそうでない場合に比べ5倍くらい高くなるといわれている。こうした家族性の膵がん患者を登録しての研究が欧米で始まっている」と指摘する。家族歴を吟味するのは早期の病変を発見する技術を確立したり、発病の危険因子を洗い出すことができると期待されるからだ。予防的切除が必要とされるほど、膵がんの治療が厳しい状況にあることの象徴ともいえるだろう。

「毎年検診を受けても
早期発見できない」


 国立がんセンター中央病院がホームページにアップしている同院の患者の5年生存率では、男女ともに最下位は膵がんだ。これはどの医療機関でも同様だ。米国でも「30年間、目立った進歩がない」と酷評されているのが膵がんだ。長年、外科医の立場から膵がん医療に携わってきた名古屋大学消化器外科教授の中尾昭公氏は、膵がんの治療成績が伸びない最大の原因は早期発見の難しさだと指摘する。膵がんの病期はstageI~IVbの5段階に分けられる(図1)が、「発見された時点で多くのstageがIII以上、IVaやIVbで見つかるケースが少ない。発見された時点で多くは肝臓や腹膜、リンパ節に転移している。毎年検診を受けても胃がんや大腸がんのように早期発見はできない」。早期発見ができ、手術ができても5年生存率は20%に届かない。

 神奈川県立がんセンターの消化器内科肝胆膵部長の大川伸一氏は、膵臓という臓器の薄さも悪性度が高くなる理由の1つと指摘する。「1.5cmの厚さしかなく、がんが増殖するとすぐに外部に露出する。露出すれば、浸潤や転移が起きやすくなる」。肝がんのHCV(C型肝炎ウイルス)、HBV(B型肝炎ウイルス)の感染のような危険因子もはっきりしないことも、膵がん治療を混沌としたものにとどめておく一因だ。

10年続いた
ゲムシタビンの一人勝ち


 膵がんの外科手術については、反省期に入っている。1980年代の外科医の基本的なスタンスは「取れるものは取る」というものだった。しかし、それでも手術だけでは生存期間の延長が期待できないことがはっきりしてきた。現在は、化学療法や放射線治療との併用が模索されている。「朝から夕方まで長時間手術をし、血管をつないでも、5年生存率は10%前後にしかならない。手術プラスアルファを探している」と中尾氏。では化学療法はどうか?

 日本膵臓学会がまとめた「科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン2006年版」(金原出版)では、遠隔転移を有する手術不能の膵がんに対して推奨される一次化学療法として、DNA合成阻害効果を持った塩酸ゲムシタビン(商品名:ジェムザール)をエビデンスレベルが最高のグレードAで挙げている。

 ゲムシタビンの登場は、膵がん治療に本格的な化学療法の時代をもたらした。生存期間が延長されたほか、食欲が出る、疼痛が緩和されるなど、患者のQOL改善効果が注目された。有害事象も少ないことが評価され、2001年4月に承認された。大川氏は「ゲムシタビンの登場は衝撃的であり、医師としてもありがたかった」と語る。「経口薬で外来治療がスタートできるとなれば、患者の方もやる気が出てくることが分かる」という。

 ゲムシタビンがどのくらい優れた治療薬であるかは、表1を見れば一目瞭然だ。ゲムシタビン単独療法と“ゲムシタビン+α薬剤”の併用療法とを比較したランダム化比較試験では、ゲムシタビン単独を上回る成績がほとんど出ていないのだ。その中でも、昨年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)ではEGFR(上皮細胞増殖因子)のチロシンキナーゼ阻害剤に属する分子標的薬erlotinibとゲムシタビンの併用が生存期間中央値(MST)でゲムシタビン単独を上回ったのだ。まさに「10年ぶりの快挙」といわれた。しかし、その差はデータ上13日と計算され、臨床医にとっては物足りないものとなったことも否めない。ASCOもerlotinibを標準薬としての推奨を見送った。

 表1からも明らかなように、ゲムシタビン単独では、MSTは6カ月内外とほぼ固定化している。ゲムシタビンは使用を続けると耐性が生じ、無効化してしまうことが原因だが、この6カ月の壁を破る化学療法が求められている。

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