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化学療法アップデート [06 Autumn]
乳がんの最近の治療方針
高嶋班研究、St.Gallenの成果を踏まえて

2007/02/07
日経メディカル Cancer Review

分子標的薬剤

 HER2陽性乳がんの予後は不良である10)。従って、HER2陽性乳がんの至適補助薬物療法は確立されていない。近年、トラスツズマブ(H)を補助療法に用いた2つの臨床試験NSABP B-31とNCCTG N9831の中間解析が報告された。
 わが国も参加したHERA試験は手術および抗がん剤の術前もしくは術後補助療法を終了したHER2陽性早期乳がん症例を(1)無治療経過観察(2)トラスツズマブ3週1回投与×1年(3)トラスツズマブ3週1回投与×2年の3群で無作為比較した。いずれの試験でもHER2陽性乳がんの無病再発期間を改善している(図7)。

転移性乳がんの薬物療法

 転移性乳がんの治療目的は治癒ではなく症状緩和による延命である。1970年代に臨床試験によるプロトコール治療を受けた患者の予後を検討すると、生存期間の中央値(MST)は28カ月、5年目に生存していた患者は約22%で4~15年間の経過観察でも14%が生存していた。つまり転移性乳がんの5~10%は5年以上の生存が可能で、2~5%の患者が10年以上の長期にわたって生存する可能性がある。

 全身治療が転移性乳がん患者の長期生存を可能としていることの証明は必ずしも容易でない。つまり全身療法を行わなくても非常に予後の良い乳がんも存在する。また、化学療法を行って得られる生存期間の延長も非常にわずかであり、ほとんどが数カ月である。

 しかし、多くの臨床試験で得られた結果から全身化学療法により30%の死亡率の低下が可能であるが、期間はさほど長いものではないことを考慮する必要がある。

転移性乳がんの治療を決定する因子

 再発の形式により、適切な治療を行うことは重要である。 局所療法は、手術、放射線、温熱療法であり、全身療法として内分泌療法、化学療法、トラスツズマブ、骨転移などを念頭に置いたビスホスホネート製剤がある。全身療法はすなわち薬物療法であるが、乳がんの薬物療法には化学療法と内分泌療法がある。

 内分泌感受性の有無、再発までの期間、年齢、生命予後の観点から薬物治療を選択する。内分泌感受性があり、多発の肝臓転移、肺転移がなく全身状態(PS)の良い症例には内分泌療法が優先される。ただし、内分泌感受性があっても生命予後が不良と考えられる症例には化学療法が優先されることもある。

 内分泌療法の感受性は、初回治療の場合と同様に、ホルモン受容体で決定される。転移性乳がんにおける内分泌療法の感受性は、エストロゲン受容体(ER)とプロゲステロン受容体(PgR)により異なる。最も感受性の高いのはER陽性かつPgR陽性であり、50~75%の奏効率が得られる。最も不良なのはER陰性かつPgR陰性例のホルモン非感受性例で、残念ながら奏効率は10%以下である13~14)

緩和医療と終末期医療

 転移性乳がんの最終的な治療目的は緩和医療である。緩和医療の定義は、簡単に言えば症状の緩和を目的とする医療であり、終末期医療も緩和医療のひとつである。転移性乳がん、つまりstageIVならびに再発乳がんの治療は全て緩和医療と考えられる。

 一般的には終末期医療では主たる腫瘤の治療は行わず、疼痛緩和などの症状緩和のみ行われる。WHOの推奨に基づく治療アルゴリズムが役に立つ。緩和医療を必要とする乳がん患者の状態は様々で、Hortobayi氏の治療アルゴリズムも、症状緩和を考慮した治療法が患者の病態に応じて推奨されている。

 薬物療法が主体であるが、放射線治療も重要である。外科治療が選択されるケースはほとんどない。薬物治療にはモルヒネを用いる疼痛緩和も含まれる。

〔参考文献〕

1)日本乳癌学会編:乳癌診療ガイドライン(5)疫学・予防、東京、金原出版、2005年
2)日本乳癌学会編:乳癌診療ガイドライン(2)外科療法、東京、金原出版、2005
3)日本乳癌学会編:乳癌診療ガイドライン(3)放射線療法、東京、金原出版、2005
4)日本乳癌学会編:乳癌診療ガイドライン薬物療法、東京、金原出版、2005
5)Fisher B, Costantino JP, Wickerham DL, et al. Tamoxifen for prevention of breast cancer:report of the National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project P-1 study. J Natl Cancer Inst 1998;90:1371-1388.
6)American Joint Committee on Cancer. Breast. In: AJCC cancer staging manual, 5th ed. Philadelphia: Lippincott-Raven, 1997:171.
7)McGuire WL, De La Garza M, Chamness GC. Evaluation of estrogen receptor assays in human breast cancer tissue. Cancer Res 1977;37:637.
8)Slamon DJ, Clark GM, Wong SG, et al: Human breast cancer. Correlation of relapse and survival with amplification of the HER-2/neu oncogene. Science 235:177-182, 1987.
9)Goldhirsch A, Glick JH, Gelber RD, et al. Meeting Hilights: International Consensus Panel on the Treatment of Primary Breast Cancer. Annls of Oncolo 2005.
10)Romond E, Perez EA, Bryant J et al. Doxorubicin and cyclophosphamide followed by paclitaxel with or without trastuzumab as adjuvant therapy for patients with HER-2 positive operable breast cancer: combined analysis of NSABP B-31/NCCTG 9831. Presented at theAmerican Society of Clinical Oncology 2005 Annual Meeting, May 13-17, 2005, Orlando, FL.
11)Piccart-Gebhard MJ on behalf of the Breast International Group (BIG) et al. First results of the HERA trial. Presented at theAmerican Society of Clinical Oncology 2005 Annual Meeting, May 13-17, 2005, Orlando, FL.
12)Henderson IC, Harris JR. Principles in the management of metastatic disease, in Henderson IC, Harris Jr(eds):Breast Disease(2nd ed). Lippencot, New York, 1990,pp.547-677.
13)Howell A, Downey S, Anderson E. New Endocrine therapies for breast cancer. Eur J Cancer 1996;32:576-588.

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