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ルポ ─ がん医療の現場 東京医科大学 臨床プロテオームセンター [06 Autumn]
分子標的薬のマーカーを探索
薬剤性肺炎の予測も視野に

2007/02/07
日経メディカルCancer Review

質量分析を駆使して
マーカーの量産を目指す

 臨床家、加藤氏の夢を実現するために、東京医科大学病院(新宿)にほど近い三井住友ビルでは液体クロマトグラフィー(LC)と質量分析装置(MS)を組み合わせた装置群が稼働している。ここはメディカル・プロテオスコープというベンチャー企業。実は、臨床プロテオームセンターは同社の寄付講座なのである。「大学と全面協力することで、大学病院や関連病院から出た患者試料をスムーズに収集することが可能になった」とセンター教授でメディカル・プロテオスコープCTOも務める西村俊秀氏は語る。

 収集された試料たんぱく質はペプチドに消化され、LC、MSへというルートをたどる。ペプチドの質量数やアミノ酸配列の情報から細胞や組織内にどのようなたんぱく質が存在するか確認する。創薬の対象となる膜たんぱく質は細胞1つ当たり1000分子と微量。同センターのシステムではこのレベルの解析が可能だという。LCとMSの1セットで年間200~400人の網羅的なたんぱく質の解析が可能だ。

 ただし、感度の良さは精度の犠牲と裏腹。また同じ病気に患者でもたんぱく質にはばらつきがある。高性能の装置によってデータはどんどん出る。しかし、それは「偽陽性の海」(西村氏)と化すリスクを負っていることになる。「血清たんぱく質として有名なインターロイキン6や前立腺特異抗原(PSA)を現在の方法でゼロから発見するのは至難の業」と語る。

 開設後3年を経過して装置の基本的な運営システムの構築はほぼ終了したという。そこで課題になるのはソフトの面だ。ノイズを減らすために試料を同一の条件で調整するという派手な装置の陰で地味で繊細な作業が必要となる。それから忘れてならないのは、「試料の臨床的な裏付けがきちんととれたものを解析すること」と西村氏。成果が出るのはこれからだが、このとき臨床や病理の質が大きく問われることになりそうだ。

転移の術前診断が最も実用化に近い
東京医科大学外科学教授 加藤 治文 氏

 臨床プロテオームセンターが発足して3年が経過した。臨床の試料を使って、たんぱく質の網羅的な解析ができる--。3年間の成果は何かと問われれば、この方法論が確立したことといえるだろう。これまでの網羅的なたんぱく質の解析技術というと、多くの研究が培養細胞を使ったものだった。症例試料をしかもまとまった数を扱える体制ができたと考えている。

 最も臨床応用に近いのはリンパ節転移の有無を術前に占うことではないか。この技術が実現したあとのインパクトは大きい。

 リンパ節転移の有無が手術前にはっきりすれば、手術の方法はがらりと変わる。転移さえなければ良性疾患と同じだからだ。そうすれば内視鏡手術やロボット手術の応用という話も出てくる。手術時間は短くなり、合併症の頻度の低下も期待できる。

 私は外科医だが、正直に言って、このたんぱく質マーカーの話をしているときが今は一番楽しい。(談)

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