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ルポ ─ がん医療の現場 藤田保健衛生大学七栗サナトリウム [06 Autumn]
生存期間を延長する緩和医療
患者と家族をともにサポート

2007/02/07
日経メディカルCancer Review

写真1 藤田保健衛生大学外科・緩和ケア講座教授の東口高志氏(写真:早川俊昭、以下同)

 がん医療に携わるすべての医師に緩和医療へのかかわりが要求されている。とはいえ、どのような対応が有効なのか分からない、あるいは積極治療に忙しくて手が回らないというのが実情ではないだろうか。そんな折、藤田保健衛生大学七栗サナトリウムが取り組んでいる緩和医療が注目されている。緩和ケア栄養サポートチーム(緩和ケアNST)の導入に加え、家族の負担にも配慮した医療環境の構築など様々な工夫の結果が、生存期間・経口摂取期間の延長やじょく瘡の減少というデータとなって表れてきた。

写真2 藤田保健衛生大学七栗サナトリウムの全景

 月曜日午前9時30分。緩和ケア病棟の教授回診が始まった。教授とともに医師、看護師、臨床心理士が連れ立って患者が入院する個室に入る。
 畳敷きの個室に入ると、教授以下、スタッフは全員、ベッドの傍らに正座する。
 「おはようさん。どうですか」。
 教授が、患者の手や肩に触れながら話かける。女性の患者が応える。
 「ここ2、3日の喉がかすれてきたような気がします」。
 喉を触診しながら教授は言う。
 「しかし、ここに硬いものはないですよ。あんまり心配してもいけませんよ。先週よりも、今週の方がいい顔していますよ。ここ3週間でナンバーワンですよ」
 患者「ありがとうさんです。お茶会には毎回出るようにしています」。

 お茶会とは、週1回のペースで、施設の中央にあるコミュニティードーム(写真5)で開かれる茶話会のこと。患者、家族、医療スタッフ、ボランティアが参加し、お茶を飲んだり、付設のキッチンで調理した簡単な料理を食べることもある。
 時には音楽療法の専門家によるミニコンサートも開催される。個室の緩和ケアといっても、部屋に閉じこもったままよりも、室外の空気を吸って、家族以外の人間と交流することが患者にとっての滋養になるという意図から企画されている。
 それでも中には、まったく応答できなくなった患者もいる。こうした患者の傍らで息子だという60歳代の男性がいすに腰を下ろして無言で問診を見守る。この男性に教授が話しかけた。

 「どんな具合ですか」
 「ずっとこんな感じです」
 「少しはしゃべってくれるといいなあ」と教授。
 次の部屋では、女性患者がベッドに上半身を起こして待っていた。教授と患者は簡単な問診の後はもっぱら雑談。「先週ね、横浜の学会に行ったら、気温が36℃にもなって、往生しました。歩いていると汗でシャツがぐじゃぐじゃになりました」
 「まあ、大変」
 最後に教授が軽く患者の手を握ると、患者が言う。
 「こうして握手してもらうだけで元気になります」。 
 「そうですか」。
 患者にほほえみかけた教授が、背後にいた臨床心理士の名前を呼んで振り返る。
 「このことをしっかりノートしておけよ」。

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