Cancer Review on WEB

2009/12/11

化学療法アップデート

腎細胞癌の分子標的治療

ソラフェニブ、スニチニブの市販後調査を中心に


 2008年、細胞増殖阻害作用とともに血管新生阻害作用を主作用とする分子標的治療薬2種が本邦に導入された。加えて近い将来、これら薬剤と標的が異なるmTOR阻害剤の登場も予想されている。選択肢が増えることは治療の幅が広がることを意味していると同時に、個々の薬剤の特性を理解した有効な使い分けが課題となる。市販後調査の結果を中心に、薬剤の特性と副作用のマネジメントについて、慶應義塾大学医学部泌尿器科教授の大家基嗣氏に解説してもらった。

           慶應義塾大学医学部泌尿器科教授 大家基嗣氏



はじめに
 転移巣を伴う腎細胞癌は難治性であり、効果のある抗癌化学療法剤がなく、この20年間インターフェロンαIFN-α)やインターロイキン2IL-2)を中心としたサイトカイン治療が広く行われてきた。しかし、奏効率は10~20%程度に留まり、より有効な新しい治療薬が期待されてきた。2008年に本邦で、分子標的治療薬であるソラフェニブ(商品名:ネクサバール) とスニチニブ(同:スーテント)が相次いで承認された。両薬剤に共通する特徴は、細胞増殖阻害作用とともに血管新生阻害作用を持つという点である。

 腎細胞癌全体の約80%を占める淡明型腎細胞癌は血管新生が豊富な癌の代表格である。血管新生のメカニズムは概ね解明されているといってもよい。淡明型腎細胞癌の遺伝子レベルの原因として、von Hippel-Lindau (VHL) 病腫瘍抑制遺伝子の変異が最も重要な遺伝子異常として知られる。VHL 腫瘍抑制遺伝子が不活化すると転写因子であるhypoxia-inducible factor (HIF)の恒常的活性化が起こる。

 HIFとは日本語で低酸素誘導因子といい、組織が低酸素状態になると出現し、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor ;VEGF)を誘導することによって血管新生を促す。その結果、組織の低酸素状態が改善されることになる(図1)。通常、役目を終えたHIFは速やかに分解されるが、このとき分解の担い手となるのが、ユビキチンリガーゼ機能を有するVHLたんぱくである。VHL遺伝子に変異が入り酵素活性が低下すると、HIFは分解されず、貯留し、VEGF産生が持続されることになる。こうしたVHL遺伝子の変異が淡明型腎細胞癌では高頻度に見られる。

(画像をクリックすると拡大します)

 このように、淡明型腎細胞癌の増殖、悪性化にはVHL遺伝子変異を源流とするVEGF遺伝子の持続的な活性化が大きく寄与している。ソラフェニブとスニチニブはいずれも経口投与の小分子化合物であり、両薬剤はVEGF受容体のチロシンキナーゼ活性を阻害することにより、血管新生を抑制し、抗癌作用を有するものと考えられている。

 さらに、現在国内ではCCI-779 (海外商品名:テムシロリムス)とRAD001 (同:エベロリムス)というmTOR (mammalian target of rapamycin)を標的とするmTOR阻害剤の開発も進んでいる。以上のように分子標的治療薬が次々と導入されつつあることから、腎細胞癌は泌尿器科医にとどまらず腫瘍内科医にとっても最も注目されている癌となっている。

ソラフェニブの効果と副作用

 ソラフェニブの海外での第3相試験はサイトカイン治療に抵抗性の転移性淡明型細胞癌腎癌903例を無作為に2群に分け、ソラフェニブ (800㎎/day) とプラセボを投与した。2nd lineとしての投与である。無増悪生存期間(Progression free survival;PFS) はソラフェニブ群5.5カ月に対しプラセボ群2.8カ月であり、有意にソラフェニブ群が延長した。腫瘍縮小効果はそれぞれ10% と 2%であった1)。本邦では129例のサイトカイン抵抗性の進行性腎癌に対して奏効率を主要評価項目とした臨床試験が施行され、19例に部分奏効(PR)が認められた2)。要注意の副作用として、手足の皮膚炎である手足症候群(Hand-foot syndrome; HFS)、高血圧、下痢が指摘された。この結果を受けて、2008年4月に承認されたが、多彩な有害事象が観察されるため、市販後調査が義務づけられた。

ソラフェニブの市販後調査3)

 ソラフェニブの市販後調査では、2008年2月25日から2008年10月17日の期間で1725例が登録され、1147例において合計3528件の有害事象が報告された。このうち680件が重篤と判断されている。

 報告された有害事象を器官別大分類でみると「皮膚および皮下組織障害」が最も多く、次に「臨床検査」、「血管障害」、「胃腸障害」、「全身障害」、「代謝および栄養障害」の順であった。「皮膚および皮下組織障害」には手足症候群、発疹、脱毛の順に報告が多かった。「臨床検査」ではアミラーゼ、リパーゼの増加、「血管障害」は高血圧、「胃腸障害」は下痢であった。これらの事象は投与開始から約1カ月以内に発現していた。アミラーゼ、リパーゼの増加は観察されても膵臓炎の発症は極めて稀である。

 死亡例は1725例中130例であった。被験者が根治不能あるいは転移性の腎細胞癌患者群という背景から癌の進行による死亡がほとんどであるが、投薬と因果関係が否定できないと考えられる死亡例が9例あり、それら内訳は小脳出血、胃出血、消化管穿孔、間質性肺炎などであった。

 自験例での患者の副作用の推移を図2に示す。様々な副作用に対応し、減量を行わずに投与を継続し、病勢安定(SD)を維持している。

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(次ページに続く)
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