大腸癌
FOLFOX+ベバシズマブ療法
吉田 転移再発大腸癌については、欧米における新たな分子標的治療薬の話題が減り、停滞期にあるという印象を持っています。これまで周回遅れと揶揄されてきた日本ですが、挽回のチャンス到来ではありませんか。
瀧内 確かに、いわゆるドラッグ・ラグはほぼ解消されたと言ってよいでしょう。残された大きな問題は、セツキシマブによる1次治療とK-Ras変異検査の保険適用の2つで、これが解決しpanitumumabが承認されれば完全に追いつきます。
吉田 標準治療はFOLFOX(5-FU +LV+オキサイリプラチン)+ベバシズマブ併用療法と理解してよろしいですか。
瀧内 現在、日本も含めて最も支持されている治療法です。レジメンを構成している薬剤が禁忌といった症例を除けば、最も推奨できる治療法だと言えます。
吉田 FOLFIRI(5-FU+LV+CPT-11)+ベバシズマブ併用療法はいかがですか。
瀧内 同等の有用性があるとして推奨可能です。ただ、FOLFIRI+ベバシズマブ併用療法に関する1次治療としての検証試験は行われていません。単独の第II相試験の成績はFOLFOX+ベバシズマブと遜色ありませんし、V308試験でいずれを先行しても同等であったという結果が得られていますから、主立ったガイドライン上の取扱いも同じです。日本でも同様だと思いますが、FOLFOX+ベバシズマブ併用療法の方が使いやすさの点で支持されているのだと思います。
経口抗癌剤への可能性
吉田 確かにFOLFOXは世界中で支持されていますが、何と言ってもinfusionの手間が煩わしいし、事故にも繋がりかねない。従って、次世代治療は経口抗癌剤が主役という流れになっていますよね。カペシタビンについては多くの報告がありますが、TS-1はどのように評価されていますか。
瀧内 TS-1についてはSOX療法にベバシズマブを加える3剤併用療法とFOLFOX+ベバシズマブ併用療法を比較するSOFT試験が始まりましたので、その結果に期待したいところです。
吉田 SOX療法とFOLFOXの比較試験はないのですか。
瀧内 今のところ、計画を含めてありません。術後補助化学療法としてのカペシタビンとTS-1の比較試験はJCOGにおいて企画中です。
吉田 経口抗癌剤が主流になった場合、ロイコボリン(LV)の取扱いはどのようになるのでしょうか。
瀧内 TS-1ではLVの併用の意義が検討されています。SOX+LV(SOL)療法について有用である可能性が第1/2相試験で示されており、FOLFOXとの比較試験が予定されているようです。LVを加えることでフッ化ピリミジン系抗癌剤の抗腫瘍効果が高まることが知られていますから、大腸癌に対するTS-1を含むレジメンにも期待したいと思います。国内でも2次療法としてTS-1とCPT-11の比較試験が実施されています。
吉田 いずれにしても、これからは経口抗癌剤に大きな期待がかかっているということですね。
瀧内 特に、術後補助化学療法ではそのニーズが高いと思います。患者と医療者、双方にとっての利便性が静注剤に比べ高いので。
残された欧米との格差は
吉田 先生が先ほど挙げられた諸外国との比較で残された問題の1つに、K-Ras変異検査の保険適用をどうするかということがあります。
瀧内 K-Rasの変異の有無を事前に明らかにすることは、有効例を予測する上で価値があるだけでなく、不応例にはセツキシマブ以外の有効な治療レジメンを最初から適用することが可能になるということで、医療経済的にも大きな意義を持っています。K-Rasについてのレトロスペクティブスタディの結果を受けて、欧州連合では2008年に、米国でも今年の7月に変異の検索を承認しています。日本でも一日も早い承認を望んでいます。
吉田 全体の医療費が抑制されるという効用はよくわかります。しかし、患者個々にとっては、分子標的治療薬を使うことでもともと高額だった治療費がさらに高くなるという問題が出てくる可能性があります。将来、K-Ras以外にも検索すべき遺伝子が出ることも十分に考えられますし。
瀧内 確かに、検索にかかる費用と治療選択上確保すべき精度のバランスを考慮する必要があります。
吉田 同様の特徴を持つ新薬が現れた場合、臨床試験を行うにあたって治療開始前に遺伝子を検索し症例を選別するとなると、標的となる遺伝子のステータスの存在する頻度によっては、必要な症例数を確保するのに膨大な数の患者のスクリーニングが必要ということになります。超えなければならない高いハードルが、まだまだ残っているようですね。
High risk stage Ⅱ への対応
吉田 近々、オキサリプラチンによる術後補助化学療法が承認されるという話を聞きました。日本では手術成績の良さから、stageⅡを対象とした±術後補助化学療法の比較では差が出ないとされてきましたが、欧米では以前からstageⅡを補助化学療法の対象としてきましたし、最近ではhigh risk stage Ⅱというカテゴリーを提唱しています。このような症例に対して日本でトキシックな補助化学療法を適応することについてはどのようにお考えですか。
瀧内 StageⅡにおけるUFTを用いた術後補助化学療法の有効性が検証されているところですので、その結果いかんで必要性に一定の見解が得られると思います。ただ、先生が指摘されたASCOや欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で言うところのhigh risk stageⅡに対し、日本の実地臨床ではこれまでも術後補助化学療法を行ってきたというのが実態だと思います。
手術成績に関しても、欧米と日本では未だに大きな差があると考えられますし、日本での検証試験を実施しない限り外科医の先生方は納得しないと予想されます。一方、オキサリプラチンによる術後補助化学療法が認められるということは選択肢の増加を意味します。したがって、オキサリプラチンがわが国においても必要なのかとの意見もありますが、stageⅢbではその必要性を実感しており、選択肢の増加を素直に歓迎したいと思います。
吉田 JCOG0603試験のように、肝転移切除症例といった限定的な適応から入るのでしょうか。
瀧内 そうですね。ただ、JCOG 0603では毒性が原因で治療完遂率がよくないということを聞いています。StageⅢbも良い適応になると思います。
日本が世界をリードするには
吉田 食道癌と胃癌に関しては、これまでの多くの情報を日本から世界に向けて発信してきましたが、本日の瀧内先生のお話を伺い、大腸癌についても反転攻勢する時期が到来したのではないかと感じています。そこで、最後にここ1~2年のうちに日本の腫瘍医が何を為すべきか、宿題ですね。それを伺いたいのですが。
瀧内 次に行うことはよくデザインされたプロトコールによる臨床試験を、国を挙げて推し進めるということだと思います。その際、試験の対象となる患者には限りがあるということを認識し、関係者が十分な情報交換を行った上で実施しなければなりません。
吉田 前回の対談からの1年半の間に消化管癌の治療には大きな変化がありました。既に、日本には世界に先駆けて臨床試験を実施していく力が十分に備わっていると思います。次の対談の機会には、今回以上の変化を材料に、2人でこれを料理できることを楽しみにしております。本日はどうもありがとうございました。

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