Cancer Review on WEB

2009/12/3

がん医療対談

日本が世界をリードする時代に

消化器癌治療を展望する


昨年夏号に続き、消化器癌臨床研究のトップを走る専門家の対談をお届けする。食道癌の標準治療は、進行胃癌の分子標的治療薬の導入は、drug lagがほぼ解消された大腸癌領域の次の課題は何かなど、過去1年の動きをテーマに話し合ってもらった。




吉田茂昭氏 1971年、北海道大学医学部卒業。国立がんセンター病院内科レジデント、同消化器科医長。87年に米国メイヨー・クリニックに留学。92年に国立がんセンター東病院内視鏡部長、95年5月に同院長に就任。07年より青森県立中央病院長

吉田 前回、瀧内先生と対談した2008年2月から約1年半の時間が経過しました。その間に消化器癌の治療に関する状況はかなり様変わりしています。本日は、この1年半の間に出てきたエビデンスや新規治療法をじっくり吟味して、実地臨床で活かせる情報を読者の方々にお届けしたいと考えています。


食道癌


標準となった術前化学療法

吉田 先ず、食道癌についてですが、stage Ⅱ/Ⅲ症例を対象に、術前にシスプラチン(CDDP)+5-FU療法(CF)を2コース実施して手術をする術前化学療法群と、術後にCF療法を2コース行う術後化学療法群の予後を比較する第Ⅲ相試験(JCOG9907)の中間解析の結果が報告され、全生存において術前化学療法の優越性が示されましたね。

瀧内 JCOG9907の術前化学療法群の5年生存率は58%、術後化学療法群は36%でした。切除可能ステージにおける化学放射線療法の有用性を検討したJCOG9906試験での5年生存率が37%にとどまったことを考慮すると、stage Ⅱ/Ⅲに対する標準治療は、“術前化学療法→手術”であると認めざるを得ません。

 われわれ腫瘍内科医は、化学放射線療法が外科手術に匹敵すると期待していたのですが、現時点では手術拒否例における選択肢の1つという位置づけにとどまると考えています。

吉田 現在、照射線量を50.4Gyに減量したRTOGレジメンの放射線化学療法が国立がんセンター東病院を中心に検討されてますが、これまでの報告では無効例に対する手術の合併症がきわめて少ないようですね。そうなると、これからの食道癌治療というものは、まず、化学療法あるいは化学放射線療法を行ってから手術をするという戦略が基本になりそうな気もしますが。

瀧内比呂也氏 1985年、大阪医科大学卒業。国立がんセンターを経て、95年に同大学第2内科講師。96年から97年に米国M.D.アンダーソンがんセンターに留学。08年に大阪医科大学第2内科准教授、06年から同大学化学療法センター長。09年に教授に就任

瀧内 その際、導入療法に何を持ってくるかが重要なポイントになります。JCOG9907のサブセット解析では、stage Ⅱ症例群については術前化学療法群の優越性が顕著なのですが、stage Ⅲ症例群では両群間の生存率に差はありませんでした。

 このことは、CF療法の限界を示唆するものと捉えています。したがって、次のステップとしては導入療法にCF+α、例えばドセタキセルを加えた3剤併用療法(DCF療法)を持ってくるのか、あるいはCF+放射線治療を持ってくるのかといった検討が必要だと考えています。なお、DCF療法については、JCOG0807(第1/2相試験)が開始されました。

吉田 Stage ⅢにはDCF療法や50.4Gyの放射線化学療法を持ってくるとして、これ以外にはどのような治療レジメンが考えられるのでしょうか。

瀧内 食道癌と同細胞系統である頭頸部癌で良好な成績を示した抗体医薬のセツキシマブが有望だと考えています。ただし食道癌についての分子標的治療薬の新たな展開はありません。


胃癌


国際共同試験の意味

吉田 胃癌については、多くの知 見 の 集 積 が ありました。切 除不能・進行再発症例を対象とした JCOG9912、SPRITS(S-1 pluscisplatin versus S-1 alone for the fi rstlinetreatment of advanced gastriccancer)、DCF療法の有効性を検討したV325試験など。また、治癒切除例ではstage Ⅱ/Ⅲに対するTS-1(S-1)の術後補助化学療法の有用性を検討したACTS-GCなどがあり、多くの第3相試験で標準的化学療法が明らかにされています。

 特に、切除不能・進行再発症例については、SPRITS試験の結果から、わが国ではTS-1+CDDP併用療法が標準治療として位置づけられています。一方、米国を中心に行われたV325試験ではDCF療法に毒性に問題はあるものの、CF療法よりも有意に良好な無増悪生存期間、全生存期間、奏効率を示しました。これらを踏まえて、標準治療をどのように捉えていますか。

瀧内 日本国内で行われた臨床試験と多国籍多施設共同臨床試験を分けて考える必要があると思います。すなわち、実地臨床に即した標準治療が何かを判断するには、その国独自の臨床試験の結果を用いるべきであり、新薬のポテンシャルを評価するには、スピーディーな結果が得られるということから国際共同臨床試験が適しているということです。

 国際共同臨床試験の特徴として、国別のサブセット解析を行うと結果に大きな偏差が生じることが知られています。FLAGS(First LineAdvanced Gastric Cancer)試験がそのよい例です。日本の切除不能・進行再発胃癌の標準治療であるTS-1+CDDP併 用 療 法 とCF療 法を比較したこの試験では、TS-1+CDDP併用療法のCF療法に対する優越性が認められず、残念ながら世界標準治療とはなりませんでした。しかしながら、サブセット解析が行われたところ米国のデータでTS-1+CDDP群がより良好な成績を示していました。

吉田 FLAGS試験では、東欧や南米といった化学療法に不慣れな地域からの登録症例数が多かったと聞いていますが。

瀧内 おっしゃる通りです。それらの国のTS-1+CDDP併用療法群の成績は、相対用量強度が高いにもかかわらず悪く、逆に米国はそれが低いにもかかわらず良好な成績を示しています。東欧や南米では毒性等に対し用量調節をするといったことが為されなかった可能性、あるいは医療保険制度が影響したことが考えられます。
 不思議なことに、HER2陽性切除不能・進行再発胃癌に対する抗体医薬トラスツズマブの有用性をみたToGA試験(後述)では、国別解析でFLAGS試験と全く逆の結果となっています。

吉田 国際的な大規模臨床試験の難しさですか。

瀧内 FLAGS試験がTS-1+CDDP併用療法のCF療法に対する非劣性の検証であれば、今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表された追加解析から明らかなように、両治療レジメンの同等性が証明されていたはずです。残念です。

CDDP以外との併用の可能性

吉田 TS-1+CDDPがわが国の標準的治療と評価して良いことはわかりましたが、若年者であっても、腎機能低下や蓄積毒性などでCDDPが使えないケースでのTS-1のベストパートナーをどう考えたら良いでしょうか。

瀧内 タキサン系の薬剤、特にドセタキセルで有望な結果が出ています。現在、日韓で検証しているTS-1+ドセタキセル併用療法は好適な選択肢と言えると思います。オキサリプラチンも可能性があります。今年のASCOでTS-1+オキサリプラチン併用(SOX)療法に関する第2相試験の成績を報告しましたが、良好な結果を得ています。外来化学寮法という時流にもマッチしますし、患者、医療者双方にメリットのある治療レジメンとして受け入れられやすいと思います。

吉田 SOX療法対TS-1+CDDP併用療法で、SOX療法の非劣性が証明されれば、標準的治療の適応範囲が更に拡大するということですね。

瀧内 検証に成功すれば、患者と医療者にとって大いに福音となります。

吉田 TS-1のパートナーとしての塩酸イリノテカン(CPT-11)についてはいかがですか。

瀧内 CPT-11を含むレジメンを検討したJCOG9912試験のCPT-11+CDDP併用療法群とGC0301/TOP002のTS-1+CPT-11併用(IRI-S)療法群の生存曲線に共通してみられるのが、治療開始早期は良好ながら、長期生存には問題がありました。

 この現象は、1次治療でCPT-11を使ってしまうことで2次、3次治療での選択肢がなくなることに起因すると考えられます。したがって、現状ではCPT-11を含む治療レジメンは、2次治療以降に位置づけざるを得ないのではないでしょうか。

TS-1を使いにくいケースでは

吉田 では、逆にCDDPではなくTS-1を使いにくいケース、例えば、TS-1による補助化学療法施行中の再発あるいは転移例に対してはどのように考えたらよいでしょうか。愛知がんセンター等から、TS-1の再投与に否定的なデータが、少数例の検討ながら出ているようですが。

瀧内 これは議論のあるところですね。神奈川がんセンターからも同様の、ある程度まとまったデータが報告されており、その場合のMSTは切除不能・進行再発例に比べて2~3カ月短いとされています。TS-1の再投与を判断する上で基準となるのは、TS-1の投与終了後からの経過時間だと思います。諸説ありますが、今のところ、TS-1による無治療期間を6カ月以上とするということで一応の同意が得られています。TS-1投与終了後6カ月以内、あるいは投与中の再発・転移に対しては他の治療レジメン、例えばCPT-11+CDDP併用療法が推奨されます。

吉田 JCOG9912のサブセット解析で、肝転移例など標的病変の存在するケースでのCPT-11+CDDP併用療法は良好な成績を示していましたね。

瀧内 一方、腹膜播種例には殆ど効果がありませんでした。TS-1は、ACTS-GCで血行性転移に対するポテンシャルが弱いことが示唆されていますし、そこを補えるということでCPT-11+CDDP併用療法はよい選択肢になると評価しています。

吉田 腹水貯留例に対してはどうすればよいのでしょうか。

瀧内 タキサン系薬剤を単独で用いることが考えられます。ほかの選択肢としては、メソトレキサート(MTX)+5-FU併用療法に関する第3相試験であるJCOG0106では否定的な結果となりましたが、現在、5-FU+ロイコボリン(LV)+タキサン系薬剤併用療法に関する第2相試験が開始されていますので、その結果を待ちたいと思います。ただ、TS-1はもともと腹膜播種にかなり高いポテンシャルを持つ薬剤ですので、これが無効なケースは相当な難治例と理解しておくべきだと思います。

(次ページに続く)
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