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関心集めた新規制吐療法
支持療法の国際会議MASCC総会報告

2009/12/01

PROTECT試験の結果を発表した順天堂大学医学部准教授の斉藤光江氏

日本発PROTECT試験をめぐり激論

 今回のMASCC会議で最も白熱した議論が展開されたのは日本から発表されたPROTECT試験の結果をめぐるものだった。5年おきに制吐剤のガイドラインを見直すために、MASCCの下部組織である作業部会がローマから100kmほど離れたペルージャで開催された。前回の2004年の会議以降、どのような報告があったかを吟味し、その結果を新しいガイドラインに盛り込むかどうかを2日にわたって23人の委員によって議論された。この会議に日本から唯一招聘されたのが、順天堂大学医学部乳腺内分泌外科主任准教授の斉藤光江氏だった。斉藤氏はLancet Oncology誌(2009;10:115-24)に今年はじめに掲載されたPROTECT試験の筆頭著者だ。この試験がいかに世界的に注目されたかの証明でもあるが、一方で斉藤氏は「制吐剤をめぐる日本の孤立ぶりをも痛感する」経験をすることになる。

 PROTECT試験は、新しい5-HT3RAであるpalonosetronと日本で使用されている代表的な制吐剤で5-HT3RAでもあるグラニセトロン(代表的な商品名「カイトリル」)との急性CINVと遅延性CINVにおける制御効果を比較したランダム化比較2重盲検試験。palonosetronはスイスHelsinn Healthcare S.A.社が開発した5-HT3RAで、血液中半減期が40時間と4~8時間が普通の従来の5-HT3RAよりも長く、急性CINVのみならず遅延性CINVへの効果も期待されていた。実際、それを示す第2相試験の結果が世界中で数件あった。2003年に米国食品医薬品局(FDA)で承認され、現在60カ国で使用されている。日本ではHelsinn社から導入した大鵬薬品が承認申請中だ。

 PROTECT試験に参加した患者は75施設から1143人。これは、制吐剤の臨床試験としては過去に例を見ない規模だ。Palonosetron(0.75㎎Ⅳ)とデキサメタゾン(16㎎Ⅳ)を555人に、対照としてグラニセトロン(0.04㎎/㎏)とデキサメタゾン(16㎎Ⅳ)を559人に投与した(図1)。急性CINVについては、palo群で418人(7.3%)、グラニセトロン群では410人(75.3%)の嘔吐を完全に抑え、両群に差はなかった。一方の遅延性CINVについては、palo群では315人(56.8%)が完全に抑えたのに対して、グラニセトロン群ではその数は249人(44.5%)に留まり、統計学的な有意差がついた(P<0.0001)。

 つまり、palonosetronは、急性期CINVでは既存の5-TH3RAとの非劣性を遅延性CINVについては優越性が証明できたことになる。ステロイドのデキサメタゾン自体にも嘔吐抑制効果が認められ、現在では併用が主流だが、5-HT3RAの比較試験でデキサメサゾンを併用しても優越性が証明された例はなく、この点でも注目された。

 PROTECT試験の結果を受けて、NCCNは制吐療法のガイドラインにpalonosetronを推奨する1文を加えた。では、制吐療法の方針に最も大きな影響力を持つ、MASCCガイドラインではどうか?palonosetronの使用を推奨するというような1文がガイドラインに書き加えられるのだろうか?日本発のエビデンスは世界のガイドラインを塗り替えることになったのか?

 MASCC会議の最終日である6月27日の朝、制吐療法のガイドラインの新しい骨子が発表されることになるその瞬間を、関係者は固唾をのんで待った。

 PROTECT試験の結果を見る限り、palonosetronが既存5-HT3RAのチャンピオンであるグラニセトロンに少なくとも遅延性CINVで勝っていることは明らかなように見える。しかし、ガイドライン策定に中心的な役割を果たす伊Perugia病院腫瘍医学部門のFausto Roloio氏は、シンポジウムの席上、PROTECT試験の意義を認めつつも、「ほかの5-HT3RAに比べpalonosetronが優れているとは結論できない」という冷ややかな結論を下した。

 そして、MASCCとしてはこれまでどおり、HECについては、デキサメタゾンとNK1RAであるaprepitant)もしくはfosaprepitant)、5-HT3RAの“3剤併用”を推奨すると明言した。会議では、MECについてpalonosetronとデキサメタゾンの併用投与が推奨された。

 PROTECT試験は参加した専門家の関心を引いたことは確かだ。ではなぜガイドラインの改訂にまで至らなかったのか?Rolio氏らが指摘した点は、2点あった。1つはPROTECT試験が、MASCCが推奨してきた3剤併用ではなく2剤併用のアーム同士を比較していた点だ。「現在の世界の標準レジメンは3剤併用であるのだから、3剤併用アーム同士で比較した結果でないとエビデンスにはならない」という論法だ。

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