Cancer Review on WEB

2009/12/1

関心集めた新規制吐療法

支持療法の国際会議MASCC総会報告


 支持療法緩和医療を討論する国際会議MASCC(Multinatioal Association of Supportive Care in Cancer)の総会が、6月25日から3日間にわたってイタリアのローマで開催された。世界53カ国から集まった810人の専門家の関心を最も強く引いたのは、制吐療法のガイドラインを改訂するべきかという議題だった。とりわけ最も時間をかけて、しかも最も熱心に討論されたのは、日本から報告された臨床試験PROTECT試験の評価についてだった。このほか、骨転移対策や栄養療法、骨髄抑制など、癌化学療法の現場の問題が取り上げられた。




 「化学療法の成功率を高めるにはまず予定された投薬計画を完遂する必要がある。嘔吐と吐き気はしばしば、化学療法の完遂に大きな脅威となる。特に、“遅延性嘔吐”は大きな脅威であるにも関わらず、医療者は不当に軽視してきた」(米国Vermont大学血液・腫瘍学教授のSteven M.Grunsberg氏)。

 同氏は、制吐療法の世界的な権威で、今回のMASCCシンポジウムでも、主導的な役割を果たした人物。制吐療法の進歩を認めつつ、遅延性といわれる嘔吐の対策にはなお課題が残っていると警鐘を鳴らした。

 過去10年の癌化学療法があげた最も輝く成果といえば、抗癌剤がもたらす嘔吐を緩和する薬剤、制吐剤の登場と普及といえる。グラニセトロンやオンダセトロンなどの5-HT3受容体拮抗剤(5-HT3RA)の登場は癌化学療法の風景を一新させた。「抗癌剤の投与を受ければ、トイレに駆け込み、嘔吐する患者の姿が以前は普通だったが、最近そうした光景を目にする機会はめっきり少なくなった」と都内の癌専門病院の化学療法の責任医師は語る。

 しかし、一方で医療スタッフの目が届かない場で患者が嘔吐するケースは必ずしも減っていないという指摘もある。MASCC会議の理事で米国North Shore大学病院とLij Monter Cancer Centerの癌医療部門の副所長を務め、国際的な制吐剤研究者であるRichard Gralla氏も総会の席上、「予防的に制吐剤を使用しても30~40%の患者が嘔吐することがあり、緊急的な措置を必要としている」と指摘した。

 特に、問題化学療法を終えて自宅に帰った後の嘔吐に悩む患者は珍しくない。治療から戻って、1~2日は嘔吐に悩みつつ、食事もとらず、耐える。体調が回復すると次の化学療法の日がやって来る……。こんな“サイクル”で化学療法を受けている患者が少なくないというのだ。

 化学療法に伴う嘔吐は英文表記(Chemotherapy-Induced Nausea and Vomiting)の頭文字を取って、CINVと呼ばれる。このCINVには、投薬を受けて24時間以内に起こる急性期嘔吐と24時間以降に発生して6、7日間続く遅延性嘔吐がある。

 急性期CINVの仕組みの解明は進んでいるが、遅延性CINVについてはニューロキニン1(NK1)などの神経伝達物質が関係しているということが判明しているが、完全には解明されていない。後述するように急性期CINVは既存の5-HT3RAで対応可能だが、Grunsberg氏が懸念を表明する遅延性CINVへの対策はNK1受容体阻害剤(NK1RA)が開発されているものの、まだ十分といえないというのだ。

 この遅延性嘔吐対策に大きなインパクトを与える臨床試験(第3相試験、PROTECT)の結果が、今年日本からLancet Oncology誌に報告された。MASCCの専門家会合でも、この論文の評価に多くの時間が費やされた。というより、ある意味物議をかもしたと言ったほうがいいかもしれない。しかし、この議論自体、適切な制吐剤のあり方を考える上で、示唆に富むものであった。

抗癌剤の種類によって異なる催吐性
 
 嘔吐する時間的違いに加え、CINVを理解するために知っておかなければならないことが「嘔吐を催す性質は抗癌剤の種類によって異なる」というものだ。表1は、米国臨床腫瘍学会(ASCO)やNCCNの制吐療法ガイドラインが定めた薬剤と催吐性の関係を示している。表中の「嘔吐の頻度」は、制吐剤を全く用いなかった場合の数値で表されている。日本でもよく使われる、シスプラチン(≧50㎎/㎡)やシクロホスファミド(>1500㎎/m2)は最も嘔吐しやすい薬剤である高度催吐性の薬剤(high emetogenic chemotherapeutic agents;HEC)ということになる。カルボプラチン、ドキソルビシン(>60㎎/m2)、メトトレキサート(>1000㎎/m2)などは中等度催吐性の薬剤(MEC)となる。NCCNガイドラインでは、AC(アドリアマイシン/シクロホスファミド)はHECに分類される。

(画像をクリックすると拡大します)

 MASCCでは、HECとMECとは別々のガイドラインを作成している。HECに対しては、5-HT3RA、デキサメタゾン、NK1RAのaprepitant(もしくはfosaprepitant、いずれも日本未承認)を使う。MECの場合、AC療法には、同じ3剤を使うが、AC療法ではないケースでは、5-HT3RAとデキサメタゾンを使用する。


(次ページに続く)
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