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インタビュー
医師主導治験がドラッグ・ラグ解消の切り札です
国立がんセンター中央病院臨床試験・治療開発部長 藤原康弘氏

2009/11/30

 海外の学会で画期的な成果が報告されるたびに繰り返し指摘される日本のドラッグ・ラグの問題。新薬承認の遅れだけでなく、“古い薬”が日本で適応がないがんの標準レジメンに採用されてしまうケースも増えている。最近、メーカーが手を出しにくい適応拡大に医師自らが独自に治験を組んで後押しする動きが出てきた。カルボプラチンの医師主導治験に乗り出す医師グループの藤原康弘氏に狙いと展望を聞いた。
(聞き手:小崎丈太郎=本誌編集長)



――今年も米国臨床腫瘍学会(ASCO)が終わって、重要な研究成果が報告されました。毎年のことですが、「日本でも取り入れよう」という議論になると、「あの薬は使えない」、「この薬は適応外だ」という話になってしまいます。ASCOで最も注目されたトリプルネガティブ乳癌の臨床試験(第2相)のレジメンにカルボプラチンが入っていましたが、日本ではカルボプラチンは乳癌への適応がありません。国際的な第3相試験にも日本からエントリーできないと嘆く専門家もいます。

藤原 カルボプラチンですか。カルボプラチンなら医師主導治験をわれわれがやりますよ。国立がんセンター中央病院乳腺・腫瘍内科グループの安藤正志先生が中心になって、厚生労働科学研究補助金がん臨床研究事業の一環として多施設共同試験の形で行う計画を進めています。

――対象は乳癌ですか。

藤原 もちろん、乳癌です。乳癌の治療には、カルボプラチンが重要な位置づけにあることは以前からわかっていました。しかし、ご指摘のように日本国内ではカルボプラチンが乳癌への適応がないので、何とかしなければと考えて、医師主導治験を始めることにしたのです。現在、そのための準備を進めているところです。

 指摘のように今年のASCOでは、ポリ(ADP-リボース)合成酵素(PARP)の阻害剤とゲムシタビン、カルボプラチンのレジメンをトリプルネガティブ乳癌に使用した結果が、プレレナリーセッション(PL、重要演題)に選ばれました。しかし、われわれは一昨年からカルボプラチンの医師主導治験の準備を進めていました。PLに選ばれたことから、元気づけられたことは確かですが、それを契機に着手したというわけではありません。

術前補助化学療法で時間と資金をセーブ

――カルボプラチンは特許も切れているために、メーカー側も積極的に、適応拡大の試験を行いにくい事情があります。医師主導治験はその突破口になりますね。

藤原 突破口になるかどうかは、メーカー側が適応拡大の申請をするかしないかにかかっています。治験を行うだけで、そのような状況になるわけではなく、メーカーの判断が重要です。メーカーにも開発の優先順位とか投入できる資源の制約など、いろいろ事情があるわけですから、そこの判断に外部から踏み込むことはできないと思います。治験の結果が肯定的なものになる保証は現時点ではないので、現時点でそれ以上のコメントはできません。

――どのようなプロトコールで進めるのですか。

藤原 現在までに決まっているのは、カルボプラチンを用いた術前化学療法で行うということです。ただ、詳細については、安藤先生を中心に関係者とつめている段階です。

――抗癌剤を使うタイミングは術後や転移・再発後などがありますが、術前補助化学療法を選択するのはなぜですか。

藤原 早く結果を出したいという狙いからです。医師主導治験ですから、当然、労力も資金も限られたものにならざるを得ません。しかも、ドラッグ・ラグを短縮するという目的を考慮すれば、術前化学療法でカルボプラチンの乳癌への奏効を見極めることが最善の選択だと考えています。

トラスツズマブでは3年間で2億円が必要だった

――実施体制の構築はどのようにするのですか。

藤原 医師主導治験では既にトラスツズマブ(商品名「ハーセプチン」)でフェーズ2試験を行った実績がありますが、今回も同様の体制で臨みたいと考えています。

 これは、2006年度から、やはり厚生労働科学研究費補助金事業の一環として行ったもので、HER2過剰発現する乳癌を対象に術前化学療法におけるトラスツズマブの有効性を検証するランダム化第Ⅱ相試験です(図)。国立がんセンター中央病院、国立病院機構大阪医療センター、聖路加国際病院など合計8つの医療機関が参加しました。

 データの質を担保するためには医療機関以外の協力も必要です。オペレーション部門としてデータマネージメントや統計解析を北里研究所に依頼、モニタリングや総括報告書の作成は外部の専門企業に依頼しています。病理の中央診断を3人の病理医に依頼、同様に効果安全性評価委員会を3人の外部の医師にお願いしました。治験薬と安全情報の提供では中外製薬の協力を得ました。

 治験開始のための調整管理費用で2000万円ほど、治験の実施では、2007年度、2008年度でそれぞれ9100万円、8000万円かかりました。このほかに、提供された薬剤費は1億円に相当します。

 結果は今年のASCOで発表しました。トラスツズマブの術前化学療法の有効性が確認されたことで、早期に適応拡大がなされることを期待しています。

 これまでの医師主導治験の経験を通して、どのような業務が発生し、それらの業務に対してどのくらいの経費が必要となるかを認識することができました。今後、これらの経験を国内治験業務の簡略化に活かしていきたいと思います。今回、トラスツズマブが一段落したことで、次はカルボプラチンで行おうということになったということです。

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