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インタビュー
HPVワクチンが登場しても子宮がん検診は重要です
社会保険相模野病院・婦人科腫瘍センター長 北里大学医学部客員教授 上坊敏子氏

2009/06/17
聞き手は小崎丈太郎=日経メディカルCancerReview編集長

――といいますと。

上坊 今、世界で使われているワクチンには、4価ワクチンと2価ワクチンがあります。4価は6型、11型の低リスクHPVと16型、18型の高リスクHPVとに効果があります。2価は16型と18型にだけ効果がある設計です。どちらも持続感染に対する効果は95%以上というデータが出ています。異形成から上皮内がん、腺上皮内がんに対する効果も90%以上です。投与は、4価が初回、2カ月後、6カ月後の3回、2価が初回、1カ月後、6カ月後のやはり3回です。

 しかし、先に説明しましたように、16型、18型が原因となるのは60~80%しかありません。全世界の女性が接種したとしても、ワクチンだけで子宮頸がんを撲滅することはできません。

性交開始前に接種が必要 社会的なサポートも不可欠

――先行した海外の事情はどのようになっていますか。

上坊 4価ワクチンについていえば、既に100カ国以上で承認されています。問題は何歳で接種するのかという点です。定期接種の対象は性交が始まる直前の9~13歳が最も有効というのが、各国の共通認識です。

 オーストラリアでは12~13歳、米国では11~12歳というように国情によって少し違いはあるようですが、おおむねその年代の女子が対象とされています。

 また、キャッチアップ接種といって、ワクチンを受けていないけれどHPVに感染していない13~26歳の女性を対象とした接種も奨励されています。多くの国では全額公費負担か、一部公費負担という支援体制を取っています。

(画像をクリックすると拡大します)

――日本で登場した場合も性交開始前に定期接種することが求められるわけですね。

上坊 社会にワクチンの意義をアピールして、心理的な抵抗感が出るのであれば、それを下げる啓発活動が必要になります。

検診体制が拡充されてこそ ワクチンが生きる

上坊 一番困るのは、ワクチンがあるから検診は不要になるのではないかという誤解が広がることです。日本では罹患者の数は正確なところはわからないのですが、年間の頸がん死亡数は4000人程度と推定されます。巷間いわれてきた年間2500人よりもはるかに多い死者を出しています。患者数も1990年までは減少傾向にありましたが、近年は増加傾向にあります。その理由の1つは、若い女性の性行動が活発化していることです。

 実は、日本のがん医療の課題の1つはがん登録が整備されていないことです。どのくらいの罹患者が出て、死者の数がどのくらいかは推定するしかありませんが、正確なところがわからない。ワクチンが導入されても、どのくらいの予防効果が発揮されているのかを正確に把握できない事態も考えられます。

 ワクチンがすべてのHPVをカバーしていないこと、また100%接種されるまでには社会受容という課題があることを忘れてはいけません。子宮頸がん撲滅が実現するとすれば、ワクチンと検診の両輪で実現されることになるでしょう。

――子宮頸がんはプロセスが長いというお話がありましたが、早期に発見すると、治癒できるということですね。

上坊 異形成や0期、Ⅰa期で発見できれば、治癒可能です。日本では、1960年代に宮城県などいくつかの自治体が子宮頸がん検診を開始、73年には全国で実施されるようになりました。しかし、その受診率は22%で先進国中では最も低い。

 日本と同時期に検診を開始した英国の受診率は80%を超えています。英国では、検診を受けていない女性に医師が検診を勧め、それに従って受診する女性も多いといいます。

上坊 敏子(じょうぼう・としこ)氏 1973年名古屋大学医学部卒業、北里大学病院レジデント。80年北里大学講師、2000年同助教授。07年から同客員教授、社会保険相模野病院・婦人科腫瘍センター長。日本がん治療認定医機構がん治療認定医。

――医師の働きかけが鍵を握るわけですか。ワクチンが登場しても検診の重要性が低下するわけではないということですね。

上坊 きちんとした検診体制があって初めてワクチンの価値も生かされるといった方がいいでしょう。

 子宮頸がんは予防できるがんです。そのための医学も発達しています。問題はそれを生かしきるような知識が社会の中に浸透していないことです。

 検診を受ける、ワクチンを接種する。こうした基本的な医療ができるような環境づくりに医療の側も力を注ぐべき段階にきています。学校、家庭での教育にもぜひ組み込んでいきたい。実際に検診受診率が高い国では、母親や学校の先生に勧められたという動機で受診する女性も多いのです。

 08年9月に「子宮頸がん予防の会」を立ち上げました。検診率向上を目指して「ティール&ホワイトリボンキャンペーン」という運動に賛同した啓発活動を産婦人科の女性医師と共同で開始しています。

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