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インタビュー
HPVワクチンが登場しても子宮がん検診は重要です
社会保険相模野病院・婦人科腫瘍センター長 北里大学医学部客員教授 上坊敏子氏

2009/06/17
聞き手は小崎丈太郎=日経メディカルCancerReview編集長

欧米では子宮頸がん予防を目的にヒト・パピローマウイルスワクチンが使われるようになり、子宮頸がんの撲滅の可能性が現実味を帯びてきた。日本でも早晩、ワクチンの登場が予想される。効果的に使って撲滅にまで導くには医療側の知識とノウハウが必要になる。この分野の第一人者である上坊敏子氏に子宮頸がん撲滅の可能性について展望してもらった。 (聞き手:小崎丈太郎=本誌編集長)


――子宮頸がんはヒト・パピローマウイルス(HPV)の感染が原因であることがはっきりしたがんです。このウイルスの感染を予防するワクチンが日本でも承認されれば、子宮頸がんで亡くなる患者をなくすことも夢でなくなるのではないかと期待しています。

ハイリスク型HPVの持続感染によって一部ががんになる

上坊 性器に感染するHPVは30~40種類ほど存在しますが、そのうちの約15種類が子宮頸がんの原因となるハイリスク型です。さらにハイリスクHPVの中でも16型と18型が原因の70%を占めると報告されています。国によっても事情が異なるようで、日本では60%くらいに下がるようです。

――残りの40%は?

上坊 別の型のHPVということになります。

――感染自体は広範に広がっていると考えていいのですか。

上坊 性交渉の経験がある女性の60~80%が50歳までに一度は感染するといわれています。

――感染しても持続感染にならない方もたくさんいるということですね。

上坊 日本国内の女性を対象にした調査では、HPVが検出されるのは10歳代で45%ですが23歳代では23%に低下します。年齢が上がるにつれて、感染率は低下し、40歳以降は5%となります。若いときに感染しても多くは自然に治りますが、10%は持続感染に移行するということです。

――持続感染した人に限って子宮頸がんになるということですね。

上坊 世界保健機関WHO)の世界の罹患率の推計では、発がん性HPVに感染していてもがんになるのは0.15%に過ぎないのです。感染しても多くの女性は一過性の感染で終わりますが、持続感染した一部が5年から10年かけてがんになります。

 HPVに感染して、軽度・中等度・高度異形成という前がん状態を経て、上皮内がんとなり、最後に基底膜を破って異常な細胞が増殖する状態の、いわゆる浸潤がんになるわけで、この過程に5~10年、時にはそれ以上かかるわけです。

 HPVに感染しても、症状がないので、無自覚なまま過ごすことになります。がんの進行期は0~Ⅳ期に分けられます。0期は上皮内がんでがんが粘膜の内部にだけ存在します。この段階の治療はループやレーザーによる円錐切除術という局所的な切除で対応できます。切除が局所的であれば、妊娠・出産も可能です。子宮頸がんは若い人に多い病気ですので、この問題は現場ではとても大切です。

 Ⅰ期は子宮頸部にだけがんが存在する状態です。浸潤が5mm以内をⅠa期、それより大きくなるとⅠb期です。Ⅰa期では円錐切除で治癒できることもありますが、浸潤が深い場合は子宮全摘を行います。Ⅰb期になると広汎性子宮全摘出術リンパ節郭清が必要になります。

 Ⅲ期以降では手術による治癒が困難であるために、放射線照射が中心です。腫瘍サイズを縮小させたいなどの必要に応じて、化学療法も行います。

 基底膜は丈夫な膜ですが、これが破れるとがんは急速に広まります。その前の上皮内がんまでに対応していれば、子宮頸がんで亡くなることはありません。

注目を集めるHPVワクチン 予防の切り札的な存在

――そこまで解明されていればワクチンを開発しようというのは当然の成り行きですね。ワクチンの公的補助を求める声も一部であがっているようです。まだ薬事の承認が取れていないので、気が早い話ですが。

上坊 HPVはL1たんぱく質の5量体が72個集まった球状のカプセル(粒子)の中にDNAが入っている構造になっています。DNAが入っていないカプセルだけの構造物を作って接種しようというのが現在、海外で使用されているHPVワクチンです。

 確かにワクチンは子宮頸がん予防の切り札といえます。HPVという原因が解明されています。さらに前がん病変が存在し、がん化の過程もほぼ解明されています。そうなれば、当然各プロセスに適した方法を講じて、子宮頸がんになる患者を減らしていけば、撲滅という可能性も出てくるわけです。 

 ワクチンに大きな期待がかかっていますが、それだけでは撲滅まで持っていくことはできません。確かに切り札的な存在であることは事実ですが。

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