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化学療法アップデート
肺がんにおける化学療法の役割
――手術例から進行肺がんまで

2009/06/19
神奈川県立がんセンター呼吸器科 斉藤春洋氏、坪井正博氏

3、高齢者の化学療法

 高齢者肺がん(一般的には70歳以上を高齢者とすることが多い)においては、毒性が少ないことから、主に抗がん剤の単剤療法が行われる。イタリアのELVIS試験により、70歳以上のPS0-2の進行肺がん患者において、ビノレルビン(VNR)単剤療法がBSC群(best supportivecare)にくらべ、生存期間およびQOLが有意に改善することが報告されている。

 日本の武田らによって、TXT単剤とVNR単剤療法を比較し、TXT群で無再発生存の有意な延長を認め(PFS:TXT5.4カ月 vs. VNR3.1カ月)、高齢者におけるTXT単剤治療の有用性が示された。現在のコンセンサスでは、PS0~2の高齢患者の化学療法の第一選択は、TXTあるいはVNR単剤療法である。ただし、75歳以下でPS0-1の良好症例では、プラチナ製剤2剤併用療法が行われる場合もある。

放射線照射との併用化学療法

 手術不能局所進行性のⅢAおよびⅢB期を中心に、化学療法と放射線治療の併用療法が行われる。予後は、MSTで12~17カ月、5年生存率は20~30%である。放射線照射は、逐次より同時併用の方が、治療成績が良好である。

 この際に用いられるレジメンは、CDDP/TXT、CDDP/VNR、CBDCA/パクリタキセルなどである。VNRには放射線増感作用があり併用療法に有用であることが報告されている。2008年の米臨床腫瘍学会(ASCO)総会では、岡山大学病院のグループからCDDP/TXTと1世代前の化学療法であるMVP療法(マイトマイシンC/ビンデシン/CDDP)との併用放射線療法の第Ⅲ相比較試験結果が報告され、CDDP/TXTの有用性が確立された。

外科手術と化学療法

1、術後補助化学療法(アジュバント化学療法

 外科治療による完全切除後に術後化学療法を追加施行することで5年生存率が5~10%程度改善する。現状のわが国の術後補助化学療法においては、IB期(リンパ節転移はないが、病巣が3cmを超える)に対しては術後2年間のテガフール・ウラシルUFT)内服治療、Ⅱ期およびⅢ期に対しては、CDDP/ビノレルビン、CBDCA/パクリタキセルなどのプラチナ併用化学療法を4コース実施することがコンセンサスである。

2、術前化学療法(ネオアジュバント化学療法

 ⅢA期の標準治療は化学療法と放射線の併用療法であるが、その5年生存率は20~30%であり、極めて予後不良である。術後にpN2と診断された場合には、術後補助化学療法が行われる。切除可能なcN2例(縦隔リンパ節の1カ所のみ転移がある)においては、これまでに術前導入放射線治療や導入化学療法の検討が行われてきたが、有効性は確立されていない。

 ただし、北米で行われたINT0139試験によると導入化学放射線療法後に手術する治療戦略が(特に肺葉切除施行症例で)生存に寄与する結果が示されている。ⅢA期の術前補助化学放射線療法の有用性の評価については、日本における検証が待たれる。

分子標的治療薬

1、 上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI )

 分子標的治療薬として、上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)であるゲフィチニブとエルロチニブが臨床応用されている。EGFRの細胞内チロシンキナーゼ・ドメインでのATP(アデノシン三リン酸)の結合を競合的に阻害し、受容体の自己リン酸化を阻害し、細胞内のシグナル伝達を止め、がん細胞の増殖や血管新生を抑制したり、がん細胞のアポトーシスを誘導することで抗腫瘍効果を発揮する。

 TKIは、化学療法と併用での相乗効果は認められておらず、主として2nd lineで用いられる。これまでの臨床試験により非喫煙者、腺がん、女性、アジア人で奏効率が良好であることが報告されている。2004年に英国で行われた生存期間を主要評価項目としたISEL試験では、プラセボに比較し生存期間の有意な延長は認めなかったものの、東洋人のサブセット解析では、生存期間中央値が改善することが示された(ゲフィチニブ9.5カ月 vs. プラセボ5.5カ月)。また、EGFRの遺伝子変異や発現・増幅がゲフィチニブの感受性予測因子であることが明らかにされている。

 この変異には、exon18の点突然変異、exon19の欠失、exon20の挿入、exon21の点突然変異がある。変異の発現率や効果との関連には種々の報告があり、いまだ確立されたものではないが、変異が存在すると奏効率が70~80%と良好である(I-CAMP)。

 注目すべき試験は、アジアの進行NSCLC患者を対象に行われ、2008年に結果が報告されたIPASS試験(IRESSA Pan-ASia Study)である。非喫煙者(あるいは軽度の喫煙歴がある)の肺腺がん患者を対象に、初回治療でゲフィチニブを投与する群とCBDCA/パクリタキセルの化学療法を行う群との比較が行われたが、ゲフィチニブ群で無増悪生存期間の有意な延長が認められ、非喫煙者の腺がん患者には、治療レジメンにゲフィチニブを加える重要性が示された(図1)。

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 ただし、EGFR遺伝子変異の有無によるサブ解析では、遺伝子変異のないゲフィチニブ治療症例の無増悪生存期間が、遺伝子変異のある治療群あるいは化学療法群のそれに比し明らかに短いことが示されており、臨床的背景因子よりもむしろEGFR遺伝子変異の有無によってゲフィチニブの適応を決定すべきであることが示唆されている(図2)。EFGR遺伝子変異を考慮した治療戦略の有効性の検証が待たれる。

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 エルロチニブは、BR21試験で2nd line投与での検討が行われ、進行非小細胞肺がん患者の生存への有意な効果(MST:エルロチニブ6.7カ月 vs. プラセボ4.7カ月)が認められているTKIである。ゲフィチニブと同様に使用されているが、ゲフィチニブに比べ、約3倍の血中濃度が得られることから、喫煙男性などEGFR遺伝子変異のない症例にも効果を発揮する可能性が指摘されている。

 ゲフィチニブは、2002年の発売後に、副作用による間質性肺炎/急性肺障害(ILD)が問題となった。その後の調査で、ILDの発症頻度は4.5~5.8%(死亡率:2.3%)であり、PS>2、有喫煙歴、間質性肺炎合併例、正常肺占有率50%以下などがILD発症危険因子として同定された。エルロチニブにおいても、ILD発症頻度は4.2~4.9%(死亡率:1.1~2.4%)と報告されており、EGFR-TKIにおいては他の殺細胞性抗がん剤よりやや高い頻度でILDが発症する可能性があり、注意を要する。

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