Cancer Review on WEB

2009/6/19

化学療法アップデート

肺がんにおける化学療法の役割

――手術例から進行肺がんまで


早期がんであっても転移が起こる肺がんにおいては、いかなる病期でも化学療法が重要な役割を担っている。一方で、肺がんの化学療法には多くのレジメンが存在し、どれを選択するかが、治療の結果を大きく左右することになる。最近の大規模臨床研究の成果を踏まえて肺がんの標準化学療法について概説する。


 肺がんの治療方針を決定する上で重要なのは、組織型と病期である。

 肺がんの組織型は、その抗がん剤治療すなわち化学療法の感受性の違いから小細胞肺がん(small cell lung cancer:SCLC)と非小細胞肺がん(non-small cell lung cancer:NSCLC、腺がん扁平上皮がんなど)に分類される。病期については、他のがん腫と同様に国際対がん連合(UICC)で作成されたTNM分類に基づいてⅠ~Ⅳ期に分けられている。加えてSCLCでは病状の進行と治療戦略の観点から、後述するように限局型(LD)と進展型(ED)に分類されることが多い。

 肺がんは、Ⅰ期であってもその一部ではすでに微小転移を有していることが知られており、さらに病期が進行するとともに遠隔他臓器転移が認められるに至る。したがって、肺がん治療の要は、一部の病期を除いて化学療法であり、それらの効果なしには治療効果の改善、進歩は語れない。

 現在肺がんで使われている主な抗がん剤を表1にまとめた。化学療法を施行した場合の非小細胞肺がんⅢ期/Ⅳ期の生存期間中央値(MST)は8~10カ月、ED期のMSTは7~12カ月であり、進行肺がんは一般的に予後不良である。しかし、90年代後半以降のいわゆる新規抗がん剤の出現により治療レジメンの多様化が進み、2nd lineあるいは3rd lineの治療が積極的に行われるようになってきた。

 また近年は、上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬EGFR-TKI)であるゲフィチニブエルロチニブなどの分子標的治療薬の出現により、以前に比べ、長期生存例もみられるようになった。切除可能なⅠ/Ⅱ期の肺がんにおいても、術後補助化学療法により生存率の上乗せ効果は報告されている。

 最近公表されたこれらの抗がん剤の臨床試験の結果の一部を紹介し、肺がんに対する化学療法の位置づけを概説する。

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非小細胞肺がんの化学療法の適応

 非小細胞肺がんの病期は、TNM分類により、Ⅰ~Ⅳ期に分類される(表2)。

 病期Ⅰ/Ⅱ期は、手術による切除が第一選択であり、IB/Ⅱ期の術後に化学療法が行われる。ⅢA期(リンパ節転移が同側縦隔まで)の一部には切除が行われることがあるが、多くのⅢA期およびⅢB期には、放射線と化学療法の併用療法が行われる。切除不能のⅢB期あるいは、Ⅳ期には化学療法が適応となる。

(画像をクリックすると拡大します)

Ⅰ.切除不能III、Ⅳ期の化学療法

1、初回化学療法

 75歳未満、全身状態(PS)が0~1と良好の患者には、プラチナ製剤(シスプラチン;CDDPまたはカルボプラチン;CBDCA)と90年代に出た抗がん剤(パクリタキセルドセタキセルゲムシタビンイリノテカンビノレルビン)の併用療法が標準治療である。

 90年代後半の新規抗がん剤の登場後に、ECOG1594試験により、①CDDP/パクリタキセル、②CDDP/ゲムシタビン、③CDDP/ドセタキセル、④CBDCA/パクリタキセルの4つのレジメンの第Ⅲ相比較試験が行われた。その結果、奏効率16~21%、MSTは7.4~8.1カ月であり、レジメンによる奏効率や生存率には有意差が認められなかった。

 また、日本で行われたFACS研で、①CDDP/イリノテカン、②CDDP/ゲムシタビン、③CDDP/ビノレルビン、④CBDCA/パクリタキセルを比較する第Ⅲ相試験が行われた。これにおいてもレジメンによる奏効率と生存に有意差を認めなかった。これらの結果より、ⅢB期およびⅣ期症例には、プラチナ製剤と新規抗がん剤の併用療法を4コース施行する治療が標準治療の基本とされている。

 現在、欧州ではCDDP/ゲムシタビンが、米国ではCBDCA/パクリタキセルが多く用いられる傾向にある。CDDPとCBDCAのどちらの併用がより有用であるかについては、メタアナリシスの結果から、抗がん剤と併用には、CDDPの方がCBDCAよりMSTは良好な傾向にあり、CDDPが推奨される。ただし、一般的にはCBDCAの利便性が注目され、外来ベースでの化学療法を行う症例や高齢者、PS不良例、腎機能低下などCDDPに耐え難い症例についてはCDDPよりCBDCAが選択されることが多い。

 がんの発生や増殖に関連する分子生物学的研究から、がん細胞に特異的に変化している遺伝子、遺伝子産物に働く「抗がん剤」として「分子標的治療薬」の開発、臨床応用が注目を集めている。従来の抗がん剤がおしなべて増殖の激しい細胞に作用するのに対して、分子標的治療薬はがん遺伝子の阻害効率を指標にスクリーニング、開発された薬剤で、がん遺伝子がより多く発現している細胞に作用する。

 後述するように、肺非扁平上皮がんにおける標準的2剤併用レジメンに対する血管新生阻害剤ベバシズマブの上乗せ効果、腺がん、非喫煙者ならびに軽度喫煙経験者に対するゲフィチニブ単剤の有用性など、初回治療における分子標的薬の役割も徐々に明らかになりつつある。

2、2nd line 化学療法

 初回治療後の再発や初回治療に抵抗性のある症例に対して、2nd lineの化学療法が施行される。2nd lineとしての効果が、大規模な臨床試験により確認されているのは、ドセタキセル(TXT)、ペメトレキセド、ゲフィチニブ、エルロチニブである。対象を選ばない場合の全体の奏効率は10~20%程度である。

 なお、ペメトレキセドは、本邦では現在中皮腫にのみ承認されており、非小細胞肺がんに関しては承認申請中である。米国ではドセタキセルとの比較試験において非劣性は証明されなかったが、毒性、利便性の面から2nd lineの治療レジメンとして評価を受けている。

 ゲフィチニブ、エルロチニブは、がん細胞のEGFR(上皮成長因子受容体)に結合する分子標的薬である(後述)。非喫煙者の腺がん例やEGFR遺伝子変異陽性症例で、顕著な有効性が認められる。そのような症例には、2nd lineはもちろんのこと、初回化学療法として使用される場合もある。奏効例では、従来の化学療法単独に比べ、12カ月程度のMSTの延長が期待される。

(次ページに続く)
(神奈川県立がんセンター呼吸器科 斉藤春洋氏、坪井正博氏)
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