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コメンタリー
医師も知っておいてほしい 患者のための生保活用術

2009/06/16

がん患者や家族の経済負担を軽減する手段として生命保険に期待が高まっている。一方で、過去5 年間の保険金不払い・未払いは135 万件 保険金額973 億円にのぼるという報告もあるなど、給付をめぐってのトラブルに医師が巻き込まれてしまうケースもあるようだ。がん医療において生命保険を活用するポイントを医師の側も押さえておいてほしい。ファイナンシャルプランナーとしてがん患者・家族の生保に関わる相談に応じてきた濱崎研治氏に解説をお願いした。

濱崎研治氏
1952 年生まれ。生命保険会社の社員、外務員・支社長を経て、2004 年に生命保険の買い取り業務を目的に、(株)リスク・マネジメント研究所を設立。現在は、ファイナンシャルプランナーとして、患者・家族の生命保険に関わる相談を受けている。看護師やMSW を対象にしたセミナーも企画している


濱崎研治氏

避けたい入院中の保険失効

 がん患者・家族の経済負担が、大きな問題となっています。このようなとき、頼りたいものの1つに生命保険があります。ところが、患者さんの入院中に保険契約が失効したという話は少なくありません。失効とならないように、預金通帳で引き落としの確認、また保険会社からの郵便物を確認しましょう。

 万一失効となった場合には、保険契約を元の状態に戻す「復活」という制度があります。この「復活」には未払い保険料を全額払い込み、かつ健康状態を告知する必要があります。保険会社はこの告知内容から「復活」の諾否判断を行います。しかし、がん罹患後では、一旦失効した契約を「復活」させることは困難と思われます。なぜなら復活申請の告知書が手元から離れたときから、再度、告知義務違反等の「保険金等をお支払いできない場合」の免責事由が発生するからです。この点においても保険契約が失効しないよう細心の注意を払いましょう。

 (社)生命保険協会の資料によると2007年には個人保険で178万件が失効しています。具体的な統計数字はありませんが、このうちの1万件程度はがん患者の保険契約ではないのかと推測します。1件700万円として1万件をかければ700億円という巨額になります。

 不運にして失効した場合、失効返戻金というものがあります。「復活」ができないと分かったら失効返戻金を請求します。

素早く給付金を請求するために

 「入院したとき給付金を早く欲しい」と思う患者さんもいます。保険契約の失効防止の観点からも早い段階での給付金請求は意味があると思います。請求の際に保険会社へ提出するものとして、

・加入している保険証券
・保険会社所定の診断書と入院給付金請求用紙
・印鑑証明書

 一人住まいの患者さんの入院中に、子供が親に代わって請求手続きをするようなとき、子供さんは何がどこにあるのかと困り果ててしまうことがあります。最近の治安悪化に備え、重要なものが別々の場所に保管されていることが多いようです。事前に保険関係書類を整理したうえで子供と話し合いをしておくことも大事です。同時に申込み時の約款も後日のトラブル発生に備えて保管する必要があります。もし紛失していれば保険会社から再度取り寄せることも可能です。また加入内容一覧表を作り、子供へ渡しておくことも一案です。

 保険会社への請求漏れの例として、入院期間が入院給付の対象とならなかったが、手術は受けたということがあります。また入院した病院とは異なる病院で手術を受けたということもあります。このような例では手術給付金の請求漏れが多くあります。

 以上のほか、覚えておきたい項目に以下のようなものがあります。
①保険料払込免除特約:この特約が付加されていれば、がん罹患と診断されたとき、将来の保険料支払いが免除されます。
②通院給付金:金融庁の調査結果、給付金請求漏れ件数で最も多かったのが、この通院給付金です。近年保険会社によっては簡便な方法による請求の仕方もあるようです。小額と面倒がらずにこまめに請求していきましょう。
③3大疾病給付金:がん・脳卒中・心筋梗塞となったときに支払われます。金融庁の調査結果、給付金請求漏れ発生金額で最も多かったのが、この3大疾病給付金でした。5年間で1万1252件、保険金額319億円と全体の45%でした。この背景には、患者さんに病名は知らせたくないというご家族の気持ちが働いているように思われます。患者さん(被保険者)が病名を知らされていないときは、患者さんに代わって行う、指定代理請求人による請求も可能です。

医師の協力が必要なリビングニーズ特約

 病気の種類にかかわらず余命6カ月以内と判断されたときに、死亡保険金の一部または全部を生前に受け取ることができます。この特約は保険料が無料でかつ健康状態にかかわらずいつでも付加できます。ただし、既に余命6カ月以内という告知を受けていたとき、また保険満了の1年以内にこの特約を付加したときは無効となりますので、あらかじめこの特約を付加することが肝要です。同時に指定代理請求人も指定しておきましょう。患者さんの負担を軽減するためには、貰えるものは1日でも早く貰いたいものです。

 ただし、がん患者会に訊ねてみると、このリビングニーズ特約の周知度は5割以下です。生保各社はこのリビングニーズ特約の支払件数を公表していませんが、全社合計で年間2000件以下と推測されます。また、実際に患者家族が保険会社へ請求をしたい旨を伝えてから実際に給付されるまでの期間は1カ月以上となっているようです。

 結果として死亡時期とリビングニーズ特約保険金の給付時期が同時期であったという例は少なくありません。多忙を極める担当医師が診断書作成に要する日数、保険会社の査定と調査日数、書類の往復日数を考えれば致し方ないのかもしれません。終末期医療に利用できると期待されて登場したものの、運用面では難しい問題があることも事実です。

欧米には生命保険の買い取りビジネスも

 これまで紹介した特約は疾病や病状に応じて、保険会社が判断したときに給付されるというものです。一方「生命保険買い取りビジネス」とは、患者家族の自由意思で生命保険契約を処分し現金を得るというものです。欧米では生存中に生命保険の死亡保険金額を割引いた価格で買い取り業者へ売ることができます。

 そのときの売却価格は解約返戻金の数倍となっています。現時点では日本国内の生命保険会社の拒否により困難な状況ではありますが、決して諦めてはいけません。米国のAmerican Cancer Society(ACS)のWebサイトでも必要資金を得るための選択肢としてメリットとデメットが紹介されており、年間何万件もの取引が行われています。国内でも生命保険の買い取りが広く認められ、患者や家族の経済的な負担に貢献できる日が来ることを願っています。

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Cancer Review on WEB

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