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ルポ がん医療の現場
大切なのは手術後のフォロー 患者も注目するマッサージ療法
国立病院機構・四国がんセンター リンパ浮腫外来

2009/06/10

病棟でも希望患者が急増 増大する現場の負担

 医療環境を整える際にイニシアチブを取ることも医師の勤めといえるだろう。

 リンパ浮腫対策は外来だけで済む話ではない。手術を受けた患者への説明・指導が、入院医療の中でも大きな意味を持っている。河村氏らはリンパ浮腫対策をクリニカルパスに導入している。

 同センターの乳がん手術クリニカルパスには術後4日目の午後にリンパ浮腫の予防法の説明を行うことが明記されている。手術を受ける乳がん患者が術前に渡される冊子にも、4ページにわたり「リンパ浮腫(腕のむくみ)の予防と治療」が図解されている(同センターのホームページで閲覧することができる http://www.shikoku-cc.go.jp/guide/class/lymph/index.html)。前述のように手術を終えて数年を経て発症するケースが多く、日常生活では発症が見逃されてしまうことも多い。予め知識を持ち、日ごろのセルフケアが大切であるためだ。

リンパ浮腫医療に関わる院内スタッフを集めたミーティング(一番左が河村氏)

 問題は、こうした業務が看護師のほかの仕事に与える影響だ。リンパ浮腫外来の午前の診療が終わった後、河村氏は外来看護師と緩和ケアや乳がん患者を受け持つ病棟の看護師らを招集、昼食を取りながらの会議を開いた(写真)。病棟看護師らは、いずれもリンパ浮腫対策に関心があり、このうち2人はリンパ浮腫の治療に興味を持ち、大西氏同様、実際にリンパドレナージマッサージの研修を受けた専門家だった。

 この日の議題は、「増える患者のニーズにどう応えるか」だった。

 リンパドレナージマッサージの研修を受けた乳腺看護師が言う。「病棟には、乳腺以外の患者さんもいる。こうした患者さんの中にマッサージを希望する方がいるが、とてもそこまで手が回らない。リンパ節切除を受けた患者さんに限定せざるを得ない」。

 患者に良いことはわかっているし、喜ばれることはまちがいない。しかし、ただでさえ激務の中では、希望者全員への施術は難しい。

 外来でも、患者が増えると対応が難しくなる。院外にやはりマッサージのトレーニングを受けた鍼灸師がいることから、外部の機関に患者を紹介することも検討された。こうした外部機関については技量などをさらに調べたうえで、患者を紹介するかどうかを検討することで、この日の会議参加者は合意した。

 「マッサージができる人材を確保することが、リンパ浮腫対策では最も重要」と河村氏は指摘する。現在、リンパ浮腫に対して最も有効とされるリンパドレナージマッサージはNPO法人(別掲参照)などが教育と訓練を行っている。このほかにも、病院などが独自にトレーニングを進めている例もあるが、専門家を育成する手段が限られている。このNPO法人を利用する多くが、勤務を休み、費用負担も自分で行っている。研修を受けて、技能を身につけ、勤務する病院に戻っても、診療報酬上の見返りがない現状では、給料などの待遇改善はほとんど見込めない。医師や看護師、理学療法士などの篤志を頼りにせざるを得ないのが現状だ。

 関西のある大病院で、一人の看護師が資格を取ったところ、その情報が院内に流れ、今まで名前すら知らなかった医師からの電話が殺到したという逸話もある。 

 手術を担当した医師がどこまでリンパ浮腫に注意を払っていくべきかについては、なお議論が分かれるところだろう。しかし、患者間ではリンパ浮腫は大きな問題だ。インターネットでも活発に議論されている。手術はもちろん、十分なフォローが受けられるのかどうかを患者たちは見ている。

NPO法人日本医療リンパドレナージ協会の講習会風景(写真提供:同協会)

セラピストになるには、育成するには?

   リンパ浮腫の治療やケアを院内に移植するとき、鍵になるのはセラピストの養成や確保だ。最も一般的な方法は、系統だった教育を行っている組織で研修することだ。最近では、九州中央病院のように熱心な医師や看護師が指導して、新しくセラピストを養成する組織も登場した。この分野で最も古くからセラピストの養成を手がけているのがNPO法人日本医療リンパドレナージ協会(MLAJ、本部:神奈川県小田原市)だ。四国がんセンターの看護師らも、そこで一定期間の研修を経て資格を取得している。


 同会事務局長の井上泰博氏によると、「2002年に発足し、医師、看護師、理学療法士、鍼灸師など医療免許を所持している希望者に研修を実施、これまでに延べ700人が資格を取得している」と話す。研修にはドイツでに留学し専門教育を受けた佐藤佳代子氏があたる。資格を取得した職種で最も多いのが、看護師で全体の70%。医師は5%程度だという。連続、もしくは断続的に合計22日間の研修を受けて、費用は47万円。これまでの受講者のほとんどは、費用を自己負担してきたが、最近は病院が負担する例も増えてきたという。もっとも、多忙を極める医療現場では、22日間もの休暇を取得することのほうが難関であるのかもしれない。とはいえ、リンパ浮腫に有効な対策があることを知ったがん患者が、対策を求めて医師や看護師に要望するケースも増えてきた。「最近になってがん臨床連携拠点病院からの問い合わせも増えている」と井上氏は語る。

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