Cancer Review on WEB

2009/6/10

ルポ がん医療の現場

大切なのは手術後のフォロー 患者も注目するマッサージ療法

国立病院機構・四国がんセンター リンパ浮腫外来


リンパ節の切除を行った乳がんや前立腺がんの患者では全身のリンパ液の流れが滞るリンパ浮腫がよく見られる。主に看護師や理学療法士などが半ば試行錯誤で対処しているのが現状だ。国立病院機構・四国がんセンター(松山市)では医師と看護師が協力していち早く専門外来を立ち上げ、リンパ浮腫の対策に乗り出した。同センターの活動を通して、リンパ浮腫対策の意義と課題を考えた。



リンパ浮腫外来のスタッフ(左から看護師の西岡氏、医師の河村氏、看護師の大西氏)

「ここ違和感があるでしょう」

 看護師の大西ゆかり氏がたずねると、寝台に横たわっている女性患者のAさんが、「はい」と応じた。

 Aさんの上腕をマッサージしながら、「いつもと違うなあ」と大西氏が話しかけると、Aさんは「肘から下はちょっと違うなあと思っていたのですが、だんだん重くなってきて……。何かやろうと腕を動かすと本当に重くなってきて」。

 30歳代のAさんがここ国立病院機構・四国がんセンターで乳がんの手術を受けたのが2005年5月。その翌年に再建を目的に同センターの再建外科を受診したところ、リンパ浮腫の出現を指摘されたことから、リンパ浮腫外来を受診した。以後断続的に、症状が出ると同外来に通ってくる。

 同外来の診療は毎週、火曜日と金曜日の週2回。午前中は医師が患者を診察、午後は希望患者に看護師が専門のマッサージ(リンパドレナージマッサージ)を施す。職業を持つAさんは、この日は仕事を休んでの受診となった。「自分でマッサージを行うように指導は受けていたけれど、最近さぼり気味だったから、いけなかったかな」とAさんは笑った。

 大西氏が受け持つ患者は1日に3人ほど。まず、上腕や下腕、手の甲の周囲を計測。前回の受診時との違いを評価したうえで、マッサージを開始する。1人に要する時間は約1時間だという。

乳がん経験者にリンパドレナージマッサージを施す大島看護師

手術後数年を経て発症 放置すれば症状固定の危険性
 
 乳がんや皮膚がん、前立腺がんなどの手術で、リンパ切除を行った場合、リンパ管がつまり、たんぱく質や水分がたまりリンパ浮腫が起こる。発症するタイミングには個人差があるが、手術後数年を経て起こることが多い。切除されたリンパ節の部位・数や手術の方法によって浮腫の程度も異なる。Aさんのように、「重くなる」「違和感がある」というレベルから、腕や脚の太さが健康時の数倍になる例もまれではなく、普通の日常生活に支障をきたすほか、仕事を持つ場合は休職を余儀なくされるケースもある。

 乳がんや婦人科がん、前立腺がんの手術を受けた患者が多いが、放射線治療を受けた患者にも高頻度で見られる。正確な患者数は不明だが、全国で10万人以上がこの症状に苦しんでいるといわれている。確立した治療法はなく、大西氏が行ったように、リンパドレナージマッサージが、現在のところ最も有効な治療法とされる。これは残されたリンパ管をできるだけ活発に働かせることでむくみを減少させる方法で、副行路の発達を促す効果もある。単純なマッサージではなく、リンパの流れを解剖学的に熟知し、それに沿って医学的に合理的なマッサージを施す必要がある。大西氏は15ページに紹介するNPO法人の講習会に参加、基本的な知識と技術を取得している。

 しかし、今のところこうした専門家がいる医療機関が少なく、患者の多くが半ば放置されているのが現状だ。リンパ浮腫外来の責任者である河村進氏(第2病棟部長)は、「現時点でリンパ浮腫を完治することはできないが、ある程度まで症状を改善することは可能。放置すれば、硬化した状態で症状が固定してしまう」と警鐘を鳴らす。

患者急増で形成外科から独立 受診者は年間900人

 同センターのリンパ浮腫外来を主催する医師、河村氏の本籍は形成外科。現在でも、がん手術後の乳腺に加え、頭頸部、外陰部の再建を年間800例ほどこなす。特に、四国がんセンターは乳がんの中核的医療機関で愛媛県内の乳がん患者の80%を受け入れている。いきおい、乳がん患者が多くなるが、形成外科の手術の8割は乳房再建だという。

 「月、水、金は1日中、オペの日。リンパ浮腫外来のある火曜日も午後はオペ」というハードぶりだ。多忙な本業の傍らで、リンパ浮腫外来を開始したのは、形成外科を受診するリンパ浮腫患者が増えてきたためだ。「リンパ浮腫の患者が増えてきて、形成外科本来の診療に支障をきたし始めたので、病院にお願いして外来開設を認めてもらった」という。開設は06年4月。現在では、少しづつ治療を行う医療機関が出てきたが、当時は先駆け的な存在だった。

 現在の陣容は、医師は河村氏と金曜日担当の婦人科医の横山隆氏の2人。看護師は、マッサージを行う大西氏と看護副師長でがん性疼痛看護認定看護師である西岡久美氏の2人で、合計4人。診察する患者は火曜日が10~13人、金曜日が10人前後だという。前述のように、午後は希望する患者に対するマッサージを行う。

 リンパ浮腫外来での医師の仕事は2つある。1つは浮腫の原因を正確に診断すること、もう1つは治療の実質的な主体となる看護師が働きやすい医療環境を整備すること。少なくもと、整備しようという姿勢を示すことだ。

 医学的な診断の重要性を河村氏は次のように説明する。「浮腫といっても、リンパ浮腫であるケースと、心臓・腎臓・肝臓などの臓器不全に伴う浮腫とは異なる病気。これらの鑑別がつかないと、間違った治療法を選択することになる」。リンパ浮腫を臓器不全による浮腫と誤診して、利尿剤が処方される例もあるという。こうした鑑別検査が医師の重要な仕事の1つだ。

(次ページに続く)
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