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がん医療座談会
今こそ個性的な講座をつくる好機だ
誕生ラッシュ大学腫瘍内科の悩みと戦略

2009/03/30

研究の推進は不可欠だが 臨床能力の向上はさらに重要

佐々木 国立がんセンターから大学に移籍して痛感したことは、臨床腫瘍医と臨床試験医を同じ意味で捉えるべきではないということでした。私自身の反省点を含めての話ですが、国立がんセンターでは全身状態(PS)が良好の患者を対象に臨床試験を行い、その結果を米臨床腫瘍学会(ASCO)などの発表することに重きを置いています。そうなると、患者を見失いやすい。非常に優秀で弁舌さわやかですが、患者と多くのトラブルを抱えている医師が現実にいるわけです。もう1点は大学では新規の治療を追求していくべきですが、科の半分以上の労力を臨床試験に投入する事態は避けたいと思います。

石岡 以前の大学の研究は試験管の中にとどまるものが多く、実験台とベッドサイドの間には大きな隔たりがありました。それでも患者をしっかり診るという教育は行われていたように思います。しかし、最近ではエビデンスが登場してきました。そうなると、私たちもそういう方向にシフトしてきたことは事実です。

 ただ、その両方を追求していくことはやむを得ないと思います。これまで通り、海外発のエビデンスに依存して日本人の患者に合う治療を行っていけるかというと、それは到底無理な話です。日本人でのデータはやはり出していく必要があります。

佐々木 確かに先日のASCO GICancer Symposiumを見ていますと、米国の研究者は食道の腺がんも胃がんも同一のがんとして扱っています。欧米のデータをそのまま日本に移植することはもう不可能だという気がしました。

石岡 海外のエビデンスを吟味、検証することの重要性は今後も変わらないと思います。研究ばかりではなく、海外で得られた知見を日本にどのように導入するかが腫瘍内科の担うべき役割の1つといえます。

 一方で、海外と日本の違いをどう捉えるかが腫瘍内科医にとって非常に大切になるでしょう。遺伝学的な人種差もさることながら医療環境の違いも、エビデンスを再現できるかどうかという問題に密接に関わってきます。臨床研究も単純に医学的な到達点ばかり訴求するのではなく、こうした医療環境の違いを視野に置いて、治療の質を高めるにはどうしたらよいかという視点に立ったものが増えてほしいと思います。

江口 ある時期、質が高い臨床データをもとに世界に打って出ることが必要でした。教育を考えると、それだけでは済まないことは確かです。大学でどのような人材を育てるかといえば、第1には臨床をきちんと診ることができる医師、その上にがんのマネジメントができる必要があります。我々のスタッフは私も含めいずれも、国立がんセンターなどがん専門センターの勤務を経験しています。それゆえ、治療医として広い視野を持っていますが、がんセンター時代は選ばれた患者を診る傾向にありました。そして大学病院は高度な医療技術を提供する医療機関であると同時に、地域の患者を診るという使命も持っているわけで、いろいろな疾病を持った患者を診ることになります。そのギャップに苦労していますが、「そこが医療の原点だからがんばれ」と励ましているところです(笑)。

佐々木 国立がんセンター1つが頂点という富士山型のがん医療ではなく、各大学がアルプスの一角を担う時代が来ると考えたいですね。

石岡 アルプスという考えには大いに賛成です。やはり画一的な腫瘍内科を作るということを目指すのでは、黎明期である現在において発展性を損なう結果になり、よくないと思います。「腫瘍内科はこうあるべきだ」という考えを、各大学が個別に追求していくべきです。各大学が情報を公開しながら切磋琢磨していく。全国で個性的な腫瘍内科が登場して競争することがあった方がよいと思います。

地域の中で患者を診る 基盤づくりは今後5年が勝負

佐々木 腫瘍内科の究極の姿は、地域の中でがん医療を診ることができるかどうかだと思います。言い換えるとコミュニティー・オンコロジーの実現だと思います。

江口 患者の急増によって、診療連携拠点病院だけで診療することができず、結果的にがん難民を生み出すことになります。地域と連携してがん診療に当たらなければなりません。

石岡 理想はその通りですが、現実には人材の不足は否めません。地域の振興と人材の育成とを並行して進めていく必要があります。

佐々木 国立がんセンター中央病院のレジデント制度も3年の最後の半年くらいは市中病院で行うようにすればよいのかもしれません。

石岡 教訓的なエピソードがあります。我々の医局員がある県立病院でがん化学療法科を立ち上げて2年で軌道に乗せた。近くの大学病院で腫瘍内科を新設することになったので、そこに教官として出したところ、元の病院のがん化学療法科は立ちゆかなくなってしまった。腫瘍内科の医師には、治療ができることはもちろんですが、継続できる診療体制を作ることも求められると思います。周囲の診療科との連携は一般病院でも同じくらい重要です。

佐々木 一般病院の外科医は複雑化する化学療法の実施に苦労しています。そこにアドバイスしてまず発想法を真似てもらうだけでもだいぶ違うのでしょうね。今回の座談会を通じて、今後5年、6年かけて取り組まなければならない課題も見えてきたと思います。

石岡 腫瘍内科の役割を果たしていくためには人的資源や予算が必要になりますので、行政など各方面への働きかけも大学の腫瘍内科の仕事の1つではないかと考えています。

江口 腫瘍内科が診療の中に根を張ることができるかどうかは今後5年くらいが勝負だという気がします。そのためにあらゆる手をつくして、腫瘍内科の意義を広めていく必要があると思います。

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