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がん医療座談会
今こそ個性的な講座をつくる好機だ
誕生ラッシュ大学腫瘍内科の悩みと戦略

2009/03/30

石岡 千加史(いしおか・ちかし)氏 1984年東北大学医学部卒業。仙台厚生病院、マサチューセッツ総合病院がんセンターなどを経て、2003年から東北大学加齢医学研究所教授(東北大学病院腫瘍内科長兼任)。

他科の化学療法を支援 人的交流から開始

江口 私のところではまず既存の診療科との合同のカンファレンスを開いて、そこに参加します。そうすることによって、顔と顔がわかる関係(笑)を築くことが大切ではないかと思います。もう1つは、どこの科も人手が足りない状況にありますので、こちらはがん化学療法のお手伝いをする、あちらからは症例についてコンサルトに来るという相乗効果が期待できる関係を作っていくのがよいと思います。その上で治験を共同で行うなどして交流を深めていくようにしています。とはいえ、現状は未完成ではありますが。

石岡 東北大の場合は歴史もありますので、他科との押し合いへし合いの段階は終わっています(笑)。反面、テリトリーが固定されたことによって、臨機応変に動きにくくなっている側面もあります。一方で、歴史ある大学ゆえの強みで比較的潤沢に人員を確保することができていますので、臨床試験などは進めやすいです。関連病院を含めて、症例を集めやすいというメリットはあります。だから、都合がよいところもあるけれども、可能性が制限されているともいえます。対照的に新設の大学では人数は少ないけれども、可能性は開けているといえます。もし既存の診療科があまりがん診療に熱心でないという場合には、そこで腫瘍内科が指導的な役割を演じることができるわけですから。

周囲に専門家がいてこそ 腫瘍内科の力を生かせる

佐々木 診療の線引きの問題ですが、埼玉医大ではがんセンターを作ったということで、少し状況が違っています。既に実績があり、私自身よく知っていた専門医が集まってきました。卵巣がんでは婦人科腫瘍科に藤原恵一先生が、乳がんでは乳腺腫瘍科に佐伯俊昭先生がいるという具合です。となれば標準的な治療は彼らに任せていいだろう。乳がんなら術後補助化学療法までは佐伯先生のところで行ってもらえばよい。

 そうした標準治療に抵抗性となったり再発したりした患者は腫瘍内科に送ってもらう。そういうケースが実際に増えています。ですから、私は腫瘍内科がうまくいくためには、周囲に専門家が多い環境にあることが大切ではないかという気がします。そうでないと周囲から不当に軽視されたり、反対に過剰に期待されたりとういことが起こりかねない。私はそういう事態になることを恐れます。

 一方で、消化器外科では手術に専念して、化学療法は腫瘍内科が担当するという体制に移行しました。がんセンターが設立されたことで、消化器外科は化学療法を行わないというシステムができあがったことになります。この外科という手術の専門家との機能分担に腫瘍内科は注意を払う必要があります。大学病院やがんセンターを除くと、ほとんどの一般病院では外科医が主治医ですから。

江口 周囲に専門医がいる環境が腫瘍内科の潜在力を高めるという指摘はきわめて重要です。大学病院こそが、そういう環境を作る上で最も適していると思うからです。一般病院にも腫瘍内科が誕生していますが、1人の医師に多くの仕事や患者が集中するという事態が起きています。

佐々木 孤軍奮闘で疲弊している腫瘍内科医の話をしばしば耳にします。

江口 そうです。「疲弊内科」といってもよいくらいです(笑)。

佐々木 そういう意味でも周囲と連携する体制作りが欠かせないということですね。

5大がんをしっかり診る さらに臓器を越えて診る

佐々木 腫瘍内科の位置づけを強固にしていきたいといずれの病院も思っているはずです。それでは育成されるべき腫瘍内科医のイメージとはどのようなものでしょうか。

江口 やはり5大がん(胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、肝臓がん)は専門家として診ることができ、そのほかに原発不明がんも診療でき、さらにトランスレーショナルリサーチをデザインすることではないかと思います。

佐々木 私は国立がんセンター中央病院で肺がんを診て、同東病院で乳がんと原発不明がんを診ました。埼玉医大に赴任してからは消化器がんを多く診るようになりました。職場を変えるたびに診療できるがんを増やしていったことになります。自画自賛ではないのですが、いろいろながんを診療した上で、1つのがんを診る姿勢が重要だと思います。

 残念ながら埼玉医大で起こった事例ですが、乳がんの手術を受けた患者が10年後に肺に再発したのですが、この患者を肺がんとして手術してしまったことがありました。画像診断から肺がんと診断したわけですが、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体を検査するという発想があるだけで、そうした事態を防ぐことができたのではないかと思います。1つのがんしか診ていないと、ほかのがんの生物学や自然史に思いが至らず、自分の専門のがんと誤診してしまうリスクが高くなるのではないかと考えるわけです。

石岡 私どもは他科と合同カンファレンスを行いますが、1つの専門科の医師は、予想外の原発があるとの認識がない場合が確かにあります。腫瘍内科医ならば、いろいろな可能性を検討するわけで、言い換えると腫瘍内科医は転移性腫瘍の原発について議論する姿勢が養われているわけです。腫瘍内科医は複数の臓器のがんを経験し、それら1つひとつのがんについての専門性を高めておくことが必要です。

江口 複数の臓器を診ることができることの重要性は、近年の分子標的治療薬やバイオマーカーの問題を考えても明らかです。臓器を超えた知識は腫瘍内科医が最も早く知ることができる立場でありますね。

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