日経メディカルのロゴ画像

コメンタリー
拠点病院の役割分担 地域特性を反映すべき
今岡 真義氏 (大阪府立成人病センター名誉総長、NTT西日本大阪病院長)

2009/02/18

 がん登録に力を入れてきた大阪府の各病院についてデータを分析したところ、患者の集積効果ががん種によって異なることが明らかになってきた。このような、がんの特性や臨床現場の実態に合わせて、医療システムを随時見直していくことが必要だ。



今岡 真義氏

 がん対策基本法が施行されてから1年半が経過した。この法律の目的の1つは、がん患者がその居住する地域にかかわらず等しくがん医療を受けられることにある。それに従い、全国の2次医療圏に1つ以上を目指してがん診療連携拠点病院が指定され、その数は現在のところ351カ所にのぼっている。こうした均てん化の動きが、日本がん医療の水準を上げるために重要な取り組みであることは論を待たない。しかし、全国どこでも均質ながん医療を提供する体制を整える大目標を達成するために、いくつか重大な課題が浮上してきたことにも注意を払う必要があると考え、ここに指摘したい。

まず、がん登録制度の拡充が急務

 がん対策基本法は、地域の事情に応じた基本計画を地方自治体に求めており、各自治体は国が策定したがん対策推進基本計画を実現すべく、独自の計画を立案している。重要なのは、こうした計画が本当にがん医療の水準を上げているのか否か、適宜検証していくことである。そのために欠かすことのできない仕組みが、がんの発生率や生存率、検診の効果や治療の有効性を把握する「がん登録制度」である。

 がん対策の立案と検証という観点から、がん登録の重要性は昔からおおいに喧伝されてきたにもかかわらず、有効ながん登録を行っている自治体は、大阪、宮城、新潟、山形、福井、鳥取、長崎に過ぎない。これら7自治体の中でも大阪、山形、福井のがん登録は国際的に高く評価されている。一方で、登録業務に必要で十分な人材や費用を工面できない自治体が多数を占めているのが現状である。

 大阪府では大阪府立成人病センターが中心になってがん登録を進めてきた。こうした地道な取り組みから、国のがん医療の均てん化政策にも資する重要な情報が明らかにされている。

患者の集積効果はがん種によって異なる

 大阪府が進めてきたがん登録分析の結果、大変興味深い事実がある。それは、医療機関におけるがん患者の集積効果はがんの種類によって異なるということである。患者を多く診療している医療機関は治療の選択肢も多く、治療成績も高くなる傾向にあると考えられる。一般論としては誤りではないが、その集積効果の表れ方ががんの種類によって異なるのである。図は大阪府立成人病センターの研究チームが発表したデータをもとに作成したものである。

 大阪府内の医療機関をがん種ごとに診療した患者数の多い順番に並べ、上位25%を「多」グループとし、次の25%を「中」、その後の25%を「少」とし、最も少ない25%を「極少」とした。そして5年生存率をもとに調整ハザード比で、各グループの医療機関の治療成績を比較した。

 総じて、患者数が多い医療機関の調整ハザード比は低いという傾向があった。食道がん、肝臓がん、肺がん、卵巣がん、前立腺がん、リンパ組織の腫瘍では、治療患者数が少なくなるほど、調整ハザード比が上昇、言い換えると5年生存率の低下傾向が認められた。つまり、これらのがんでは、患者の集積による治療成績が上昇することが確認された。

 しかし、一方で、胃がん、大腸がん、胆嚢がん、膵臓がん、乳がん、膀胱がんでは、こうした患者の集積効果が認められ難い。特に胆嚢がん、膵臓がんは早期発見が困難であるがため、発見時すでに手遅れというケースも少なくない。その結果、現状の治療では患者集積の効果が認められないと考えられる。対照的に胃がん、大腸がん、乳がん、膀胱がんでは、治療技術が成熟し、診療患者の数によらず、良い成績を上げることができているようだ。

 これらの解析をより詳しく行うことで、医療の質をより細かく評価することが可能である。例えば、閉経後乳がんの成績は、多くの患者を診る医療機関で高くなる傾向が認められている。これは、術後補助化学療法などにおいてきめ細かい治療ができるかどうかという点を反映しているように思われる。

 現在の国の計画では、がん診療連携拠点病院は5大がんについては重点的に診療できることが前提となっているが、患者の集積効果と治療成績とを勘案した役割分担を念頭に置いたものに修正していくことも1つの方法だろう。例えば、集積効果が認められるがんでは特定の医療機関に患者をまとめる。一方で、胆嚢がんや膵臓がんのような治療方法が確立していないがんは、現状では大学病院や大病院などの研究を行う医療機関に集中化させて、標準治療法の確立に努めるべきであろう。

医療機関の役割分担を自治体が勘案

 大阪府では大学病院ががん診療連携拠点病院に1カ所も指定されていない。私は大学病院には、がん患者の診療・支援以上に大学病院本来の役割である研究と良質な人材の輩出に期待したいのである。大阪府のような良質な医療機関が数多く存在する地域では、大学病院は単に臨床の拠点になるということに留まらず、胆嚢がんや膵臓がんのような極めて難治性のがんの研究にこそ、力を発揮してほしい。

 がん登録が明らかにするところによれば、大阪府の肺がん患者の約50%は上位7病院で診療している。前述のように肺がんはこうした治療集積効果が期待できるがんであり、好ましい傾向といえる。そうした医療機関の中には国の定めるがん診療連携拠点病院の要件を満たす医療機関ではないが、呼吸器疾患に特化した優れた医療機関がある。したがって、こうした医療機関は大阪府が独自にがん医療の拠点と認め、施策に反映させていく必要がある。独自性を持つ医療機関の分布も地域特性の1つということができ、自治体が策定するきめ細かながん医療対策に反映させていく必要があるだろう。(談)

  • 1

Cancer Review on WEB

この記事を読んでいる人におすすめ