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ルポ2 がん医療の現場
画期的新薬は専属チームで対応 情報共有、職責明確化、業務簡素化でやる気もアップ
癌研有明病院“チームアバスチン”

2009/01/20

 癌研有明病院でレジメンは209を数える(2008年8月時点)。新薬の登場や処方のオーダーメード化の進展によって、レジメンの数は半ば自然増の状態となるのだが、必然的に時代遅れになるレジメンも出てくる。ここで物を言うのが薬剤部のデータだ。トップ10のレジメンで75%の患者が治療されていることも明らかになっており、使われないレジメンは積極的に削除している。2007年には20%のレジメンが削除されたという。

急増する高額な薬剤 料金説明は医事課が担当

 興味深いのは医療スタッフとは別に医事課からもメンバーが出ていることだ。最近の新薬は高額であるものが多く、患者や家族の不安も大きい。身長165cm、体重60kgの患者がFOLFOXとベバシズマブを併用した場合、3割負担で9万9710円かかる(「アバスチン院内使用マニュアル」より)。こうした薬剤費の説明は医師や看護師が行っている医療機関が多いようだが、癌研有明病院では医事課の専門家が中心になって行う。水沼氏は「医師や看護師はできるかぎり治療に専念させたい」と語る。治療に伴う料金表の作成や料金相談窓口となる、さらに高額医療制度の説明などは医事課メンバーが担当している。

安全確認まで活動 死亡例で緊急会合

 チームはいつまで活動するのか。水沼氏によると安全性が確認されるまで活動は続くという。発売後1年を経過した現在も月1回の報告会の開催という形で活動は続いている。副作用情報の集約が主な議題だ。アバスチンを使った患者から肺出血による死者が出たケースでは、緊急会合を開いたという。

 「150人に1人の頻度で肺出血が出現することは知っていた。症例を経験した際には、チームメンバーを招集して、リスク因子を検討した。事前の評価では患者には出血傾向も認められなかった。また肺に空洞もなかったことを確認、直前の予測はできないという結論だった。この事例は製造販売元の中外製薬にも報告した」(水沼氏)。

 突発的なイベントが起こった場合は、メンバーが集まって原因を検討する。これもチームの重要な仕事だ。「チームアバスチンの活躍によって、臨床現場への導入、有害事象対策も実施できた。その結果、日本で一番初めに使うという目的は達成することができたうえ、使用数も日本一になった。残るはバイオマーカーを見つけるトランスレーショナル研究、看護部や薬剤部発の論文発表、一般病院への普及だ」と水沼氏は総括する。

 現在、チームアービタックスが活動している。アービタックスの適応はアバスチンと同じ結腸・直腸がんだが、現在のところ2次治療以降に限定されているものの、アバスチンとアービタックスの使い分けが臨床上の新しい課題となりつつある。今後はチームどうしの連携も課題の1つということになりそうだ。

有害事象の情報を集約化 労働負荷軽減は重要事項

 がん化学療法を進める場合、副作用をうまくコントロールして、予め定められた用量を患者に投与しきることができるかどうかが、治療の正否を左右することになる。有害事象の早期発見と適切な対処を取ることが、医療現場に求められることになる。そのためには、起きうる副作用の情報と患者個々人の特徴を治療に当たるスタッフ全員が把握しておくことが必要になるだろう。

 特に最近主流となりつつある分子標的治療薬には、神経障害や皮膚障害、循環器系の疾患など以前の抗がん剤よりも多彩な副作用が出現することが明らかになっている。薬剤の特性を熟知しているのが医師だけという現場では、副作用が見逃される危険性が高い。

 癌研有明病院の方式は薬剤にかかわるすべての情報をスタッフが共有することでこうした見逃しリスクを最小限にとどめようとする試みとして注目される。

 同時に、予想外のイベントが発生した場合にはその情報を一カ所に集約する体制作りという側面も見逃せない。癌研有明病院では、情報を集約するばかりでなく、その後でどのような対処が取られるべきかが予めチーム内で議論され、合意形成がされている。分子標的治療薬の潜在力を最大限に生かすためにも、こうしたチームを作っておくことは不可欠なものといえる。

 こうしたチーム医療を支えるためのポイントとして忘れてはならないのは、スタッフの労働負荷を減らすことも同時に追求されなければならないということだ。新薬が登場するたびに、負荷が増えるのであれば、早晩現場は立ちいかなくなる。外来シフトを強めるがん化学療法の現場では、毎日押し寄せる大量の患者をいかに“さばく”かが、最優先事項となっている。そこで同院では行う治療の内容をできる限りシンプルなものにしておく方策が取られていた。積極的に古いレジメンを捨てることによって、新薬に集中することが可能になる。チームを円滑に運用するためには、活動の障害となる要因を計画的に排除することも求められている。

① ATC でも初回アレルギー反応に対する指示

  治療開始後は適宜厳重にモニタリングを行う。意識、皮膚、呼吸器、消化器症状、血圧などの観察を行い、症状の発現あれば直ちに医師に報告する。

看護師の業務:(略)

医師の業務:Gr1 ~ 2 の反応:第1 選択は、ソルコーテフ100mg +生食50mL 投与とする。状況に応じて、アタラックスP50mg +生食50mL のみでの経過観察も可能とする。治療効果が得られない場合は、当日の消化器外来医師まで再度連絡を入れる。

Gr3 の反応:第1 選択はソルコーテフ100mg +生食50mL 投与とする。状況に応じて、アタラックスP50mg+生食50mLを追加する。血圧低下に対して、生食やラクテック(細胞外類似液)の投与。重篤、進行あれば、エピクイック0.1 〜0.3mg 皮下注する。呼吸状態変動、動脈血酸素飽和度低下に対して酸素投与を低血流量から開始する。症状の回復がみられても基本的に入院を原則とする。

Gr4 の反応:収縮期血圧< 80mmHgの低下が見られる。急速生食またはラクテック等の点滴開始。ソルコーテフ100mg+ 生食50mL 投与。血圧低下の状況に応じてエピクイック0.1~0.3mg 皮下注する。基本的に入院を原則とする。入院後は、緊急入院時の指示を参照する。

(「アバスチン院内使用マニュアル―第1版」より)

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