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ルポ2 がん医療の現場
画期的新薬は専属チームで対応 情報共有、職責明確化、業務簡素化でやる気もアップ
癌研有明病院“チームアバスチン”

2009/01/20

医事課もタスクフォースに 有害事象対策に比重を置く

 進行・再発の結腸・直腸がんの治療薬であるアバスチンの場合、その効果は既に欧米の使用経験によって明らかになっていた。発売と同時に大腸がん化学療法のキードラッグになることは当然とみられていた。一方で、大腸がんで初めてのモノクローナル抗体であり、腫瘍血管の新生を抑制するという新しい作用機序を持っていた。

 また注意すべき副作用は、高血圧、創傷治癒遅延、蛋白尿(腎機能異常の関連はない)、消化管穿孔(頻度2%前後)、腫瘍関連の出血、動静脈血栓症など多彩で(表2)、慎重な臨床導入を必要とすることは明らかだった。

 チームアバスチンは、発売の半年前に当る2007年1月に発足した。構成メンバーはリーダー(医師)、勉強会・教育担当(医師)、院外施設連携推進担当(医師)、リサーチ担当(医師)、病棟担当(看護師)、外来治療センター(ATC)担当(看護師)、臨床研究センター(CRC)、薬剤部(薬剤師)、医事課で、各役割はチームリーダーを中心にネットワークを構成するように設計されている。会合の頻度は月に1回だったが、認可直前は週に1回となった。

 医師の仕事は、コメディカルに対する講義を含む知識の共有化作業、重篤な有害事象が発生した場合の院内・院外施設連携ネットの構築、承認後の院内における適正使用の管理など。加えて、事務局(医事課)と交渉して患者への治療費の説明窓口の設置、問診表作成、有害事象の電子カルテテンプレートの作成も医師の仕事だ。

 がん専門病院である癌研有明病院には循環器や脳血管の疾患の専門家がいない。こうした臓器に有害事象が現れた場合には院外の施設との連携が必要となり、こうしたネットワークの形成も医師が主体となって行う(図3)。

 また、チームは、最初は適応を意図的に狭くして、経験を蓄積して安全性が確認されたのちに漸次拡大する作戦を取った。まず、当初の患者は70歳以下(高齢ではない)、血管系障害の既往・合併がない、腹膜播種を伴わないなど比較的リスクが少ない患者を選択して使用した。また1次療法に限り、用量も5mg/kg(FOLFOXとの併用)だけで行った。そのほかの適格基準もチーム内でそのつど検討することとした。

事前準備の結果を文書に集約 万能マニュアルとして活用

 チームアバスチンが行った事前準備はマニュアルにまとめられた。アバスチン以外の薬剤でも専門のマニュアルを作成している。

 「アバスチン院内使用マニュアル」の第1版は、ベバシズマブ発売直前の2007年8月20日に完成した。チームリーダーの医師、末永光邦氏はマニュアルの巻頭言に「本薬剤は血管新生阻害剤としての特有な有害事象の頻度が他薬剤に比較して高い。(略)導入を予定している施設は、これらの有害事象に対する自施設の許容性を再認識し、院内・院外施設との連携を早急に準備していくことを勧める」と記している。

 体裁はA4判で64ページ、23項目で構成されている。医師や看護師など各職種の対応が記述されている。「アレルギー反応に対する指示」では、①ATCでの初回アレルギー発症時指示②アレルギーレジメンの導入時指示③アレルギー再燃時指示――に分けて解説している。ATCでの初回アレルギー発症時指示の医師の業務を見ると、「ATC担当医師は状況に応じて事前、事後に消化器外来医師に報告する」として細かく投薬手順が記載されている(次ページ囲み参照)。

 さらに、「治療のための同意書」(虎の門病院の「説明と同意書についての原則」を援用)、患者への説明文と同意書の雛形、多数の写真を使った「抜針の手順に関する説明文書」「ポート指導後の患者チェックリスト」「ポートトラブルのQ&A」「当直などで連絡があった場合の電話対応」などが記載され、アバスチン使用の万能マニュアルとなっている。

支持療法薬もレジメンに 古いレジメンは漸次削除

 マニュアルには支持療法に使用する薬剤も指定している。これは、メンバーの薬剤師らが文献などを渉猟して、決定したものだ。これには2つの意味がある。1つは、例えば医師が自分の好みに合わせて降圧剤を選ぶと、薬剤の種類が必要以上に増えてしまうことから、予め薬剤の種類を絞り込む狙いがある。薬剤の種類が増えれば、管理する現場に大きな負担になるためだ。

 もう1つは、使用する抗腫瘍薬の性質に合わせた薬剤を選ぶことができるためだ。癌研有明病院では降圧薬はカルシウム拮抗薬かアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARBⅡ)しか使わないと決めている。これらはいずれも副作用としての咳の心配がないが、ACE阻害薬は20~30%の頻度で副作用として空咳が出る。抗がん剤使用中に間質性肺炎を発症するケースがあるが、間質性肺炎の兆候である咳が出た場合、降圧剤の副作用と誤認することがないようにするためだ。同病院のレジメン管理の特徴は、支持療法薬もレジメンの一部として管理することだ。これを院内ではパスレジメン(path regimen)と読んでいる。アバスチンの使用ではARBのロサルタン(50mg)、カンデサルタン(4mg)、バルサルタン(40mg)を含めてパスレジメンとしている。輸液の配合、制吐剤も固定され、パスレジメンとして電子オーダリングシステムに登録している。

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