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ルポ1 がん医療の現場
人材と時間はより多くの新患に注ぐ 医療の質と経営の質の二兎を追う
千葉県がんセンター

2009/01/16
日経メディカルCancerReview

日本の地域医療を支えてきた地域公立病院の経営危機が全国的に大きな問題になっている。千葉県がんセンターも厳しい状況にあったが、短期間に赤字から黒字へとV字回復を果たして注目されている。キーワードは「医療資源の新規患者への集中」だ。



 10月のある木曜日の午後7時、千葉市内のホテルの会議室に地元の開業医や中堅病院の勤務医たちが三々五々集まってきた。1日の診療を終えて駆けつけたであろう医師たちは、お互い知り合いも多いらしく、2~3人が集まって談笑する風景が、そこここで見られた。彼らのほとんどが消化器疾患を専門とする医師たちだ。この日は、「千葉胃がん地域連携研究会」の第1回会合が開かれた日だった。

 この記念すべき初会合の大半の時間が「胃がんESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)の地域連携パスをどのように構築するか」という議論に割かれた。

 胃内視鏡検査の普及により早期胃がんが発見される機会が増えている。加えてESDなどの治療技術の登場は内視鏡治療の適応を拡大してきた。千葉県がんセンターでもその施行件数(2002年11月~2008年5月で胃がん症例は302例)が増えてきたが、一方で術後の患者のフォローアップをどうすべきかが課題として浮上している。

 ESDを行っても長期的には10~20%の再発があることから、1年に1回の内視鏡検査を行う必要がある。また、最近ESDの術後にヘリコバクター・ピロリ菌の除菌を行うことにより、3年後の再発率を約3分の1に減らすことができたという報告が日本国内の研究チームからなされ、近い将来こうした術後補助療法もESDの標準治療の中に組み込まれる可能性が出てきた。

 こうした術後のフォローアップもESDを実施したがんセンターで行うべきかどうか。同センターの診療部長の山口武人氏や経営戦略部長の浜野公明氏が出した結論が、実地医家の協力のもとESD術後の地域連携クリニカルパスを作成するというものだった。「ESDに特化した地域連携を行うというのは世界で初めて」と研究会の代表世話人も務める山口氏は語る(図1)。「実地医家の先生方は内視鏡検査が得意で、術後の患者さんのフォローを担ってもらい、再発したら千葉県がんセンターに逆紹介してもらう。近い将来、ヘリコバクター菌の除菌が保険適応されれば、除菌も実地医家の先生方にお願いすることになると思う」。

センター長の竜崇正氏。専門は消化器。強いリーダーシップでセンターの改革に取り組んできた

 がんの術後のフォローアップは実地医家で――。ほかの地域でもこうした試みは始まっているが、徹底して行うというところが千葉県がんセンターの1つの基本方針となっているようだ。それはセンター長の竜崇正氏の一環した経営姿勢の反映でもある。「1年に1回くらい、手術した患者さんが元気な顔を見せてくれることを楽しみにしている」という医師は多い。しかし、患者が急増している現在、地域のがんセンターではそうした風景は過去のものになりつつあるのかもしれない。

診療部長の山口武人氏。膵臓がんの早期発見技術の研究にも取り組んでいる











初診患者の飛び込み大歓迎無駄を排し医療に専念

 「センター長に就任した2005年には、このセンターには問題が山積していた」と竜氏。当時、同センターは、毎年3億円を超える赤字を出し、経営母体である県から経営改善が求められていた(表1)。県による経営改善要求は人権費と材料費に的を絞った医業費の抑制のため、医学の進歩に見合った最先端医療技術の導入もままならない状況にあった。加えて、「病床稼働率を高く維持するという悪習」(竜氏)があり、必要以上の患者の入院が日常化していた。この結果、病棟運営が硬直化し、入院までの待機期間が長くなる傾向にあった。再発や腸閉塞など突発的な容態の変化に対応するためには、一定割合の病床を空けておく必要があるのに、その対応も十分ではなかった。

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